両親の洗脳

 私は、先週から、家庭の事情で帰省をし、そのまま、この、住まいからかなり遠い町にある実家で、老いた両親と3人で暮らしています。3人になったのは、つい先ほどですが、もうすでに、両親の洗脳に巻き込まれそうです。

 私の両親には、少しでもわかってもらおうと、奥田知志さんの著書などを「課題図書」と言って、すすめています。読んでいるようです。彼らは知能は高いので、読めます。「助ける側と助けられる側が固定化されるのは、よくないことだね」などと、いっちょまえのことも言います。しかし、彼らは、根本的にはなにもわかっていません。彼らは、たまたま、先日のNHKの「抱樸」(奥田さんが理事長を務めるNPO法人)の番組も見たようです。しきりに、奥田さんはすごいとか、伴子さん(奥田夫人)はもっとすごいとか、賛辞を並べていました。しかし、私が、「私も奥田先生と同じだ」と言うと、彼らは仰天して、否定しました。私が「でも『あんたもわしも おんなじいのち』と抱樸では書いているではないか」と言うと、以下のように言い放ったのです。

 「そりゃ、『おんなじいのち』なのは当たり前だけど、奥田さんとお前がいっしょになるはずがない」。

 つまり、奥田さんや伴子さんは立派な人。お前(私)はダメ人間。いっしょになるはずがないというわけです。しかし、それをくつがえしている言葉が「あんたもわしも おんなじいのち」という言葉なのに、彼らは根本から理解していないと言わざるを得ない。

 たとえば、きのう、まだ妻子がいたころ、子どもが大切にしていた動物の置物を、おじちゃんが誤って壊してしまったということがありました。非常に残念な出来事です。しかし、彼ら(妻子)は、近所のコンビニで強力な接着剤を買ってきて壊れたところをくっつけました。結果として、その置物が壊れた思い出は、接着剤でくっつけた、という、「楽しい思い出」にいつのまにか変わりました。そのことに私は気づきました。

 これは、私の両親には不可能な芸当です。私の両親は、もしも私が幼くて、おもちゃを壊してしまったら、そのことをひたすら責め立てて、おもちゃを壊した以上に私の心を壊し、文字通り、思い出を台無しにすることしかできないと思います。

 まだ、彼ら両親との3人の生活は、始まったばかりです。始まって何時間もたっていません。しかし、もうこんなに「洗脳」されているのです。私もこの実家で生まれ育ちました。あの両親に育てられました。私にはその血が流れています。この洗脳を解いてくれた私の妻と子は、もういません。私はこれから、この両親との3人との生活を、あと1か月以上、せねばなりません。どうしたらよいのでしょうか。せっかく「脱洗脳」した私が、長年、慣れ親しんでいる、両親の洗脳に戻っていってしまいます。私は正気でなくなってしまいます。きのうも両親と大喧嘩をしたところです。よくわかったのは、私の両親は、私が生まれてから、まったく変わっていないことです。どうしよう…。私、正気を保てる自信がないよ…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?