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ヒップホップとイベールとラフマニノフ

 (これは私がときどき書くクラシック音楽ネタです。それでもよろしければどうぞお読みください。忘れがたいある日の出来事を書いています。ただし、私の書くことはすべてフィクションですよ。)

 ある年のある日のことです。あさからある教会に行きました。礼拝に出て、仲の良い牧師の説教を聴きました。午後はその教会でパーティーが行われました。そのパーティーの出し物に、2つ、出ました。ひとつはピアノで、もうひとつはフルートで出ました。

 まず、ピアノの本番のほうです。私は、絶対音感があるのみならず、世の中で流れている音楽のほとんどは、耳だけで聴きとれており、その気になれば、すべて楽譜に書き起こせるという特技があります。その教会でのある友人のために、いろいろ「採譜」(耳コピ)をしていました。よく、それらを祈祷会の前奏などで弾いて楽しんでいたものです。(これは「彼のため」というより、「仕事で叱責ばかり受けてつらい思いをしている私のため」という側面が大きかったです。彼の好きな音楽を採譜できることは、私の喜びだったのです。)そのうちの1曲(曲名は知りません。たしか彼は「ヒップホップ」だと言っていました)を私がピアノで弾きながら、彼がラップを披露するという出し物がありました。なかなか複雑な和音の使ってある曲でしたが、私はきちんと採譜できていました。忘れていなければ、いまも弾けるはずですが…。まずまずの出来だったと思います。

 それから、フルートの出番です。こちらが私にとってはほんとうの本番のような感じでした。イベールの「2つの間奏曲」という曲をやりました。これは、フルートとヴァイオリンとハープ(もしくはチェンバロ)のための室内楽です。ハープ(もしくはチェンバロ)のパートは、ピアノで演奏しました。ヴァイオリンの仲間と、ピアノの仲間との共演でした。私は、25歳のときの、発達障害の二次障害である精神障害を境に、なぜかフルートがへたになってしまいました。以来、ずっとフルートはへたなままです。「精神病を境に楽器がへたになった」という人に、ほかに会ったことがありませんので、このくやしさを分かち合える人もいません。どれほど「練習すれば戻るよ」という空しい言葉を聞いたことでしょうか!(しかも、それに対して「いや、どんなに練習しても戻らない」と反論することもできないし!)とにかく、この日は、その25歳の日よりもあとの日のことです。練習では、私はひたすらひどい音を出していました。それが、本番だけ「本番の神様」が降りてきて、わりとマシな音がしたのです。スマホで撮った人の録画をちょっと見ましたが、たしかに(25歳以前とは比較になりませんが)マシな音がしています。この曲にかんしては、記事を書いたことがあります。リンクをはるのはやめておきますね。(しかしこの曲、とてもいい曲で、近代フランスの室内楽が好きなかたには気に入っていただける可能性がありますので、よろしければお聴きくださいね。ただし、YouTubeで満足のいく演奏には出会いませんので、YouTubeのリンクもはらないことにいたしますね。)

 さて、この同じ日に、私の別の仲間が、アマチュア・オーケストラの本番を迎えていました。その仲間とは、お互いにお互いの本番が聴きたいね、と言っていたのですが、たまたま同じ日であることがわかり、あきらめていたところでした。しかし、私の本番は早い午後で終わり、彼の本番は夕方からで、場所も近かったので、私は彼の本番を聴きに行くことができました。(彼は私の本番を聴くことはできません。おそらく本番前の最終練習だったでしょう。)プログラムは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番と、同じくラフマニノフの交響曲第2番でした。(ほんとうは前プロとして、あと1曲、やりました。この2曲だけで、プロのオケならばじゅうぶんです。実際、おととい(2021年10月23日)も、これとまったく同じプログラムがあるプロのオケで演奏され、私の友人が聴きに行ったようです。ここで、なぜアマチュアがもう1曲、演奏するかと言いますと、それは、おそらく乗り番の確保のためです。つまり、あと1曲やらないと、出番のなくなってしまう団員がいるためと考えられます。私もアマオケをやっていましたから、そういうことは想像がつきます。生で聴くのは初めての曲でした。)

 ホールにつくと、たまたまある知人に出会いました。ピアノの教師をしている知人でした。その人は、この日のソリストが、知り合いの教え子さんなのか?教え子さんの知り合いなのか?よく覚えていませんが、そういうことで、当日券をあてにして聴きにきていたのですが、当日券が売り切れており、帰ろうとしていたところでした。私はその出演する仲間に、招待券を当日預かりにしてもらっていました。私は当日預かりの受付で、ダメ元で、もう1枚、もらえないか聞いてもらったところ、なんと、もう1枚くれました!それで、そのピアノの先生も、私といっしょに聴くことができました。

