ゲームレビュー:カカポ・ラン Kakapo Run


概要


  • ニュージーランドの絶滅危惧種の鳥類カカポのことを知ってほしい、という明瞭なコンセプトがあるゲーム

  • 障害物をよけていくランアクションゲームで、避ける敵が脅威となっている外来種(ネコとネズミ)でアイテムがカカポが好む果実になっており、作りが細かい

  • ゲーム中にカカポの情報(現在の生息数や繁殖行動など)が差し込まれる仕組みになっている

ゲームの基本情報


プラットフォーム : IOS, Android
カテゴリー    :アクション、ラン
生態系      :森林、都市、海岸
分類群      :鳥類

  • 縦(奥)スクロールアクション

  • ニュージーランドの固有種で絶滅危惧種のカカポがメインキャラ

  • 自動で走るカカポをタップやスワイプで操作して障害物をよけ、ゴールまでたどり着くとコースクリア

  • ニュージーランドが舞台、ステージは3つ(森林・海岸・都市)に分かれていて、島の南端にある保護区を目指す

ゲームとしての面白さ


  • 単純なアクションゲームで難易度は低めな印象。各コースはクリアできなかったとしても、ゲーム情報をSNSでシェアすることでそのコースを飛ばして進むことができる仕様になっている。カカポに関する情報発信が主目的なのでそのような設計になっているのだろう。

  • 課金はなく、その代わりに寄付(Donation)がある。寄付先は制作元のNGO(On the Edge)。この団体は自然環境と人々とのつながりを復旧するというテーマで、自然や野生生物をテーマとしたショートフィルムやゲームを作成、あまり知られていない絶滅危惧種などに着目した動画配信などを行っている(詳しくは後述「開発側の保全・環境へのコメントなど」)。

  • 寄付金はあまり知られていない絶滅危惧種を保護するための資金に充てられる("All donations help On the Edge to support species that are not in the spotlight." https://www.ontheedge.org/natural-history

生態学的な着眼点の面白さ


  • カカポの生活史や現況を反映されたゲームシステムが面白い。たとえば、カカポは飛べない鳥なので走って逃げるゲームになっている。また、ゲームはニュージーランドの北の端から始まり、南の端にあるカカポ保護区を目指すのだが、このゴール地点は実際にカカポの保護区として存在する島(スチュアート島 Stewart Island/Rakiura)になっている。

  • ゲーム上の敵はカカポの個体数減少の一因となってきた外来種の捕食者(ネコとネズミ)で、ゲーム内通貨に該当するアイテムの羽を集めることができるアイテムは、カカポが実際に好む果実(Rim seed)になっている

  • 生活史などの情報の出し方、ゲーム内での活かし方に工夫がある。ゲームのロード中はカカポの生活史や現況に関する情報(現在の生息数や繁殖行動など)が差し込まれる仕組みになっている(たとえば、カカポの主食は果実である、とか、カカポの現在の個体数は300羽ほど、など)。このカカポの情報は、ゲームオーバー時に時折発生するクイズになって再登場し、クイズに正解するとリトライが可能になる。仕入れた知識をそのゲームの中で使用できる、という仕組みは知識の定着に効果があるような気がする。

生き物の情報


カカポ(フクロオウム)

  • 学名:$${\textit{Strigops habroptila}}$$

  • ニュージーランドの固有種で世界で最も大きいオウム(オスは2.2kg、メスは1.4g)

  • 保全状況はニュージーランド国内のランクで絶滅危惧種(この短期間での絶滅リスクが高い):Threatened – Nationally Critical(facing high risk of extinction in the short term)、IUCNのレッドリストでは、絶滅寸前(Critically Endangered (2018))で、近年の個体数が増加傾向(current population trend: Increasing)

  • その他の特徴としては、夜行性で飛べない、果物食で長寿(たぶん最も長生きするオウムで90年生きる)

  • オウムでは珍しいレックという繁殖システムを持つ。レックとはオスが集まってメスに対して求愛のパフォーマンスを行って配偶者を決定するシステムのことを指す。カカポの場合はオスが汽笛に似た大きな音で鳴き、メスがオスを選ぶらしい。

