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2020年を振り返って~中村哲さんのドキュメンタリーと自分自身の振り返り~

大晦日ですね。今年は誰もが無関係ではいられない出来事により、しかし境遇によりダメージの種類も大きさも異なるが故に、自らと異なる他者に目を向ける機会となった年でした。

 昨日、NHK BS再放送の、アフガニスタンで医療と用水路建設の分野で大活躍した中村哲さんのドキュメンタリーを観ました。

 https://www2.nhk.or.jp/hensei/program/p.cgi?area=001&date=2020-12-28&ch=11&eid=03242&f=2443

 今年観た映像作品で一番良かったのではないかと思うくらい、骨太で、神々しく、明快で、深い作品でした。福岡の炭鉱労働者を束ねる祖父母がいて、境遇や人種(福岡は戦前から韓国系の人々も多かった)での差別を厳禁する教えが哲さんにも受け継がれ、キリスト教との出会い、親戚の大物作家火野葦平の影、変わり者だった青春時代、学生運動への参加と違和感、医者になってからの葛藤、息苦しい日本からの脱出機会を得てパキスタン、アフガニスタンへ……という、いくつもの出来事やきっかけが絡まりあい、哲さんは異国の民へと引き寄せられていきます。

 戦火が続くアフガニスタン、荒々しい野が引き起こす干ばつ、貧しい人々の苦しみに医を施しても、全ての源である水が不足していては、栄養不足や病、健康への根本解決にはならないと、周囲に大反対され「あの人大丈夫?」と眉をしかめられながら、用水路の建設に乗り出します。近代的な資材が全ては揃わない中での、巨大な岩等を積み上げ、人力で巨大な水の通り道を掘っていくアプローチでした。

 空爆中の米軍のヘリが近くを飛び交う中での工事、「自由と民主主義」の名の下に爆弾を落とす権力と、地べたを這いつくばり創造を行う人たちの現実を突いた哲さんの鋭い発言は、ポピュリズムへの理性による対抗のために度々持ち出されながらも、半ばお題目と化しつつある「自由と民主主義」の本当の意味について考えさせられます。

 水路建設に度々失敗し、独学で学んできた土木工学とは違うアプローチを学びに、故郷福岡の伝統的な施設を観察したりしますが、哲さんの観察力の源は、幼い頃友人と山に行き、蝶を取るために、蝶の動きを観察しよく理解した、というところに原点があったのかもしれません。

 それは蝶に成り切る、という事かもしれません。社会学者宮台真司さんも「道徳よりも何かに成り切れる力が大切。虫にも何にでも成り切れ。凄い奴に感染しろ」と度々言われていますが、数々の社会を見尽くした研究成果や毒舌、社会活動は地味に幅広く知られているところです。

 また。私が度々取り上げる国、キューバの革命英雄ゲバラ(彼自身はアルゼンチン出身)も、様々な人種や抑圧された人々に成り切ることを説いた名言を残しています。彼はボリビアの奥地で孤独に殺されました。そして医療の届かない数多くの途上国の一番の奥地や、世界中の災害の際に、キューバ人医師はいち早く国際協力に駆けつけます。それは外貨や石油取引、外交戦略上の工夫でもありますが、無償での支援も少なからずあり、純粋な連帯の意味も含まれているはずです。

 私自身、今年は行動に制約がかかった時期もあり、情報の接種、小説等の作品を作る、資格勉強、転職活動に向けた情報収集や準備、音楽等芸術の接種等々、インドア活動に大きく傾き、身体を動かせない中で心身のアンバランスに苦しみましたが、一方で、制約が比較的緩かった時期には各地に出掛けたり、いくつか寄付をしたりと、身体も動かし、他者への想像力を働かせることができました。

しかし他者への想像力は、こちらが一方的に他人に手を伸ばし情報を得る、という表面的な話ではありません。自分が弱り助けて貰いたい時に、言葉や行動で支えてくれた人や、気分転換に行った行きつけの店で、情報交換や有意義な買い物ができたりと、私が与えられ、ふとしたときにじわりと暖かさを感じる、想像が喚起されたものもあります。

 正直昨日観たドキュメンタリーは作品も題材もあまりに優れており、現実を生きることと思想のバランスが絶妙で、現実に引きずられ続けるか、思想や作品にこもるか、に分極しつつある現代からすれば、なかなか距離感もあるのかな、という作品でありました。

 しかし(大変残念なことですが)哲さんが襲撃され息を引き取られたのは去年なので、まだ現実は取り戻せるはずだし、私自身、今年の後半になり、現実に本格的に何かを変えようと活動されている多様な方の存在を知ることができました。

 来年は情報過多でストレス気味だった自分自身へのケアも怠らず、せっかく得られた学びの機会を現実のどこに置けるのか、自分自身がシャベルになったつもりで、あちこち掘り進めていけたらと思います。

 もちろん、先に道を掘って貰っていることは、今年もありました。そういう人々への感謝も忘れないよう進んでいけたらと思います。

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