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おすすめの曲⑫:モーツァルトのフルート協奏曲

 「フルート業界曲」(フルートの世界では有名だが、一般のクラシック音楽ファンのあいだでは有名でない曲)を紹介するシリーズですが、「今回はやけに有名な曲を出してきたな」とお感じになるかもしれません。しかし、私はこの「モーツァルトのフルート協奏曲(2曲)」も挙げようと思いました。その理由は、だんだん書いていこうと思います。

 このモーツァルトのフルート協奏曲(2曲)は、フルート業界では、知らぬもののない超有名曲です。しかし、一般の音楽ファンにとってはどうか。

 モーツァルトの作品で、モーツァルトが最も真価を発揮しているのは、オペラであるように思われます。その次くらいにモーツァルトの作曲したもので評価の高いものが「協奏曲」であるように思われます。では、どういうモーツァルトの協奏曲が好まれているか。まずピアノ協奏曲です。ただし、多くの人が好きなのは、有名な(20番台の)協奏曲であり、27曲とも好きな人はマニアです。それから、クラリネット協奏曲(1曲)も有名です。そして、フルートとハープのための協奏曲も有名。ついで、ホルン協奏曲(4曲)か、ヴァイオリン協奏曲(5曲)でしょう(ただし、ヴァイオリン協奏曲を5曲とも好きな人はマニア。「第6番」や「第7番」(偽作)を好きな人もマニア)。ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲や、4管楽器のための協奏交響曲も有名でしょう。しかし、フルート協奏曲やオーボエ協奏曲、ファゴット協奏曲はそこまで有名か?どうも私も、フルート業界に長く身を置きすぎていて、感覚がマヒしていますが、(フルート協奏曲第2番とオーボエ協奏曲はだいたい同じ曲だからアレとして、)たとえば、フルートをやる人のなかで、ファゴット協奏曲は有名でしょうか?モーツァルトのファゴット協奏曲は、ファゴットをやる人たちのあいだでは、知らぬもののない超有名曲ですけど…。やはり、あまり有名とは言えない気がします。したがって、モーツァルトの協奏曲のなかでは、フルート協奏曲は(ライネッケやゴーベールとは比較にならないくらい有名ですけど)、あまり有名な曲ではないのかな、と思いまして(つまり、なかばフルート業界曲)、ご紹介する気になりました。

 (ちなみに、フルート四重奏曲第1番ニ長調は、「有名曲」と言っていい気がします。これは、どんなモーツァルトの弦楽四重奏曲よりも親しまれているように感じます。ただしこれもクラリネット五重奏曲は、もっと有名でしょう。)

 モーツァルトのフルート協奏曲、第1番ト長調、第2番ニ長調、いずれも、30分かからない、モーツァルトの協奏曲としては標準的な規模の作品で、いずれも、親しみやすいメロディ、モーツァルトらしい明るさ、華やかなフルートソロに彩られており、名曲だと思います。ただ、演奏頻度はだいぶ違います。第2番のほうがずっと演奏頻度は高いです。これにははっきりしたいくつかの理由があります。まず、オーケストラの難易度。第1番はト長調なので、ホルンは、高いDまで、普通に出さねばなりません。ニ長調の第2番とはだいぶ違います。第2番はよく聴きますが、第1番は、私は1度しか生で聴いたことがありません。あるアマチュア学生オケに、故・中野富雄(なかの・とみお)さん(当時のN響の首席フルート奏者であられた。とてもうまいかた)が客演して、やられたのです。まあ、ホルンさんは、3分の1くらいの音は外されましたね。(第2番も、2楽章はト長調で、1か所、ホルンは、高いDが目立つところがありますが、第1番とは比較になりません。)私は、この2曲は、レッスンで習ったとか、いっさいないのですが、後述するつもりですが、第2番は、指揮をしたことがあります。フルートソロも、第1番のほうが、やや難しいと聞いています(私の先生から聞いた話です)。第1番は、オーケストラパートのフルートは、第1,3楽章がタチェット(全休止)。ちょっと不自然ですよね。第2楽章は、オーボエがタチェット。つまり、当時は、オーボエがフルートに持ち替えていたということです。このへんも、アマチュアオーケストラが、なかなか第1番をやらない要素のひとつのような気がします(プロはよく知りません)。

 (ちなみにファゴット協奏曲は変ロ長調なので、ホルンは冒頭から高いFを出さねばならない。鬼!)

