パユの無伴奏フルート曲2枚組CD

さて、久しぶりにクラシック音楽オタク話をだらだらと書こうかと思います。こういうときは、好きなCDネタです。6年くらい前に買ったCDで、すごく気に入っているものがあるのです。それは、フルートのパユによる、無伴奏フルート作品ばかりを集めた2枚組です。

テレマンに「12のファンタジー」という無伴奏フルートのための作品があります。ヴァイオリンにもあります。この無伴奏フルートのための12のファンタジーは、かつてレッスンで習ったことがあるのです。あるとき先生から与えられた曲でしたが、私は先入観なしで取り組みたいと思い、あえてなにも調べずに1回目のレッスンを受けました。なにも知らないので、第1番イ長調から練習して持っていきました。先生は「いちばん難しいのからやってきたな」と笑いながら言っていました。そんな、この曲集の最も難しい曲が第1番だなんて、知らないに決まっているではないですか。そのとき、先生から、やりやすい曲がどれとどれか教わり、メモしたはずなのですが、そのメモは消えて久しいです。

その、テレマンのファンタジーをパユがレコーディングしたというので、期待して注目しました。すると、なんとパユがその時点で録音していなかった無伴奏フルートの曲を、たくさん録音し、2枚のCDとし、そして、アルバムとしては、テレマンと交互に並べるというものなのでした。私はAmazon等で売りに出されるのも待てず、近所のタワーレコードに電話をして予約し、店頭で買い求めました。

買って帰って聴いて、これは想像以上のすごいCDだと認識しました。パユのうまさもさることながら、アルバムとしての完成度の高さに驚いたのです。

テレマンの12の曲は、いずれも調性がはっきりしています。テレマン以外の多くのフルート独奏曲は、20世紀か21世紀に書かれた近現代の作品で、しばしばテレマンほど調性ははっきりしません。つまり、テレマンと交互に聴くだけで、はっきりコントラストが聴きとれるのでした。これはすばらしい企画だと思いました。

最初が、武満徹の「エア」でした。これは大好きな曲です。武満の曲は、これと「ヴォイス」が選ばれています。後述のフェルーを除くと、このアルバムで、テレマン以外で、同じ作曲家の作品が2曲、選曲されている例はこの武満以外にはありません。武満徹の音楽の好きな私にはたまらないCDなのです。

「ヴォイス」で思い出すのは、これを発表会で、高木綾子さんのソロで聴いたときのことです。(私は高木綾子さんと同じ発表会に出たことがあるのですぞ!笑)鮮烈な名演奏であり、その直後、高木さんはこの曲で、神戸のコンクールで何らかの賞を受賞なさったと思います。このパユの演奏もすばらしいです。

そして、「エア」が終わると、テレマンの第1番が始まります。私はこのCDを聴くまでは、テレマンのファンタジーを習ってからかなりの年月が経過するため、正直、テレマンのファンタジーなどかなり忘れているのかと思っていたのです。ところが、意外なことに、かなり覚えていました。つぎつぎに覚えている旋律が登場します。懐かしい気分にひたれるアルバムなのでした。

つぎに、カルクエーレルトの熱情ソナタが入っています。これは、東大オケの時代に、2個上の先輩がよく練習していた曲で、いまだにその先輩のことを思い出してしまう曲です。カルクエーレルト(カーグエラートとカタカナ表記されていることもありますが)は、オルガンの世界で有名な作曲家らしいですね。オルガン界の作曲家の書いたフルート曲としては、ヴィドールの組曲という名曲がありますね。

順不同ですが、私の好きな無伴奏フルート曲で、ここに収録されたものをだらだら書きたいと思います。まず、ヴァレーズの「比重21.5」。これはプラチナの比重(密度)です。プラチナ製のフルートのために書かれた作品だそうです。この曲は私の先生が得意としており、先生のリサイタルでも聴いたことがあります。レッスンでこの曲の話題が出たこともあります。(このように難しい曲を習ったことはありません。)この曲は長いこと、ブーレーズ指揮のCDに入っているボールガールというフルーティストの演奏しかCDを持っていなかったものです。そのCDは、ヴァレーズの「アメリカ」「アルカナ」という、ストコフスキーが初演したものの、録音を残さなかった曲を聴くために若いころ買ったCDでした。のちに、ジャック・ズーンのCDを図書館で聴きました。それから、これはここ10年以内のことですが、やはり図書館で、LPレコードの、デボストによる演奏を聴かせてもらったことがありました。とにかく、有名な曲のわりに、あまりレコーディングがない気のする曲だったのです。パユが録音してよかった。ところで、たったいま検索して、この曲のニコレによる録音があるらしいと知りました。それも聴きたいものです。

オネゲルの「雌山羊の踊り」。これを最初に聴いたときは、これも東京時代、図書館にあったカセットテープで、デボストの演奏を聴いたときでした。のちにラルデのCDにも入っており、好きになった曲です。

フェルーの「3つの小品」。これは、このアルバムでは3分割されて入っています。この曲はパユの最初の録音で知った曲です。気楽に楽しめる近代作品というふうに認識しています。

ベリオのセクエンツァⅠ。この曲は長いこと加藤元章さんのCDでしか聴いたことのない曲でした。ムラマツ楽器にはニコレのCDが置いてあったものですが、いつも財布と相談し、買えないまま、30年が経過したわけです。じつは、LPではニコレ盤が存在し、いまから数年前、レコードの好きな元同僚(音楽の先生)の部屋で、レコードで鑑賞し、1回だけニコレの演奏で聴いたことがある次第です。これもパユのレコーディングがあってよかった曲です。

このほか、いろいろな無伴奏フルート曲が収録されており、興味は尽きません。ここに収録されなかった有名な無伴奏フルート曲としては、ドビュッシーのシランクス、イベールの小品などがありますが、おそらくそれらは、パユはすでに録音しており、意図的に避けてあるものと思われます。

最後は、マラン・マレのラ・フォリアで終わります。これは調性のある音楽であるため、テレマンと同じ並びで並べてあります。堂々とこの長いアルバムを締めくくっています。見事なCDであると言えましょう。

このCDは、先述の音楽の先生とは別の、ピアノとオルガンの得意なある先生に貸して、喜ばれました。「交互に入っているのだよね」。その博識な先生は、私の知らないうちに、亡くなっておられました。ショックでした。いまでもオタク話をしたら楽しいだろうなと思う大切な年上の友人でした。

貴重な録音がたくさんあり、また、聴いて楽しいCDです。好きなCDです!

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