マガジンのカバー画像

SFショート

113
黄瀬が書いた、空想科学のショートストーリー
運営しているクリエイター

#熟成下書き

ほらいずん

ああ、沈んでしまう。太陽が。 広がる海の外がわ。 波は、その地点から発生して寄せてくる。 波は、その地点で産まれている。 他に発生源はないのだろうか。 考えてみよう。 † ないはずだ。 この海では、うねりも風もない。 それは、大きな液体が微動だにせず、 大地に張り付いている状態だ。 それは、この星が死んだ星だと、 痛いほど証左している。 冷たい星なのだ。 温度を上げる装置がイカれてしまって、 風も海流もない。 だから、 波は、あの地点から発生

クロワッサン

「やっぱ月がないと、しまんないよねー」  窓のサンに身を乗り出して夜空を見上げていた君が云った。 「ほら、みかづき。見てよ」  君は頭をもたげて、わたしにうながす。  晴天の夜八時すぎの空には、鈍重な青が重なりあっていて平坦としていたが、  西の山あい、もう沈みそうにかたむく三日月が見えた。 「あそこだけ幕が破れたみたい」  たしかに空に切れ込んだ金色の弧線は、  幕の裏の光が漏れ出るようだった。  風がふきすさんだ、一瞬。  となりの君の髪がまとわりつい