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東工大のチェリビダッケ

これは私がときどき書くクラシック音楽オタクネタです。それでもよろしいというかたはどうぞお読みくださいませ。

東工大のオーケストラはしばしば聴きました。友人がいろいろ乗っていたからです。よく覚えているのが、指揮者の末永隆一先生です。チェリビダッケに師事したと経歴に書いてあり、芸風はチェリビダッケに似ていました。私が以下に書くような古い演奏会のころ、チェリビダッケは現役の指揮者であり、正式な録音は出ておらず、皆さんチェリビダッケの海賊盤のCDを聴いておられました。私も生でチェリビダッケの指揮は聴いたことがないのですが、末永先生の指揮から、「疑似チェリビダッケ体験」をさせていただいていたものです。末永先生は「東工大のチェリビダッケ」だと思って聴いておりました。

まず、1995年3月29日のワーグナーの「リエンツィ」序曲とベートーヴェンの「第九」です。末永先生の極端に遅いテンポに驚いたものです。あとから聞くところによると、ソリストの先生で、途中で帰ってしまったかたがいたようで、それでも末永先生はご自身のテンポを変えなかったのだとわかりました。第1楽章の最後の音だけ小さくなりました。仲間のなかには批判する者もいましたが、これも末永先生の主張のひとつだと感じました。全体的に非常に名演奏でした。

つぎに、1995年6月24日の、シューベルトの「未完成」と、チャイコフスキーの交響曲第5番です。これもチャイコフスキーが驚異的な遅さでした。前に記事にしたことのあるUFJ管弦楽団のチャイコフスキー5番と双璧の個性全開の演奏でした。末永先生は、ホールの響きによってテンポを決められるそうでした。

それから、1996年5月25日、ベートーヴェンの「コリオラン」序曲、チャイコフスキーの「テンペスト」、ドヴォルザークの交響曲第7番を聴きました。これも、とてつもなくゆっくりなドボ7であったと記憶しています。これに限らず、東工大は「いかにも理系の学生が選曲した」というプログラムだとしばしば感じました。

1996年11月30日、ワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲、スメタナ「モルダウ」、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」です。これは東大の仲間がヴァイオリンでエキストラとして乗っていました。とても楽しかったと言っていました。その前の年の東大での早川正昭先生の指揮した「英雄」とはうってかわって遅いエロイカであり、第2楽章の振り方にそれは如実に表れていました。

つぎが東工大オケを聴いた最後である気がしますが、1999年11月20日、モーツァルト「魔笛」序曲、プーランク「牝鹿」、ムソルグスキー=ラヴェル「展覧会の絵」でした。プログラムに先立ち、亡くなった団員さんの追悼演奏がありました。ブルックナーの交響曲第7番の第2楽章の一部が演奏されました。末永先生のブルックナーを聴いたのはこのときだけですが、はっきりと末永先生の実力はわかったものです。友人が聴いたブルックナー8番は、2時間かかり、ナントカブルックナー協会の人が「世界には本物のブルックナー指揮者が3人いる。チェリビダッケとヴァントと末永隆一だ」と言ったとか。当時はチェリビダッケもヴァントも現役でしたからね。私も東工大のブルックナーはもっと聴きたかったですね。この日の展覧会の絵も、開始からトランペットソロのテンポは遅くなり、末永先生の統率の力を見た気がしました。あたかもチェリビダッケの展覧会の絵のようでした。

そのようなわけで、東工大オケの思い出でした。末永先生は、現在でも東工大のオケを指揮しておられるようです。ますますのご活躍を!そして、お近くにお住まいのかたには、東工大オケをお聴きになることをおすすめいたします。疑似チェリビダッケ体験ができますよ。

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