性加害されかけた時のこと


正確に言うなら、「されかけた」ではなく「された」ではあるんだけど
「性加害された」というと重すぎるので。
かなり軽い段階で逃げてきたから、別にトラウマになったりはしていない。

自分はこの話はほとんど誰にもしてこなかった。
なぜなら、「僕がバイセクシュアルの男性から迫られた」というこの事実だけで、差別やバイアスを生みそうだから。

「あなたがLGBTs向けのプロジェクトを進めているのは、この経験があったからですか?」

答えはNoだ。一切何の関係もない。

LGBTsに性加害を受けたからその怒りでとか、逆にその加害側の生きづらさに気づいたからとか、
もしそうなら、それこそが差別だ。

「LGBTsが生きづらいから性加害をしてしまう」
そんな理屈は成り立たない。LGBTsであってもなくても、大半は何事もなく生きてるし、逆にどちらにも性加害をしてしまう人は、どちらにでもいる。セクシュアリティに関係なく、そのような悲劇がなくなって欲しい。シンプルだ。

仕事で定期的に車で東京に来る人がいた。飲もうと誘いが何度かあった。
ある年末の土曜、彼は深夜に到着し自分もホストの退勤後に新宿で待ち合わせ。
「疲れたから近くのホテルで休みたい。そこで飲みましょう」彼はよく「いい歳だからお嫁さん探さなきゃ」と言っていたから、僕はその誘いを性的な誘いだとは思わなかった。
年末の土曜だったのであたりは全て満室。今思えばそれは幸運だった。「場所がないので、家まで送りますね」
車に向かう途中、「僕ね、実はバイなんだ。サイトくんの顔はかなりタイプなんだよね。」と言われた。雷に打たれたような衝撃。でも終電はないので乗るしかない。

新宿を後ろに車は走る。運転席の彼の左手が、僕の体に伸びてきた。「実はこうされたら気持ちいいんじゃないの?」
体が硬直した。痴漢された時、体が硬直して声が出なくなるという。まさにそれだった。

冷静に当時の自分を振り返る。別に、実力でどうにかできないわけじゃない。
当時の自分は、ちょうどボクシングと空手の両方を習っている頃だった。
中肉中背の彼なら多分倒せた。最低でも逃げ切ることはできた。

では、なぜ固まるのか。
頭が真っ白になったから。
なぜ混乱したのだろう。

それは、求めていない相手から自分の体を求められるということを、脳が処理しきれなかった、のだと今は思う。

が、真っ白になったのは一瞬。脳が何かを言葉の形にする前に、自分の手が動いた。
強引な相手の手を強く払った。何度も。

そして、新宿から4駅の自分の家の最寄駅にはあっという間についた。とはいえ、実際よりは長く感じた。

僕は足より先に上半身から、前のめりになって車から飛び出した。そして振り返らずに家へまっすぐ進んだ。

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