 とにかく、おもにオーケストラの難易度のせいか?第2番がやられることのほうが多いです。名曲の度合いとしては、同じくらいですので、どうぞお好きにお聴きください。さきほども書きましたとおり、第2番は、オーボエ協奏曲(1曲)と、調が違っていて、あと細かいところがいろいろ違いますが、だいたい同じ曲ですので、その聴き比べもたのしいかもしれませんね。

 さっきちょっと触れましたが、私はこのモーツァルトのフルート協奏曲は、レッスンで習ったこともなく、やったことはないのですが、第2番を指揮したことがあります。教師であったころ、オーケストラ部の顧問で、学生オーケストラで、学生ソロで、です。人前で指揮したのは第1楽章のみ、練習指揮は、全楽章、いたしました。これをもって「モーツァルトのフルート協奏曲第2番は、やったことがある」と言っていいのかどうかは、「バナナはおやつに入りますか」議論みたいですが、とにかくソロパートを吹いたことはないわけです。(あそびではありますけど。)

 楽譜を買うところからたいへんでした。私の先生に聞いてみたら、ブライトコプフがおすすめのようでしたが、ベーレンライターしか在庫がなく、ベーレンライターになりました。どこで買うか。ムラマツ楽器で買うことになりました。電話して、「モーツァルトのフルート協奏曲が買いたい」というと、ああそれですね、という感じでしたが、「指揮者用スコアと、すべてのパート譜を」というと、店員さん、急にびっくりなさったようでした。(そうでしょうね。)でも、ムラマツで買えました。カデンツァは、これも私の先生に聞いて、ドンジョンのものにしました。ドンジョンのカデンツァは有名で、しかも学生らしく、こういう演奏にふさわしいです。(ピアノをやっている仲間の顧問から、「カデンツァはついてないの?(けち)」と言われましたが、そうなんですよ、モーツァルトはピアノ協奏曲のカデンツァは書いているでしょうけど、フルート協奏曲のカデンツァは書いていないのでね。)

 そういうわけで、学生ソロでアマチュアでフルート協奏曲をやろうとしている人へアドバイスを書きますと、まず、モーツァルトの2番しか考えられません。イベールや、ライネッケ、ニールセンや、ハチャトゥリアンなど、まずオーケストラが難しすぎます。(ソロも難しいですけど。)ですから、なかなかやらないので楽譜もそんなに出回っていませんし。そもそも、何度も書いていますけど、ピアノやヴァイオリンと違って、管楽器はそんなに華やかなコンチェルトが山のようにある状態ではないのです。せめてわれわれ管楽器の人間は、管楽器のための協奏曲をたくさん書いてくれたモーツァルトに感謝するしかありませんね。

 というわけで、これは、ほんらいは、音楽鑑賞なさるかたのための記事でした。

 いままでの「フルート業界曲」に比べますと、はるかに有名ですので、YouTubeで気軽に聴けます。ここで、「古楽器による演奏でなければ嫌」というかたもいらっしゃると思いますが、私はA=440Hzの絶対音感がありますので、古楽器は気持ち悪くて聴けない、ということがあります。古楽器を憎んでいるわけではないことをご理解いただければ、と思います。さっき確認しましたが、ニコレ(フルート)、リヒター指揮ミュンヘンバッハ管弦楽団の動画は、2曲とも、日本語で書いてあるものがYouTubeに存在します。いずれも、楽章間でコマーシャルなどは入りません。

 というわけで、モーツァルトのフルート協奏曲を、よろしくお願いいたします!

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