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金のまどろみと独りの時間

朝、目が覚めて活動を始める数時間のゴールデンタイム。

夜のうちに心身共に整理されたものが、内側から殻をつつくひな鳥のように出たがっている。ピヨピヨ

ひな鳥の声はか細い。

そのピヨちゃんのわずかな一声を聞き逃し

外側からつつくタイミングを逃すと、

簡単に、ひな鳥は居心地の良い殻の中に留まるという選択をする。

親鳥が待っていないならば

どうして敢えて訳の分からない外の世界に出ようか?(いや出ない)

 「GOLDEN SLUMBER」というビートルズの曲を知っている人もいるかもしれないし、「ゴールデンスランバー」という堺雅人主演の邦画を知っている人もいるかもしれない。

 わたしが「SLUMBER」という単語に出会ったのは、映画「サウンドオブミュージック」の「I Have Confidence」という曲の中で、だ。

 高校1年の時に友人からサントラを借り、MD(エムディーと読むのですよ、MD世代でない世代のみなさん。ググってね)に落として聴きまくった。

 話は逸れるけど、カセットやMDの良いところは、プログラムして好きな曲を好きな数だけ、永遠リピートできるところだと思う。再生リストよりもなんかこう、毎回、その時の気分に合わせて作れる感じがするのはわたしだけだろうか。

 ――話を戻そう。その曲の中に、こんな歌詞があってね。

♪ Strength lies in nights of peaceful "slumbers"

 これを高校生の私は、歌詞カードの和訳で意味を確かめることもなく、ぼんやりと、記憶していた。"slumber"は教科書に出てくるような単語じゃなかったから当然知らなくって、辞書を引いてみようとも歌詞カードの和訳で確かめようともしなかった。

 だから、私の理解していた意味としては

♪ 強さは平穏な"slumber"の夜な夜なの中にあるの

 に留まっていた。しかしながら、"slumber”という音の連なりは、この歌詞の一節と「I have confidence」という曲のメロディーと共に、わたしの記憶の、深い所に、しっかりと格納された。

 slumberの意味に出会ったのは、それから倍ぐらいの歳を取って、英語の教員になって1年目のことだった。

 英語科の忘年会で、同じ学年の先生が演劇をずっとやっていらっしゃるということで、若い頃は結構アバンギャルドな自費制作映画を撮ったりもしていた、という話が出た。

 普段控えめな立ち居振る舞いのその先生、人は城だな、この人はどんな映画を観るのだろう?と興味を掻き立てられ、お勧めを伺った。

 そこで出たのが、冒頭の「ゴールデンスランバー」(2010年中村義広監督版)だった。

 スランバー、何か聞いたことあるぞ。

 「スランバーって何ですか?」

 アバンギャルドで物静かな英語の先生に、私は尋ねた。

 

 「『まどろみ』っていう意味だよ」


 そうか、ゴールデンスランバーは【金のまどろみ】

 そうか、サウンドオブミュージックでマリアが歌ってたのは
【強さは安らかな夜のまどろみの中に宿る】

 ――確かにそうかもしれない。

 そして、深い意識とのはざまを行き来できるこれらのまどろみを、わたしはこよなく愛している。

 あれから3年ほど経って、外出自粛で二人の元気な娘と在宅する私は、朝の金のまどろみを死守するべく、悪戦苦闘している。

 ぴよぴよぴよ。


All I trust becomes my own!

できると思ってたらできる!


今日もできることを、できるだけ、全うするぞー。 





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