失敗という名の地下鉄に乗って②   ~そして金属の車輪は動き出す~

おはようございます。劇団昴の三輪学です。
さて、わたしのような失敗という名の地下鉄に乗った役者にとって、
困る説明の一つが、「芸歴」です。

はじめて舞台に上がったのは?という問いにストレートにお答えすると、
「幼稚園の学芸会です。」ということになってしまうのですが、
そんなこというと世の40代50代のみなさん全員芸歴40年超えの同業者ということになってしまいます。

ちなみに私が覚えている最古の演劇体験は、幼稚園での「ねずみの嫁入り」の「風」役です。
白タイツはいてがんばりました。

小学校での学芸会でお芝居しました、なんて方も私と同世代だと多いのではないでしょうか。
最近の若者諸君はどうなんでしょう。
あるとき、いわゆるモンペの出現により、配役に差がでないよう、王子様とお姫様が大量に舞台にあふれている、なんていう話も聞きましたが、
ジェンダーフリーが叫ばれる昨今、王子様とお姫様が全員同じ衣裳着たりするんでしょうか。
そんなんじゃなんのこっちゃわからないですよね。
資本主義における競争社会には「木の役」というポジションも生まれてしまうんだってことを
学芸会のときから教えてあげるべきだと私は思うのですが、まぁ今は関係ない話ですね。

小学校にあがると、国語の教科書に載っていた『力太郎』を戯曲化したものを選抜チームで発表する機会があり、
おじいさん役に抜擢され、全校生徒の前で演じたた記憶がございます。
自分の身体の垢から作った人形に命が宿り、男の子になったからって、その子に「垢太郎」という名前をつける
おじいさんとおばあさんのネーミングセンスはどうなんだという疑問が、40年の時をこえて襲ってまいりますが、
これもまた関係ない話ですね。

これが『舞台デビュー』とはもちろん言えませんが、その後わたしは小学6年生で強烈な演劇体験に遭遇しています。
ここを避けては通れないので、少々昔話にお付き合いください。

力太郎の選抜キャストになぜか選ばれるという、アクシデントはあったものの、
高学年になるまでのわたしは、可もなく不可もない普通の小学生でした。
あーどちらかというと不可だったのかなぁ。
クラスの人気者になりたいけど、まったく支持されず、なれない奴。
お調子者で人気者のサトウ君はB型で、あーやっぱりB型はかわってるねーなんて言われてるのを横目に、A型のミワ少年の激しい嫉妬。
小学校中学年ですでに縄文時代と出会いを果たし、この頃すでに土器片を拾って歩いていておりましたが、これもまた話が逸れるので別の機会に。

あ、少し関係ありますね。

縄文時代に興味を持ち始めた私は、小学校5年生のときのクラブ活動に、
小学校で一番不人気だったクラブ、「歴史産業クラブ」に入部することになります。
これはあきらかに縄文時代の影響です。

そうするとやっぱり私の演劇人生と縄文時代は切り離せないんだなぁ。
はやめにスピンオフのように縄文時代との出会いを説明しないと、
なんで私が縄文時代にこだわるのかわかりませんよね。がんばります。
いまはまぁとりあえず、ミワは縄文時代が好きってことだけ知っておいてください。
よろしかったらYouTubeのチャンネルも覗いてみてくださいね。

さて歴史産業クラブ、その年は、たしか部員が5人ぐらいしかいなかったと記憶してます。
少なくとも、同じクラスの男子3名が在籍していました。
これがまぁなんとも素敵なクラブで、とても楽しく1年過ごしました。
博物館に行ったり、ドヤ街について調べたり。
って、小学生にドヤ街ってかなりパンチありますね。
おそらく顧問の先生の政治思想とかとも関係あったのだと思いますが、
何かを押し付けられた感じはまったくなくて、とても有意義な課外活動でした。

その不人気No1の歴史産業クラブが6年生になると、なんと廃部になってしまったのです。
課外活動とはいえ、週に1回グラブ活動の時間が決まっており、
かならずどこかのクラブに参加しなければならなかった私たち3名は途方に暮れます。
5年生からクラス替えなしで、また同じクラスだった我々は職員室にのりこみます。

「先生、廃部になるって本当ですか?!」
「そうなのよ。それでかわりに演劇クラブができることになって、その顧問になったの。」
「え、演劇…だと…?」
「どうせまた演劇クラブも不人気で、人なんてこない。だからお願いだから入って。」
そういって顧問のヨシカワ先生は私たちに手を合わせて頼んだのでした。

先生のいう『どうせまた不人気』という感覚、わかりますかね?
私たちの世代で、学校で演劇をやる、ましてや男がやる、なんていうのは
授業中に「先生!大便してきます!」って宣言するぐらい恥ずかしいことだったんです。
あーいまはもう大便宣言も恥ずかしいことではないという社会かもしれませんね。
わたしの少年時代は、学校で大便なんていうのはもう恰好のネタです。ネタというか、むしろ犯罪です。
悪は成敗されるものなのです。それぐらいキッツイことだったんですよ。

演劇なんかには興味ないし…大便だし…どうせ先生に
「三歩歩いて右を向いて、はい、このセリフ!」とか言われて、
間違えると
「おいミワ!何度言ったらわかるんだ!そこは三歩歩いて右だろ!」
ってすんごい怒られるんだろうな…なんでクラブ活動なのに
ロボットのように動いて、怒られないといけないんだろう…大便だし。

そうは思いますが、1年お世話になった先生が、私たち3人の小6生徒に手まで合わせてお願いしたのです。

3人は屋上へ続く校舎の階段の踊り場で緊急会議を開きました。

なぁ…どうする…?


結論は

先生に頼まれちゃしかたねぇ、
ここは男気出して去年の恩をかえそうじゃないか!

いや、これ、マジなんです。
かっこいいっすよね、この3人組。
いいですか、大人の皆さん、
小学生でも義理と人情という概念は存在するんですよ。

そしてクラスでのクラブ活動決めのときがやってきます。
細かいことは覚えてないのですが、人気クラブの場合、人数が多くなりすぎてしまうので、
各クラス1クラブの最大人数がきまっていたんだと思います。
多いところはジャンケンで決めていたんだっけかなぁ。
そしていよいよ演劇グラブの希望調査の時がやってきます。

「演劇クラブを希望する人ー?」

スッと手をあげる男子3名。
ざわつくクラスメイト。
どうせ自ら笑いものになろうなんていう奴いないから、
誰も手を上げないだろ、と誰もが思っていたのに、
3人も、それも男が。

「あ、え、えーと、ほかにいません…ね、じゃあ決まりで。」

シロツグが宇宙飛行士に立候補した時の、同僚たちのようなリアクションです、クラスメイト。
ああ、この当時まだ『オネアミスの翼 王立宇宙軍』は公開してませんけど。

そうしてクラブ活動初日、3人組は指定された教室に向かいます。

のぞき窓から教室をみると、数名の後輩女子がヨシカワ先生と談笑しています。
どうやら6年生は我々3人だけのよう。ついでに男子も我々3人だけのよう。
しかし、俺たちがあの踊り場で誓った義理と人情と決意は本物です。

ガラガラっとドアをあけ、最高のキメ顔で先生に言います。

「先生!俺たち入ったゼ!」

静まり返る後輩女子。

僕たちを見つめるヨシカワ先生。

「…本当にに入ったの?ぷぷぷ。」

そりゃないよ、先生……

その瞬間、最後の小学校生活が、音を立てて崩れていくのを感じました。

三歩歩いて右を向いて大便…

失敗という名の地下鉄にI LOVE YOU


つづく


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