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おすすめの曲④:クーラウのトリオop.119

 こんばんは。かつて、「レッスンで習った珍しいフルートの曲」という題の記事で、「フルートを習っている人の多くもおそらく知らないであろう、かなり珍しい曲」というものを、一気に紹介させていただきました。この「おすすめの曲」というシリーズでは、「フルートをやっている人のあいだではかなり有名だが、一般の音楽ファンにはあまり知られているとは言えないけれど名曲」みたいなものを少しずつ紹介しています。4回目の本日は、フリードリヒ・クーラウの「2本のフルートとピアノのためのトリオ ト長調op.119」を取り上げますね。

 まず、クーラウと聞いて、クーナウとかんちがいなさるかたがときどきおられるので、ひとこと。クーナウという作曲家は、「聖書ソナタ」で知られる、クーラウよりもずっと古い作曲家で、「聖書ソナタ」も、興味のあるかたはお聴きくださいという感じなのですが(なぜか知りませんが、チョイスされている聖書の箇所が、けっこうマニアック)、さて、クーラウです。私は、フルートとピアノのための変奏曲ト長調op.105、フルートとピアノのための変奏曲ヘ長調op.104、2本のフルートのためのデュオop.10a、などをレッスンで習いましたが、それらは、あまり有名とは言えないものです。(op.105は少し有名かな。「庭の千草」変奏曲。)それに比べて、このop.119のトリオは、かなり有名で、フルートをやっている人の多くが知っている曲です。実際、名曲だと思います。ですから、ご紹介したくなったのです。

 しかし、この曲も、(第1回のイベールと並んで、)レッスンで習った曲ではありません。仲間と室内楽をすることになり、集まったメンバーが私を含めてフルート、フルート、ピアノであり、この編成でオリジナル曲を探すとなるとかなり限られており、この曲をやることに決まった、という次第なのです。長さの関係で、われわれは第1楽章しかやりませんでしたが、全3楽章、名曲ですので、どうぞ、お聴きになるかたは、全楽章、お聴きください。

 クーラウって、どこのなにものか、と申しますと、だいたいベートーヴェンと同時代くらいの、デンマークの作曲家です。上に書きました通り、かなりフルートの作品が多いですが、とくにクーラウ自身がフルートを吹いたわけではないそうです。曲の感じは、古典派ですね。ただし、後述する「妖精の丘」みたいな作品は、まるでウェーバーのようで、ちょっと「魔弾の射手」っぽい響きがします。古典派~初期ロマン派、くらいの作曲家と思っていただければ。

 クーラウの作品で、抜群の知名度の作品があります。じつは、ピアノ学習者にはおなじみの、「ソナチネ・アルバム」のなかに、けっこうクーラウの作品は含まれており、まず、第1番の、ハ長調のソナチネが、クーラウの作品です!あの、よく子どもが弾いてるやつ!よく、ピアノの発表会でも聴くやつ!あれですよ。op.20-1と言います。よろしくお願いしますね。ちなみにこの曲を遊びでフルートで吹いてみたことがありますが、驚くほどフルートにぴったりで、なるほどクーラウがフルート作曲家として成功したのもわかる気がしました。

 というわけで、フルート2本とピアノ、っていう曲は、意外に少ない。少なくとも、「ヴァイオリンとチェロとピアノ」という曲が、びっくりするほどたくさんあるのに比べたら、ずっと少ない。じつは、われわれがやるよりかなり前、学生時代に、先輩から、2本フルートの曲をやろうと言われたことがあり、それは教育の一環だったのですが、そのときに先生に曲を聞いたときに教えてもらった曲のひとつでした。あとは、ドップラーに「アンダンテとロンド」をはじめとするいくつか(けっこうたくさん)の曲があるのと、あと、バッハにもある(ト長調の。ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタと重なっている。逆に、ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタから復元された2本フルート・ソナタの楽譜もある)し、じつは矢代秋雄(やしろ・あきお。「やしろ・あき」ではない)にもある。ケーラーという作曲家にもありますが、ちょっと、あまり本格的な曲とは言えません。そんな感じです。

 そのなかでは、かなりいい曲といえるこの曲。私は2番フルートを吹きましたが、2番はじつは、ファゴットでもよく、チェロでもよく、ヴァイオリンでもよい。実際、私は、自分の先生が、ヴァイオリニストとこの曲をやっているのを聴いたことがあります。

 にもかかわらず、われわれがやったときのピアニストは、内心、不満そうだった。それはね、ピアニストは名曲に恵まれているからね。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタだけで10曲あり、チェロ・ソナタだけで5曲もあるし、だいいちピアノ・ソナタが32曲もあるし!ベートーヴェンと比較されちゃあ、それはクーラウは不利だと言わざるを得ませんが、私はそういう人を相手にこういう記事を書いているわけではありません。曲とも「出会い」ですから。「出会った曲を好きになる」、いいんじゃないでしょうか。木久扇さんも言ってますよ、「ここで逢うたも何かの縁、遊んでいってくんなまし」。それに尽きるのではないでしょうか。

 ちなみに生前のクーラウは、生前のベートーヴェンよりずっと売れており、しかしクーラウはベートーヴェンを尊敬しており、デンマークからはるばるベートーヴェンをたずねていって、ベートーヴェンになにか皮肉を言われて帰ってきたみたいですが、そういう作曲家がいてもいいではないですか。

 さっき、ちょっと触れた「妖精の丘」op.100について書きますね。これは、クーラウの劇付随音楽(劇伴)で、デンマークではかなりよく知られた音楽です。かつて、フルート・オーケストラによる(!)上演を、生で聴いたことがあります(ソリストの歌手のひとりが、教会の人のおじょうさんで、招待券をいただいた)。デンマーク関係の要職の人のあいさつから始まり、いかにクーラウがデンマークで尊敬されているかがよくわかりました。その一晩で、すっかり「クーラウ教」に洗脳されて帰ったものです。あまり言うとひいきのひき倒しになりますが、少なくともこのop.119のトリオは名曲ですからお聴きいただきたいです。

 演奏ですが、そもそもベートーヴェンほど選択肢の多い作品ではありませんので、なんでもいいから聴いてくださいとは言うものの、おすすめの演奏は、ランパル/工藤重典/リッターかなあ、と。ただ、ランパルはめちゃくちゃうまいですけど、すべてランパル流に味付けがなされてしまうので(そして工藤さんもその路線だし)、ちょっと「古典派のトリオ」を聴くにしてはランパル色が強すぎる気もします。しかし、グラーフも、シュルツも、悪くないですけどね。ルン=クリスチャンセンという、クーラウの全フルート作品の録音をしている(ずいぶん前の話ですけど、完結しているんですかね)フルーティストがいますが、そんな録音はなかなか聴けないし。第2フルートが、ファゴットでも、チェロでも、ヴァイオリンでもいいので、どうぞお聴きください。そして、「妖精の丘」の序曲もお聴きください。ちょっとしたウェーバーの序曲です。そして、ピアノの弾けるかたは、ぜひ、ソナチネ・アルバムを出してきて、クーラウのソナチネをもう一度、弾いてみてください。予想以上にいい曲です。

 そして、デンマークでは、このクーラウよりあとの時代に、ニールセンというまた偉大な作曲家が誕生し、そのニールセンも、フルート協奏曲というものを書いているのですが、それについては、またいつか、語りたいと思います。本日はここまでです。ありがとうございました。

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