「ゆめ反」とモードレッド卿
「ゆめみる反逆者」とは、マフィアのような強面の揃った妖精組織「円卓の家族」の元から家出した妖精モルドと、ひょんなことから彼と契約し魔法少女になってしまった人間ミヨの2人が、お互いの「家族」に対峙してゆく命懸けの反抗期を描いた短編作品です。
ツーサムが以前制作したメディアミックス作品「リエちゃんはマフィア少女」(以下リエマと表記)の世界観を引き継いでいますが、この作品から読んでも大丈夫です。
制作の背景
前作リエマの製作が終わってしばらくの間、メンバーお互いの都合もありツーサムの活動はしばらく休止していたのですが、2020年の11月ごろ、リエマの世界観で何か新しい物語を作りたいと考えたところから企画が始まりました。このコラムでは今作ができるまでの背景をご紹介しようと思います。
物語に登場する首領アーサーを中心に運営される「円卓の家族」はアーサー王と円卓の騎士たちが由来であり、今回の主人公の妖精モルドは、様々な文献でアーサー王の宮廷を破滅に導く騎士モードレッド卿がモチーフとなっています。(実はモルド自体は前作のいろんなところに登場してはいましたが、HPのあらすじ、漫画のエピソード自体に直接関わることはなかったキャラクターでした。)
なぜ主人公のモチーフにモードレッド卿を選んだのかについては様々な理由があるのですが、前作リエマの特性であった「マフィア×魔法少女×円卓の騎士」要素の素材になりそうなモノをかなり持っていたからというのが一つです。
前作はケイ卿が持ち前のひねくれ根性で、一家の腐った根性を叩き直す物語を描いたわけですが、このモルドが問題を起こしたらファミリーごと滅亡するんじゃないか…?
色々不安になりましたが、ツーサムはモードレッド卿について詳しく調査しました。
モードレッド卿
モードレッド卿とは、典拠によって設定に様々なパターンが存在するのですが、アーサー王が異父姉妹でありロト王の妻であるモルゴースとの間に設けた、卑劣な性格の不義の息子(そして異父姉妹の子でもあるためアーサーの甥でもある)として描かれる人物です。
アーサー王の方も、こちらも典拠によって様々ですが、「モードレッド卿はアーサー王の宮廷を破壊する存在である」という内容のとある予言から彼を恐れており、詳細は省きますが、彼がまだ赤子であるにもかかわらず水に流して捨ててしまうという場面もあります。
そんな風に捨てられたモードレッド卿ですが、奇跡的に生き残って再び王の宮廷に姿を現し、物語終盤の戦争で王国を乗っ取って父であるアーサー王と対峙します。
様々なものを巻き込んだこの親子関係ですが、控えめに言ってかなり最悪な状況にあると思えます。
このようなモードレッド卿とアーサー王と円卓の騎士に関わる一連の問題を、家庭問題に落とし込んだらどうなるか?というところから自由に発想を広げていき、今回の物語の下地ができました。
また、とあるマフィアには家庭問題は組織の弱体化に繋がるため外部に持ち出さないというようなルールもあったようですので、家族(ファミリー)の問題に置き換えても一大事です。
ーーじゃあ魔法少女要素は?
13世紀フランスで書かれたランスロ=聖杯群の作品「続メルラン物語」によると、モードレッド卿の誕生日は5月1日とされており、魔女集会が開かれる「赤褐色の月」の時期なのだそうです。
魔法少女物語にぴったりの要素だと思いませんか?(少し強引かしら)
この作品のモルドと家族の行く末、是非見守っていただけたらと思います。
「ゆめみる反逆者」参考文献
【書籍】
実録マフィア映画の世界 ⼭⽥吐論, 洋泉社, 2004
イタリア・マフィア シルヴィオ・ピエルサンティ ちくま新書 2007
いかにしてアーサー王は日本で受容されサブカルチャー界に君臨したか -変容する中世騎士道物語 岡本広毅, 小宮真樹子 ほか みずき書林 2019 新訳 アーサー王物語 トマス・ブルフィンチ 大久保博 訳 角川文庫 2019
中世騎士物語 ゲルハルト・アイク 鈴木武樹 訳 白水社 1965
対訳テニスン詩集 テニスン 西前美巳編 岩波書店 2003
アーサー王伝説研究 清水阿や 研究社 1966
フランス中世文学集1 愛と剣と 新倉俊一, 神沢栄三, 天沢退二郎 訳 白水社 1990
フランス中世文学集2 信仰と愛と 新倉俊一, 神沢栄三, 天沢退二郎 訳 白水社 1991
フランス中世文学集4 奇蹟と愛と 新倉俊一, 神沢栄三, 天沢退二郎 訳 白水社 1996
アーサー王神話大辞典 フィリップ・ヴァルテール 渡邉浩司, 渡邉裕美子 訳 原書房 2018
アーサー王物語 イギリスの英雄と円卓の騎士団 井村君江 筑摩書房 1987
ハルトマン作品集 ハルトマン・フォン・アウエ 平尾浩三 ほか訳 郁文堂 1982
パルチヴァール ヴォルフラム・フォン・エッシェンバハ 加倉井粛之 ほか訳 郁文堂 1974
アーサー王物語5 トマス・マロリー 井村君江 訳 筑摩書房 2005
アーサーの死 八行連詩 全訳 清水阿や 訳 ドルフィンプレス 1985
アーサーの死 頭韻詩 全訳 清水阿や 訳 ドルフィンプレス 1986
【雑誌論文】
ヴィクトリア朝の受難者--アーサーの息子モードレッド 不破有理 ユリイカ, 09/1991, 23巻, 10号 p89 - 97
モードレッド懐胎をめぐって--『メルラン』,『続メルラン』,マロリー 小路邦子 人文研紀要, 2003, 49号 p299 - 310
負の英雄の誕生--アーサー王の息子・甥モードレッド 不破有理 アジア遊学, 05/2006, 87号 p120 - 132
【WEB】
Celtic Literature Collective The Twenty-Four Knights of Arthur's Court :http://www.maryjones.us/ctexts/triads4.html
UNIVERSITY OF ROCHESTER THE CAMELOT PROJECT :https://d.lib.rochester.edu/camelot-project
Arthurian Name Dictionary :http://www.zendonaldson.com/twilight/camelot/bruce_dictionary/index_l.htm
HEAPS -Gの黒雑学- マフィア幹部の息子が教えてくれる食の掟「トマトソースの隠し味とテーブルマナー(女の話は持ち込むな)等」 :https://heapsmag.com/tony-nap-napoli-wiseguy-cooking-tomato-sauce-italian-food-culture HEAPS -Gの黒雑学-:破れば親友の手で地獄行き。ファミリー“血の掟”<マフィアの十戒>。ギャングとオメルタの束縛
https://heapsmag.com/series-american-gangsters-the-history-of-organized-crime-not-always-like-godfather-movie-omerta-mafia-code-of-honor-cannot-be-broken
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