見出し画像

はじめての発表会と、涙のおちびとやさしいにぃに

この日のことは一生忘れない。子どもの思い出はたくさんあってどれも大切だけれど、特にきらめく時間だった。そう、はじめてのピアノの発表会だったのです。

あれこれ練習の日々

前回の記事は4年前だった。もうすぐ2歳の子どもの記事だったけれど、上のお兄ちゃんは5歳になり、下の弟がもうすぐ2歳になる。3歳くらいからかな、リトミックで通い始めたピアノは、大好きな先生と遊ぶのが楽しくていつもふざけてばかり。家での練習もなんとか5分、1分、いや1回でもいいから弾いてみよう、と家族で奮闘していた。

それでもいつの間にか弾けるようになり、リハーサルの後は本番が近いのを感じているのか練習も前より取り組んで、弾かなくても曲を口ずさむ時間が増えてきた。前日練習では先生からも「大丈夫ですよ」のひと言。別に失敗したっていいし、楽しんで自由にやりなさい。とはいえ、親としてはちょっと安心したものである。

当日序章:おちびのたたかい

公会堂のホールは広くて、保育園より広い!とはしゃいで会場を探検するふたり。出番は5番目。席に座って、あそこで弾くんだよとか色々話しているうちに、いよいよ開場まで10分前。ここからがジェットコースターのような展開の始まりだった。

まず下の子がウンチ。開始前でよかったと、急いでトイレにオムツを替えに行くママ。戻ってきたら、最初の方の出番の子は舞台袖にということで、今度は急いで上の子を連れて行く。急にママとにぃにがいなくなってしまい、パパの膝の上で心細くなってしまったおとうとくん。出番は5番目。まずい、そんなに先までもつかしら。

と、「ビー!」という音と主に会場は暗転。びっくりして固まるおちび。コンサート開始の案内が流れた。「開園に先立ちご案内をいたします。(略)録画・録音をしておりますため、小さいお子さまが演奏中に声を出したり騒いだりしてしまった場合には、ご退出いただきますようお願い申し上げます。」にぃにの出番は5番目。。

それでもまずは好奇心が勝ったようだった。1曲目、じぃっと前を向いて演奏に見入っている。2曲目、引き続き静かに演奏を聴く。「まま、にぃにー」。帰ってこないふたりに再び心細くなってきた模様ドキドキ。「もうすぐにぃにでてくるからね、あと2つしたあとだよ」。3曲目、大好きなきらきら星の曲だ。まわりにつられて拍手をする余裕が出てきた。いいぞいいぞ。「にぃにー」。あれ…「あと1つだからね」。4曲目、これも大好きなのりものの歌に、なんと体を揺らしてリズムに乗っている!なんとか乗り切れそう。「ほら、にぃに次の出番だよ、あそこから出てくるからね」。ふぅ、なんとか乗り切った、これで後はお兄ちゃんの登場に喜んで演奏を聞いてくれるだろう。

当日本番:やさしいにぃに

乗り切った、、と思ったが、そう甘くはなかった。

「にぃにーーー…ひぐっ(涙)にぃにーーー!」。やっと登場したにぃにが遠い舞台の上にいたからか、やっと会えた安心感からか、おちびは泣き出してしまったのである。正確には泣く寸前で、なんとか泣くのをこらえて我慢している。なんといじらしい。。と一瞬にやけつつ、このままうわーーんと大泣きしたらどうしよう。。と気が気でないパパ。お兄ちゃんはぺこりと直角なおじきをして、ちょうど椅子に座ったところ。今まさに弾き出そうとしている。

ところでおとうとくんはブランケットのタグが好物で、これがおしゃぶりの代わりになっている。ライナスのあんしん毛布みたいなものだ。永遠にも感じる数秒のなか、必死にタグを探してくわえさせる。演奏が始まってそちらに気を取られたこともあってか、なんとか最初の数小節の間に泣き止んでくれた。そして演奏は、一音一音に鍵盤を叩くお兄ちゃんの心情が見え隠れしながら、間違えることもなくすてきな旋律を奏でて無事に終了。最後またぺこりと直角におじぎ。にぃには足早に舞台袖へと消えていった。

後からママに聞いて、また映像を見返して知ったこと。

なんとお兄ちゃん、演奏中にも関わらず、会場の弟の泣き声を聞いて会場の方を向き、口を動かしてか小さな弟をあやしてくれていた。前後の演奏と合わさって、本当に記憶に残る、きらめく瞬間だった。

今回の演奏は先生との連弾で、3つのパートから構成されている。パートごとに間には先生だけの間奏が入る。弾き出しで泣き出した弟に気づいて、最初の間奏のとき、そのほんの数秒だけれど、会場の方を向いてたしかに声をかけていた。間奏が終わるとともに、また自分の演奏に戻り、最後まで丁寧に弾き通した。

こんなに堂々としているのに、後で聞いたら「演奏は緊張していた」ということだった。それでもとっさにこんな行動がとれるなんて、広いホールでたくさんの聴衆もいる中での初めての発表会だったのに、泣き出した小さな弟を気づかえるなんて。

そんなやさしいにぃにに、後日なんども映像を見返しながら、涙涙の我々なのであった。

みんなじゃがいも

始まる前に舞台袖では、「会場の人をみんなじゃがいもだと思えば緊張しないよ」とママに教えてもらったアイデアを覚えて、「みんなじゃがいも」とつぶやいたりしていたらしい。そんなにぃにと、涙をこらえながらにぃにを呼んだおとうとのエピソードは、きっと我が家でずっと語り継がれるのだろう。

ふたりがすっかり大人になって、もうこのことを覚えていなかったとしても、ふたりのことが大好きなママとパパによって、ずっと。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?