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テレビ番組で数学の問題を出題した話

 最初にお断りしておきますね。「テレビ番組」と言っても、放送されていないと思います。ただ、テレビ局って、こうして、放送はされないものの、いろいろな企画をやっておられるのですね。そういうの何と呼んでいいかわかりませんので、ここでは仮に「番組」と呼ぶことにいたしますね。

 きのう、クイズ問題の奥深さについて書きましたが(リンクがはれなくてすみません)、そのことを踏まえると、ほんとうに冷や汗をかくような経験をしていますので、ずいぶん前の話ですが、書かせていただきたいと思います。

 大学院をやめて1年くらいしたころ、すなわち、ある町で数学の教員をしていたころ、ある東京のテレビ局の「番組」に出題者として出演することになったのです。

 私は、「下っ端」でしたので、詳しいことはなにも知りません。言われるままに、予選の問題を作ったりしているうち、本選の日がやってきました。2007年7月1日のことでした。久しぶりに東京へ行きました。理系の頭脳を競う番組で、全国から、予選を勝ち抜いた、「理系脳」自慢の大学生が集まっていました。大学別で、1チーム3人。10チームくらいあったでしょうか。

 結論から言うと、かなりグダグダな番組になってしまったのですが、その様子を書きますね。

 リハーサルのとき、原稿なしでしゃべろうとしていた私は、まったくしゃべれないので、あわてて原稿を書いたり。(私はしゃべるのが苦手ですからね。)

 出演は、その、大学生の回答者たちと、問題出題の私と、もうひとり、出題の先輩がいました。それから、司会のアナウンサーの男性と、タレントさんは、ピーター・フランクルさん(ご存じ、数学者でかつタレントさん)と、当時、たいへん人気のあった、「十代の女の子さんタレントさん」。

 これで、私の出題がよくなかったのです!

 やさしすぎた!中学生でも解けるような問題をいろいろ出してしまった!

 相手は、全国の名門大学の、とくに「理系脳」に自信のある学生さん。

 こんなに簡単な問題が出たら、「早押しクイズ」になってしまいますね。

 じつは、私は、「少し前まで名門の大学院にいた、学者肌の高校の数学教師」ということで、出題および出演を頼まれたのだと思いますが、これは、きのうの話からしても、私は不適切でした。なぜなら、「回答者のレヴェルにあわせて出題する」ことができていなかったからでして、いまのほうが、ずっと、そういう学生さんの「顔(レヴェル)を見ながら」出題することができると思います。例としては、2019年の東工大の入試問題を当てた話を以前、書きましたが(リンクがはれなくてすみません。「2019年の東工大の入試の数学の第4問、当てた。」という記事をご覧くだされば、と思います)、だいぶ、どういう問題が、こういうときに「良問」と言えるのか、わかってきましたしね。ですから、こういう番組への出演は、ある程度、高校生の発想に慣れ親しんでから出演すべきものだったのだと思います。

 しかし、それでも、すごくやさしい問題を出していた私でしたが(やさしい問題だけだったわけではありませんが)、学問的には意味のある問題を出していたりして、そこは「やや学者肌」だったのですが、以下のような出題を記憶しています。私は「さいころを6回ふって、1から6までの目が、各1回ずつ出る確率は?」という問題を出しました。これなどは、高校の確率の教科書の、かなり初歩的な問題として載っていてもふしぎはないほどやさしい問題で、また「早押し問題」になってしまいましたが(6の6乗分の6の階乗。答えは、約分して、324分の5。これ、あってますかね?いま、計算したんですけど)、正解が出た後、私が解説を言う時間があり、私は、大数の法則というのがあって、たくさんさいころをふったら、それぞれの目の出る割合は、どんどん6分の1に近づいていくけれども、たった6回しかふらなかったら、均等に出る確率は、こんなに低いのです、と言いました。ピーターさんらとはなんの打ち合わせもしていませんでしたが、今思えばピーターさんの、タレントさんとしてのフォローですが、「そうですねえ、たった6回しかふらなかったら、均等に出る確率は、2%にも満たないのですねえ」と言ってくださいました。これは、いま考えれば、「数学者である」かつ「タレントである」ピーターさんの、精一杯のフォローでした。
 その「十代の女の子さんのタレントさん」は、しきりに感心しているようでした。会場全体を見ても、問題そのものはわからなくても、すばやく正解を出す全国の名門大学の学生さんに、感心する雰囲気があったと思います。

 さて、私の恥ずかしい出題者としての話はこれくらいにしたいのですが、この番組は、上位2チームが、最終決戦に勝ち残れる仕組みでした。残ったチームは、東大と東大でした。(東大は、2チーム出ていたのですが、その2チームが、最終決戦に勝ち残ったということでした。)そこで、最後にまたひとこと、ふられたのですが、なんと私は、いちばんかんじんなところで、かんでしまった!これは恥ずかしかった!放送はされない番組でしたが、放送するのなら取り直してほしいくらい!

