子供の頃に戻りたくない

「大人は辛い、子供だった頃に戻りたい」という言説に、私はまったく同意できない。あんな地獄に戻るぐらいなら、本当に死んだほうがマシだと思う。
私がいま26歳まで生きることができているのは、たまたまここがそういう世界線だっただけで、小学生のあの頃、中学生のあの頃、死のうと思えば私はいつでも死ぬことができた。

何がそんなに辛かったのか?と思い出そうとしても、あまり具体的な内容を思い出すことができない。というのも、私の脳は9歳~14歳ぐらいまでの約5年間の記憶を喪失しており、「確かこんな事があった」「こんな事を言われた」程度のことは辛うじて思い出せたとしても、当時の自分がそれを受けて何を感じたか・どういう気持ちになったか・どのように傷ついたかまではまったく思い出せないうえに、想像すらできないのだ。自分の事だというのに。

ただ一つ言えるのは、記憶を失った約5年間(つまり、それほどの強いショックを受け続けていた期間)は、『味方が誰一人としていなかった』という事。
家庭にも学校にも、安息できる場所は無く、常に恐怖と緊張を抱えながら過ごしていた。ような気がすることだけはわかる。

最大の問題は、「家庭の不和」+「家庭内での孤立」+「家族の協調性の欠如」だ。
私の家庭は、私を除いたすべての家族(母、兄、姉)が協調性と共感性に欠けており、コミュニケーションを大切なものであると信じ、行動するような人物が誰一人として存在しなかった。

そういった家庭に(年功序列的には一番下というポジションとして)生まれるとどうなるのかというと、まず困惑する。
自分より「上」とされる立場である人々(母、兄、姉)が、誰も円滑で柔和なコミュニケーションを取ろうと試みないのである。(と書きつつも、具体的な例が何も思いつかないため、抽象的な表現となってしまい申し訳ない)
そのため、一生息苦しい空気の中での生活を余儀なくされる。しかし、私以外の家族三人は、何故かその「息苦しい空気」というものがあまり苦ではないようだった。

「自分は間違えてこの家に生まれてきてしまったのだろうか?」「それとも、自分だけがどこか別の家庭の赤子とたまたま取り違えられてしまったのだろうか?」という疑問と不安で頭がいっぱいになる。
『私vsほかの家族』とで、圧倒的な価値観の違いをまざまざと見せ続けられる日々。

例えば、そんな家庭の中で育ってきた私は、9歳の頃に両親が別居して小学校を転校してきたぐらいのタイミングで、まず「愛されるための努力」をした。
「愛されるキャラ作り」というものを必死に覚え、クラスで人気がある子の言い回しや返しやリアクションを参考にしたり、「『愛されやすい人物』とは何か」を必死に学ぼうとした。(この時の経験は大人になった今でも大いに役立っており、もはや記憶すら曖昧になっている中でこの癖だけが本当に糧となっている)

その本質はもちろん、家庭内にいる母親と兄姉たちから愛されたかったからなのだが、ここで一つ誤算があった。いくら私が『愛されやすい人物』として振る舞ったとしても、我が家族たちは誰も、私のことを愛そうとする素振りがなかったのである。
「お母さん、あのね」「お兄ちゃん、お姉ちゃん、一緒に遊ぼう」と、私が積極的にコミュニケーションを働きかけているにもかかわらず、彼らはそれに応えるどころか、「気持ち悪い」「話しかけるな」といった旨の返事しか返さなかった。
私はそれがまったく理解できず、想像もしていなかったため混乱し、その結果、「もっともっと愛されるような人物にならないとだめだ」と視野狭窄に考えるようになってしまったのである。

今考えると、当時の彼らも彼らなりに余裕が無かったのだろうということは想像できる(兄は高校生、姉は中学生)。
しかし、それ以上に彼らは、家族間で「愛されようとしていなかった」のだ。そして「愛そう」ともしていなかった。母親も、兄も姉も須らく、そういった事にまったく興味が無いようだった。

愛されようとも愛そうともしていない、「愛」というものにまったく興味が無い、そういった人々を相手に「愛されよう」としていた、私という子供。道化である。

それにしても、本当に私だけが異物として扱われてしまうような異常な家庭環境だったな、とつくづく思う。
ノンデリな兄貴から悪質なロジックハラスメントを受けていたり、姉が中学校から帰宅したら即身体中を殴られたり蹴られたりする期間が数年続いていたり、「姉を〇して自分も死ぬしかない」と追い詰められて姉に包丁を向けて刺そうとしたり、毎日マンションの5階のベランダに立って飛び降りようと頑張ったりしていたエピソードなど、書ききれない部分は山ほどあるのだが、これ以上思い出そうとすると良くない事になりそうな予感がするので、今日はここまで。(現在、姉との仲は非常に良好です)


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