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おすすめの曲⑨:ライネッケのフルート協奏曲

 フルート業界曲(フルートの世界では有名な曲だが、世間一般ではおそらくあまり知られていない曲)を紹介するシリーズです。第9弾は、ライネッケのフルート協奏曲と、フルート・ソナタ「ウンディーヌ」の2曲です。
 
 ライネッケは、ドイツ・ロマン派の作曲家です。フルート協奏曲、「ウンディーヌ」、いずれも、フルート界ではものすごく有名な曲です。しかし、きのう書いた「おすすめの曲⑧:ゴーベールの「夜想曲とアレグロ・スケルツァンド」」(リンクがはれなくてすみません)のゴーベールとは違い、ライネッケは「フルート業界作曲家」ではありません(ゴーベールは「フルート業界作曲家」の面がありますが)。ライネッケは、ピアノ協奏曲を4曲書き、そのほかに、オーボエ、ホルンとピアノのためのトリオや、クラリネット、ホルンとピアノのためのトリオといった作品があります。「管楽器の作品ばかりではないか」と思われたかもしれません。実をいうとですね、前にも書いたことで恐縮ですが、管楽器のロマン派の作品って、すごく少ないのですね。たとえば、ピアノ協奏曲は4つも書いていますが、ピアノ協奏曲はライヴァルが多すぎる笑。モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキー、ラフマニノフ、…と、名曲がたくさんあります。いっぽうで「ドイツ・ロマン派のフルート協奏曲」ならば、ライネッケの独り勝ちなのです!「ドイツ・ロマン派のフルート・ソナタ」もライネッケの独り勝ち!…やっぱり、たいしたことのない作品だと思われたでしょう。そんなことないんですって!協奏曲も美しいし、「ウンディーヌ」も美しい。どうぞ、先入観を捨てて、接していただければ、と思います。(ちなみに、オーボエ、ホルンとピアノという編成の曲では、ヘルツォーゲンベルクというライヴァルがいますが、ライネッケVSヘルツォーゲンベルクは、互角ですね。)

 業界曲のよさは、「その楽器(ここではフルート)のために書かれた」ということです。後述するつもりですが、たとえばブラームスのクラリネットソナタをフルートでやっても、あまりよくないのです。ライネッケがいかに有名でない作曲家であろうとも、「フルートのために書かれた」というのは大きいです。そして、くどいですけど、ライネッケの曲は、ほんとうにいいですから!どうぞお聴きください。

 ライネッケの作品で、最も一般的に聴かれているのは、もしかしたら以下の作品かもしれません。モーツァルトの、フルートとハープのための協奏曲という有名な作品がありますが、その、ランパルやラスキーヌのレコードで使われている、非常にロマンチックで完成度の高いカデンツァ。あれはライネッケの作だと言われています。私もこれを知ったのは、あるアマチュア学生オケの演奏会で、団員ソロ(フルートはともかく、ハープも団員ってすごいですね)で演奏されたときの、プログラムの楽曲解説で読んだことがあるという、ただそれだけの情報です。でも、いかにもライネッケが作ったという感じのする、とてもロマンチックなカデンツァです。いまどき、ライネッケのカデンツァは、なかなかやらないのかもしれませんが…。

 ライネッケの協奏曲は、やったことがあります。「やったことがある」って、オケをバックに、協奏曲のソリストとしてではないですよ!レッスンで習ったのです。(私は、協奏曲のソリスト経験が、一度だけあります。ブランデンブルク協奏曲第5番(第1楽章のみ)のフルートソロを吹いたことがあるのです。「協奏曲のソリスト経験」は、一生に一度、あれば、すごいほうですよね。)レッスンでは、全楽章、習いました。これは、もう、25歳の、発達障害の二次障害である精神病にやられてのちのことなので、いくらさらっても、ベホベホの、スカスカの音しかせず、寮も追い出され、近くの教会でさらっていて牧師にも迷惑がられるし、あまりいい思い出はありません。でも、曲そのものはいい曲です。いっぽうで、「ウンディーヌ」はやったことがありません。以下のような思い出があります。まだかなり若かったころ、あるプロのフルーティストから、ライネッケの「ウンディーヌ」の楽譜を買ってくるように、「お使い」を頼まれたのです。ある有名な楽器屋さんに行って、見つけました。袋に、2冊、入っていました。「これは、フルーティストのぶんと、ピアニストのぶんであろう」と思った私は、その袋ごと、レジに持っていきました。不幸なことに、レジの人も初心者だったのか、それを1冊の値段で私に売ってしまいました。それは、なんと2冊だったのでした!(レジの人、どうなっただろう…)とにかく、私の手元には、ライネッケの「ウンディーヌ」の楽譜が1冊、余りました。どうしよう。あるとき、遊びで吹いてみました。…難しい!歯が立たないほど難しいのでした。協奏曲をやったのはずっとのちですが、協奏曲のほうが、ずっとやりやすいです。なぜでしょうね。

 さて、演奏論です。ライネッケの協奏曲から行きます。この曲には、有名な録音があります。オーレル・ニコレのフルート、マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のアルバムで、ブゾーニの「フルートと管弦楽のためのディヴェルティメント」と、ニールセンのフルート協奏曲との組み合わせです。(ブゾーニの作品もすばらしく、また、ニールセンの協奏曲が、6つの交響曲よりのちの作品なのですが、すごい曲で、またニコレとマズアの演奏が極めてすぐれています。いずれご紹介できればと思います。)
この録音のころ、私の楽器の先生は、ニコレに師事していたようですが、レコーディングから帰ったニコレは、「あのオーケストラは最高だ!」と言っていたそうです。たしかに、このときのゲヴァントハウス管弦楽団は、すごくうまいです。ちなみに、ライネッケは、このゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者でした。(だから、このときのマズアの大先輩なのです。)ほかの演奏では、たとえばパユの2019年の最新録音がありますし(レプシッチ指揮ミュンヘン放送管弦楽団)、YouTubeには、ランパルの演奏があります(楽章間でコマーシャルの入る動画ですが)。

 また、「ウンディーヌ」のほうは、デボストの録音があります。とてもよいです(第3楽章とか、美しいですね)。パユの録音もいいのですが、アルバム全体としてはおすすめできません。上に少し書きましたが、ブラームスの2曲のクラリネットソナタのフルート版と組み合わされており、「やはりブラームスのクラリネットソナタをフルートで吹くのはよくない」ということを言っている演奏としか思えないからです(パユほどのうまい人がやってもうまくいかないのだから、誰がやってもうまくいかないだろうという)。YouTubeでは、ゴールウェイの動画があります。やはり楽章間でコマーシャルが入りますけど。

 さて、ブゾーニのその作品は、ニコレのCDにも含まれているほか、パユの協奏曲の2019年録音のCDにも含まれています。幼少のころから、世界の名作みたいな本を読んで育った私は、どうしても「ライネッケ」と聞くといまだに「きつねの裁判」を思い出し、「ブゾーニ」と聞くといまだに「巌窟王」を思い出します。クラシック音楽の世界に入ってきてからのほうがずっと長いのに、幼少のころの刷り込みはすごいですね…。

 以上です!

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