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Shupines 成瀬陽菜卒業ライブ

見ておきたい写真展などもあったが、一日の感動の受容には上限があり、濃密なライブになりそうなこれだけに絞って行動。

アイドル業を「極めた」と言って良い成瀬は、今度こそ本当に足を洗ってしまいそうではあるが、成瀬専業のお客さんもお通夜にはなっておらず、或る種の諦観のようなものを湛えた笑顔。

最優先チケット → 優先チケット → 一般チケットの順で入場。
最優先で入った人々は、開演までの短い時間で文字風船などを使って場内の装飾。
最後のご奉公。

セットリスト

Overture
1.カラフルチェリー
2.シュピネ♡コンフィチュール
3.オニオングラタンスープ
MC
4.君と僕の交差点
5.泣き虫おもちゃ箱
6.DREAMY GO ROUND
MC(メンバーお手紙)
7.Happiness
8.Cheese!
9.テトテ
Encore
1.DREAMY GO ROUND
MC(成瀬お手紙)
2.泣き虫おもちゃ箱
3.カラフルチェリー

葵葉ほのか 巻いてほぐした高めのツインテール
星乃綾夏 細い黄色のリボンで結んだハーフツイン
矢野桜子 後頭部で二つに分けて結んだハーフツイン
藤乃さや いつもより高めのポニーテール
成瀬陽菜 側頭部を編み込み、巻いてほぐしてふわりとさせたツインテール

成瀬の付けたヘアアクセは、矢野の手作りとの事。
センスと技術と瞬発力。

チケットは売り切れで、掛け値なしの満員。
マスク必須ながらコールは解禁されており、最前列優先ブロックの熱心な人々を中心に、文字通り「声を枯らして」いたが、ハコの音響が良いので歌はしっかり聞こえる。

訳知り同士の暗黙の了解でやっているものではあるが、事情を知らない人から見れば殺伐として見えるであろう、歌割り毎の「コールを入れたい客の最前への割り込み」については、MCの中で成瀬から苦言。
それでも止めない客は、スタッフからも釘を刺されていた。

頭脳の明晰さから来る鋭さを、成瀬は巧みに隠して柔らかく装って来たが、「ここぞ」という所でチラリと見せる。
その「チラリ」の怖さを、客の方でよく分かっていない。

コロナ禍で抑圧されていた
「アイドルそのものよりアイドルで高まっている自分が好き」
な客の箍が外れつつある昨今、Shupines はまだ「新規客の母数を減らすことを厭わない振る舞い」は少ない方であると思う。
そこで釘を刺されたと言うのがどういう事なのか。

自分がどう見られているかは、指摘されでもしない限り分からない。
斯く言う私も前方の喧騒に気圧されて無意識に後ずさりを繰り返したようで、後ろのお客さんを圧迫してしまい
「どんどん下がってきていますよ」と声をかけられた。
掛ける迷惑は最小限にしたい。

成瀬が鋭さを見せたのはこの時くらいで、あとは終始「かわいい成瀬さん」を貫いていた。

リハーサル迄は泣いていたのであろう気配を漂わせていたメンバーも、本番は明るく楽しく朗らかに。

手紙を読む場面でも、声は詰まらせつつも涙腺は決壊させず。
いつものようにヘラヘラ振る舞いつつ、いつもと違って声に湿り気のある星乃綾夏。
泣きそうになると、涙がこぼれないように上を向く葵葉ほのか。 思い出す、春の日。
手に持った便箋の枚数が多く、見るからに長い矢野桜子の手紙。 声に詰まりそうになると咳払い。
漫画みたいな顔で涙を堪えつつ、直後の Happiness の歌い出しのソロパートをきっちり歌い切った藤乃さやに感嘆。

採ったメモに「成瀬、リミッターを外した」とある。
成瀬陽菜は、「アイドル 成瀬陽菜の集大成」としてのラストライブを、成瀬陽菜らしく遣り切っており、思わず目で追い真顔で見てしまった初見の驚きを思い出させてくれた。
「最後の一人迄が、全体である」
見ている客ひとりひとりの心を射抜きつつ、全体としても捕まえる振舞い。

成瀬陽菜は、音程とか声量とかそう言う所では無く、自らの持つ「かわいい」を増幅させて聴く者の耳と心を掴むアイドルとしての歌唱技術については卓越していた。
儚く、切なく、可愛らしい、Cheese! や カラフルチェリー の歌い出しも、今日で聞き納め。

身内に「生きた教科書」が居たからこそだと思うが、まだステージデビューから一年経っていない葵葉、星乃、矢野が、成瀬と伍してステージに立てているし、それぞれの「自分の歌」を唄えている。
見て、聴いていて、凹んだところが無い。 本気の成瀬がリミッターを外しても、突出しない。
アイドルとしての、魂のバトンの受け渡しは、4月29日と日限を切った事で上手く行ったのではないかと思う。
ここ数か月での伸び方には、聞いて驚き、目を瞠るものがある。

さっき始まったと思ったら、あっという間に終演。
良いライブの体感時間は、短い。

何故辞めるのか、これからどうするのか、はぐらかしたまま卒業して行った成瀬陽菜が遺した最後の言葉は
「またね」
この、人の悪さも、成瀬陽菜。

(2023.04.30 記)

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