 さて、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番です。これは、ご承知のとおり、かなり有名な曲ですが、私はこれが生で聴く2回目でした。1回目はだいぶ前で、私が20歳くらいのころ、すなわち25歳の大病よりも前、高校時代の仲間が出演するアマチュア・オーケストラの演奏会で聴いたのでした。そのときのソリストが最悪で、ひどいときは右手と左手の弾いているところも違うありさまでした。よくもまあ、止まらないで最後まで行ったなあ、という演奏でした。それが長いこと、私がこの曲を聴いた唯一の経験でした。行く演奏会は、曲で選ぶというより、「友人が出演する」という基準で決めている私は、こうして聴く曲目にかなり偏りがあります(アマチュア・オーケストラはプロオケと比べてあまり協奏曲を演奏しません。ソリストを呼ぶだけでお金がかかってしまうからです。その代わり、たまに協奏曲をやると、客としては、著名なソリストが、格安で聴けるというメリットもあり、おかげでだいぶいろいろなソリストをアマオケで聴いてきました。私自身は、著名なソリストとの共演の経験はほとんどないのですが)。演奏会とも「出会い」だと思っていますので、どれだけ聴くレパートリーが偏っても、こうして私は演奏会を聴いてきました。そういうわけで、人生で2回目のラフマニノフの協奏曲第2番でしたが、このときはすごくいい演奏に恵まれました!非常に個性的な演奏でしたが、それがまたよい。速めのインテンポを守った演奏で、ひとことで言うと、作曲者の自作自演に近い演奏でした。こういう辛口のラフマニノフ演奏は、大いに歓迎です。オケとのバランスもとてもよかったです。ようやく、この曲を、満足いく演奏で聴くことができました。

 (以下に、その、作曲者自作自演のこの曲のYouTubeをはります。律儀にお聴きになる必要はございませんよ。スルーなさってくださいね。有名な録音です。オケはストコフスキー指揮フィラデルフィア管弦楽団です。ラフマニノフ/ストコフスキー/フィラデルフィア管弦楽団によるこの録音は2種あり、ひとつはアコースティック録音、もうひとつがこの電気録音です。前者はマニア向けです。細かく言うともっといろいろなテイクがあるみたいですが…。)


 (もう少し脱線をしますと、私がほかにラフマニノフの協奏曲を聴いた経験としては、第3番をタラソフ/小泉和裕/都響で、またパガニーニ狂詩曲を野島稔/外山雄三/神奈川フィルおよび中村紘子/スヴェトラーノフ/ロシア国立響で聴いた、ということがあります。この3つの演奏会は、すべて記事にしたことがありますが、もうくどいですので、リンクははらないことにいたしますね。)

 さて、後半の交響曲第2番です。これもいい演奏でした。第1楽章の繰り返しもきっちり行う完全全曲版です。もっとも、半世紀前と違って、この曲をノーカットで演奏するのは当たり前のことになって久しいですが。この曲を生で聴くのは4回目でした。残り3回の順番は不明ですが、1回はアマチュア学生オケ(東大オケ)、残り2回はプロオケでした(外山雄三指揮と川瀬賢太郎指揮。いずれも記事にしたことがありますが、これもリンクをはるのはやめておきますね。おとといの指揮者も川瀬賢太郎だったらしいですね。オケは違いますが)。

 東大オケで聴いたときも、かなり驚いた記憶があります。少なくとも私が東大オケにいたころには、考えられない選曲だったのです。弦楽器に多かったタイプですが、モーツァルトやベートーヴェンやブラームスでなければ「曲ではない」と言い切る「本格派」の学生がけっこういたのです。ラフマニノフの交響曲が取り上げられるというのは、私が学生時代は考えられませんでした。しかし、その東大オケで聴いたときでさえ、今から20年くらいは前の出来事ではないかと思われ、このラフマニノフの交響曲第2番は、いまでは、アマオケでもかなり人気の高い曲になっているのでした。このように、クラシック音楽の世界でも、「はやりすたり」はあるものです。ところで、ラフマニノフには番号つきの交響曲が3曲ありますが、私は1番や3番を生で聴いた経験はありません。3番はけっこう好きな曲ですので、いつか生で聴ける機会があればいいなと思っています。

 そんなわけで、この日のラフマニノフの交響曲第2番もとてもよい演奏で、たいへん満足しました。その友人の雄姿も見られましたし。

(ここで、ラフマニノフの交響曲第2番のYouTubeをはります。ストコフスキー指揮ハリウッド・ボウル交響楽団による1946年の演奏で、この曲の最も古いノーカット録音と言われています。ブログの世界では、この曲の最も古いノーカット録音は、プレヴィン指揮によるものだと書いている人が多いようですけどね!セッション録音に限っても、クレツキ指揮の録音のほうが古いですよ。このストコフスキーの演奏も、とてもいい演奏ですが、なにしろ50分以上かかる長い曲ですし、律儀にお聴きになる必要はございません。スルーなさってくださいね。)


 いろいろ伏せながら書いていますので、うまく皆さんと思いを共有できませんが、この日は、もろもろあって、一石十鳥くらいだったのです。密度の濃い一日でした。コロナ以来、めったに生演奏を聴く機会がありません。また、生演奏を聴きたいものです。本日はこのへんまでです。お読みくださり、ありがとうございました。

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