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おすすめの曲⑦:グルック「精霊の踊り」

こんばんは。以前、「レッスンで出会った珍しいフルートの曲」という記事で、フルートを習っている人でも多くの場合は知らないような珍しい曲を紹介させていただきましたが(リンクがはれなくてすみません)、このシリーズでは、もう少し、有名な曲を紹介させていただこうと思っております。しかし、きょうの曲は、そもそも「フルート業界の曲」ではなく、一般的にかなり有名な曲ではないかと思われます。これは、「フルートの活躍する、オーケストラの曲」なのです(編成は、フルート2本と弦楽器。ほかの楽器はお休み)。

ほんらいは、この曲は、オペラのなかの1曲なのですが(「オルフェオとエウリディーチェ」)、私はそのオペラを知りませんし、その観点から述べることはできませんので、知っていることを書きますね。ひと昔前まで「モットル編」と言われる、グルックのさまざまな舞踊音楽を集めた組曲が流行っており、そのなかにこの曲は含まれていて、録音もそれなりにあったのです。クラシック音楽の世界にもはやりすたりはあるのでして、たとえばマーラーの交響曲第10番のクック版などは、どんどん流行ってきている音楽と言えましょう。逆に、たとえばウェーバーの「舞踏への勧誘」は、すたれていっているような。つまり、グルックの「精霊の踊り」は、あまり流行らない音楽になって来つつある曲だと思われるのです。「モットル編」もすっかりやられなくなりました。生で聴く機会も減ったでしょう。古楽器演奏の台頭もあるでしょう(しかし、この曲を古楽器で聴いたことがありませんね。私が知らないだけでしょうけど)。

しかし、この曲は、フルート学習者のあいだでは、2021年の現代でも、現役のレパートリーであり、フルートの発表会(おさらい会)に行けば、きっと誰かが取り組んでいる音楽です。私もレッスンで習いました。(私の先生は、この曲を、1番フルートをオーレル・ニコレが吹いているときの2番フルートを吹いたことがあったみたいですが、そのときの話はあまり聞いていません。)これは、有名な「フルートとピアノ版」の楽譜があるのです。私が記憶しているのは、編曲者がゴーベールである楽譜です。先日、この「おすすめの曲⑤:ゴーベールのフルートソナタ」でご紹介した、あのゴーベールです。私がこの記事を書くきっかけになったのは、まず、この作品はオーケストラの曲として有名であること(そしてすたれつつあること)、それから、フルートのレパートリーとしては現役なのだけれども、私は「フルートとピアノ」のバージョンのCDを1枚も持っていないという事実でした。これは、もはやフルートを吹く人しか知らない曲になりつつあるかもしれない!という意味で、取り上げる気持ちになりました。ナクソス・ミュージック・ライブラリ(NML)で調べてみました。ゴーベール編曲がフェンウィック・スミスの演奏で、タファネル編曲によるものがケネス・スミスの演奏で、存在しました。たまたま、ふたりとも「スミス」という名前のフルーティストです。タファネルというのは、ゴーベールの先生にあたるフルーティストで、やはり作曲家でもありました。いずれ、タファネルの曲の紹介もしたいと思います。(チャイコフスキーは、タファネルのためにフルート協奏曲を書く予定があったのですよ!しかし、書く前に「悲愴」を書いて死んでしまった。)タファネルの編曲も、ゴーベールの編曲も、すなおにフルートとピアノのために書いているもので、オーケストラ版を聴きなれていても、おそらく違和感なく聴ける編曲だと思います。

クライスラーの編曲によるヴァイオリン版も有名です。ただし、おそらく中間部しか編曲しておらず、しかも「グルックの主題によるクライスラー作品」という感じですね。けなしていませんよ!これはこれでいい作品です!

フェンウィック・スミスは、ゴーベールの作品を集中的に録音したフルーティストで、うまい人です(そのゴーベール作品集、おすすめです)。いっぽうのケネス・スミスは、もっと有名と思われる人で、フィルハーモニア管弦楽団の首席フルート奏者を長く務めたため、「ケネス・スミス」の名前は知らなくても、オーケストラ・ファンなら、知らないうちに耳にしている音だろうと思います(私も含めて)。

さて、本来のオーケストラ版の話を書きましょう。先ほども書きましたが、オペラのほうはわかりませんので、「モットル編」の組曲の話にします。かつてはずいぶん録音がありました。ストコフスキーもよく取り上げており、1946年ごろのライヴ録音もあります。「精霊の踊り」だけなら、もっとたくさんあるわけでして、お好きな演奏をお聴きください。長くない曲(8分くらい)です。ストコフスキー指揮であれば、ボストン交響楽団を指揮したライヴ録音が、ていねいな表情づけがしてあって、私は好きです。(直前に団員のかたが亡くなって、その追悼演奏です。)フルーティストでチョイスするなら、オーレル・ニコレが、カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ管弦楽団と共演した有名な録音があり、これはYouTubeでも聴けます。まったくピリオド演奏の影響のない時代の演奏ですね。もっと新しい録音では、エマニュエル・パユのCDがあります(ジュリエット・ユレル/2番フルート、ネゼ=セガン指揮ロッテルダム・フィル)。これは時代考証がなされている演奏なのでしょうね。

そして、この曲は、讃美歌にもなっています。かつて「クラシック音楽と讃美歌」という記事を書いたとき(またもリンクがはれなくてすみません)、ちょっと触れています。だいたい、クラシック音楽の、ちょっとメロディのきれいなものは、たいがい讃美歌になってしまうのです(いいすぎ?)。これも、中間部ではなく、主部のヘ長調の部分が讃美歌になっています。「いざ たたえまつれ」という歌詞です。しかしこの讃美歌、私の教会では、もう現在の讃美歌集には載っていないのです。どうやら、この曲、讃美歌の世界でも、忘れられつつある音楽ですか?

(ところで、キリスト教でいう「せいれい」は「聖霊」です。父、子、聖霊の、聖霊です。この曲は「精霊」。なにが違うのか、私はちゃんと知りませんが、はっきり漢字が違いますので、お気をつけくださいね。)

というわけで、いろいろな話を書きましたが、まずはオリジナルのオーケストラ版をお聴きください。普通に「精霊の踊り」とYouTubeで検索して出て来た演奏をお聴きになればよろしいかと思います。まずヘ長調によるおだやかな讃美歌のような音楽が流れ、中間部はニ短調となり、フルートソロを中心とする、もの悲しいメロディが流れて、またさっきの讃美歌のような部分が戻ってくるという8分くらいの曲です。すなおに「いい曲だなあ」と思えるような曲です。私の先生がフルートで協奏曲を吹き、もうひとり、仲間のピアニストがピアノ協奏曲を弾いたアマチュア・オーケストラの演奏会(私は乗っていました)で、ソリスト2人が、これをアンコールに弾いた(吹いた)ところ、聴きに来ていた友人がこの曲にハマり、さっきのニコレのCDを貸したら戻ってこなくなったという思い出もあります。ぜひどうぞ。ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

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