  • 参考文献

リムシード(Rimu seed)

  • 学名:$${\textit{Dacrydium cupressinum}}$$

  • ゲーム中では、キャラクター周囲の羽(ゲーム内通貨)を自動回収できるアイテムとして登場する。リム(Rimu)の木の種

  • リムの木はニュージーランド固有の常緑針葉樹。長寿で樹高が高く、赤い実はカカポの重要な餌資源となる。

  • 果実にはカルシウムやビタミンDなど、カカポの繁殖にとって重要な栄養素が含まれており、カカポの個体数回復にとってキーになる可能性が指摘されているよう。この果実が豊作の年はカカポの繁殖成功率が高まるらしい。

  • 参考文献

情報の種類や質


  • カカポの生活史、個体数が減少した理由、現在の保全管理の情報までかなり詳しい情報が得られる

  • 制作元(on the Edge)のスタッフには、環境・保全学関連の研究者もいる。過去には、生物多様性の保全管理で学位を取った研究者が所属していて、情報のファクトチェックなどを行っていたよう。

開発側の保全・環境へのコメントなど


制作元のHPに自然保護に対する姿勢が分かりやすく記述されていたので訳す。

On the Edge is a not-for-profit multimedia and conservation organisation telling modern, pop-culture stories about the awe and wonder of Nature to inspire a new audience.
”On the Edge は非営利のマルチメディア・自然保護団体です。自然に対する畏怖や驚きに関する現代的でポップカルチャーなストーリーを通して、新たな聴衆を生み出します”

We exist because, as people, we've never been more disconnected and isolated from the natural world than we are now. It is this disconnection that allows us to overlook the destruction of nature. We’re on a mission to emotionally reconnect humanity with it.
"今ほど我々人間と自然界との距離が離れ、孤立している時代はありません。そして、この断絶が我々が自然破壊を見過ごす原因となっています。我々は人間と(自然との間の)感情的なつながりを新たにつなぐことをミッションとしています。"

For us, an emotional connection means that what we're connected with is seen, acknowledged and respected. We create original content from the perspective of a particular species or Nature as an entity, using accessible genres and formats across social media, long-form film and gaming.
”我々にとって(自然との)感情的なつながりとは、我々が繋がっていることが見え、認識でき、尊敬できることを意味します。我々は実在する特定の種や自然の視点から、ソーシャルメディアや動画、ゲームなどの手に取りやすいジャンルやフォーマットを使ったオリジナルコンテンツを作成しています。”

We pay particularly close attention to EDGE Species. These are Evolutionarily Distinct and Globally Endangered species in the plant, fungi and animal kingdoms.
”我々は、特にEDGE種に着目しています。EDGE種とは進化的に特徴的で世界的に絶滅が危惧される生物(植物、菌、動物界を含む)を指します。”

We truly believe that only by falling in love with Nature will we truly appreciate its value and do what it takes to save it.
”自然に対して恋に落ちることのみが、自然の価値を私たちに実感させ、またそれらを守ることに繋がると信じています。”

(On the Edge HPより、日本語訳は筆者)

https://www.ontheedge.org/about

雑感など


  • On the Edge はかなり積極的にゲームや動画を挙げている団体で、そこで取り上げるのはちょっとマイナーな動物や地域が多くて新鮮、ゲーム自体の着眼点も面白いと思う。

  • メジャーな動物の保護・保全に資金が集まりやすいという傾向は、多く報告されていることなので、このような光が当たりにくい生き物に着目する活動自体すごく意義があることのように思う。

  • ただマイナーな動物ばかりなので、もともと動物が好きな人は食いつくだろうけど、一般の人には敷居が高いかもしれない。その意味ではカカポは超有名?種なので、今後紹介したい紫色のカエルや青いヤモリのゲームなどよりは、このゲームはとっつきやすい方ではないか。

  • いまのところ日本語バージョンがない。ゲーム中の文章は簡単な英語が用いられていると思うので、興味があったらやってみてほしい。日本語訳されたら子供にももっとおすすめしやすくなるだろう。


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