 最終決戦の問題は、ピーター・フランクルさんの出題でした。2チームに、数を使ったあるゲームを提示し、勝ったほうが優勝ということでした。そして、ピーターさんは、「このゲームには必勝法があります。それを見つけてください」と言いました。しばらく、2チームに考える時間が与えられました。そのあいだの時間、どうしていたのか…。その「女の子タレントさんの歌」とかあったかもしれません。忘れました。さて、時間いっぱいとなり、対戦の時間になりました。なんと、2チームとも、必勝法を見破れていませんでした!これは、きのうのnoteの記事(何度もすみません。リンクがはれなくて申し訳ございません)にも出て来ましたが、「難しすぎる問題もダメ」ということで言うと、ピーターさんも、少し出題を失敗なさったのです。しかし、ゲームなので勝敗はつき、優勝チームと準優勝チームが決まりました。ここから先は、テレビ局さんの失敗みたいなものになります。優勝チームの賞品は、「学園祭に有名人を呼べる権利」で、準優勝チームの賞品は、賞金でした(聖書クイズの賞金も、かなり奮発していましたが、さすが、テレビ局の奮発ぶりは、すごいものがありました)。ここで、2チームとも同じ大学であったことから、「学園祭(駒場祭でしょう)に有名人を呼べる」のは準優勝チームも恩恵にあずかれるということであり、賞金がもらえるぶん、準優勝チームのほうがずっと得だったのです。というわけで、みなさん、グダグダな番組でした…。打ち合わせがほとんどなかったからな…。

 これは、十余年前の話です。その当時で、ピーター・フランクルさんは、かなり老けてみえました。ただし、メイクをして番組に登場すると、そんなに老けてみえませんでした。私には、ピーターさんや、女の子タレントさんに、サインをもらったり、いっしょに写真を撮ってもらうなどのことは思いもよらなかったことです。とくに、少し前まで大学院生だった私は、大学院の先生、先輩、同輩、後輩に、数学者として、ピーター・フランクルさんよりずっとすごい人をたくさん知っていたので、サインをもらうなどということは、考えられなかったということもあります。(ただし、当時、大学院の先生や同輩でも「ピーター・フランクルや秋山仁は、どんな業績があるのか知らないが、あんなにテレビに出て、けしからん!」というような風潮はまったくありませんでした。みなさん、ピーターさんや秋山さんには、自分たち(普通の数学者)にはない、「多くの人にわかりやすく数学の魅力を伝える才能」があるということで、認められていたのだと思います。もっとも、いちばん大きな要素は、「眼中にない」でしたでしょうけれども。)

 いちばん楽しかったのは「打ち上げ」で、学生気分の抜けていなかった私は、すっかり、優勝チームと準優勝チームの6人と打ち解けて、いっしょに東大の校歌や応援歌を歌ったり(あまり彼らがそれらの歌を知らないので「え?いつも駒場の生協の前で、応援部が歌っているでしょ?きみたち、こんな番組ばっかり出て、ほんとうに学校に行ってる?」みたいなことを言ったと思います)、たのしい打ち上げのひとときでした。

 番組終了後、テレビ局にメールしました。とにかく私はテレビ出演には向いていない。これ以上の依頼はかんべんしてください、と書き、そして、代わりのものを紹介しました。私の理学部数学科の後輩で、明らかに研究者タイプではなく教育者タイプで、タレント性もあり、私は「彼はポスト秋山仁です」と書いた覚えがあります(十余年前の話です。いまよりもっと秋山仁さんは出ていた)。さすがに、もう私に出演依頼は来なかったですけど、彼がそののちタレントとして活躍することもありませんでしたね。

 彼には、そのようなメールをテレビ局に出すことで、あらかじめ許可を取りました。彼は、なんと、その女の子タレントさんの発言(「がり勉を見直した」みたいな発言をしていたらしい。たしかに彼女、しきりに感心していましたからね)から、そういうことがあったことを知っていました。「そうだったんですね」という話になりました。

 とにかく、あのときの出題はくやしいですね!もっといい問題は、いまならたくさん出せるのに!

 あまりに情けない記憶なので、封印していた記憶ですが、きのうのnoteの記事など、このところ、「クイズ」(出題)にかんして、いろいろ目を開かされる出来事が続きましたので、この封印されていた記憶を思い出した次第です。恥ずかしい話、くやしい話ですけど、番組全体がグダグダだったのと、打ち上げが楽しかったという思い出です。つまらない話でしたね…。ごめんなさいね。ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

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