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「懐かしい」が怖い

昔から「懐かしい」ものが怖くて苦手でした。

それは実際に懐かしいもの──昔好きだったアニメとか、小さい頃家族旅行で潜った海とか──からはじまり、懐かしさを感じるノスタルジックな音楽や風景まで、懐かしいと思うものはすべて恐怖の対象でした。

おばあちゃん家が自宅より都会にあったので、小さい頃好きでよく連れて行ってもらったおばあちゃん家の帰り道では、自動車専用道から見える街の光が線を引いて消えていくのが好きでした。
大学生になっても、ネオンや都会の光は湘南新宿ラインの車窓からよく見えて綺麗でした。

でもやっぱり、綺麗だな、が、懐かしいな、に変わると怖くなります。

アニメのエンディングなどもそうで、明るいものにはあまり感じませんが、エンディングらしい、しっとりとした曲が流れると怖くなります。
エンディングっぽい(と、自分が感じる)何のエンディングでもない曲でも怖いです。

記憶のある限り、昔から「懐かしい」が怖く、苦手でした。

昨年、職場の方が「小田和正のライブに行けることになったの!」と話を聞かせてくれました。
実を言うとなぜか私は小田和正さんが昔から苦手で、あまりその話に興味は持てませんでした。
ただ、その方はとても小田和正さんがお好きなようで、とても熱心に話してくださったので私は「おめでとうございます」「いいですね」などと言っていたような気がします。

そのときふと、「そういえば昔からだけど、なんで小田和正さんが苦手なんだろう?」と思いました。

考え出すと答えが出るまで止まらない質なので、数日私の議題はそれに固定されていました。
そうして、私は古い記憶を思い出しました。

小田和正さんの曲が使われていた、保険会社のCMです。

見た記憶がある方もいらっしゃるかもしれません。
小田和正さんのノスタルジックな曲にあわせて、(おそらく)一般の方、老若男女問わずたくさんの写真がテレビ画面いっぱいに浮かび上がっては消えていくCMです。
それは私の幼い頃によくやっていた、懐かしいCMでした。

幼い私はそのCMを、「人はいつか死んでしまう」というメッセージに捉えていました。
赤ちゃんからおじいさんおばあさんまで幅広く写真が出ては消えていく演出をそう受け取ったからだと思います。

私は小学一年生のとき、突然「いつかママは死んじゃうんだ」と気づいて大泣きしたことがあります。
母は面白そうに笑って、「ママはそんな簡単に死んだりしないよ」と私を慰めました。
しばらくして落ち着きましたが、私はほんとうに、死を恐ろしく感じていました。

私の中であのCMは「懐かしい」と「死」をつなげるもので、「死」は「怖い」ものでした。
テレビからふと小田和正さんの曲が聴こえると、あの懐かしいCMを思い出し、怖くなります。

小さい頃の私の感性が、今の私に生きています。

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