ギリギリで落ちなかった橋──木曽川大橋に見る日本のインフラ維持の危機
An Italian trial into the 2018 Genoa bridge disaster that killed 43 people has heard it was known for years there was a risk it might collapse.
by BBC
これはイギリスの公共放送局BBCの記事の冒頭です。2018年、イタリアのモランディ橋は何の前触れもないかのように崩落し、43人もの命が失われました。
もし、あなたの住んでいる地域で、普段使う橋が自分が通る瞬間に崩落することが起きたら、どうしますか?家族の顔を思い浮かべ、これまでの人生を振り返る人もいるでしょう。もしくは、神に祈りを捧げて救いを求めるかもしれません。橋の大きさや立地にもよりますが、よほどの奇跡が起きない限り助かることはないでしょう。
「日本では滅多に起きないんじゃないの?」なんて考えている人は、今すぐ国土交通省のインフラ維持管理の現状報告を見たほうがいいでしょう。この国のインフラは老朽化が進んでいることがよくわかります。
もちろん、国、地方自治体、各インフラ管理会社、ゼネコンや建コンなど多くのプレイヤーがこの問題に全力で取り組んでいますが、正直な話、太平洋を自由形で泳いで一周しようとしているようなもので、イタチごっこが続く中、状況はさらに悪化する見通しです。
土木に携わっている方々や土木に興味のある人たちも含め、この問題への関心はますます高まっており、様々な場所で話題に取り上げられることが多くなっています。今回の記事では、インフラ損傷による事故がもはや非日常ではないかもしれないということを、これからインフラ管理を担う土木学生や一般の方々に伝えたく、執筆させていただきます。
ギリギリ落ちなかった橋
さて、今回取り上げるのは、愛知県と三重県を結び、木曽川を横断する木曽川大橋についてです。タイトルにもあるとおり「ギリギリ落ちなかった橋」としてこの木曽川大橋を挙げさせていただきますが、この「落ちなかった」という言葉、非常に怖いですよね。もしかしたら落ちていたのかもしれないと思うと、通るのに少し覚悟が必要になってしまいます。今は修繕されて、その心配は低くなったかなと思うのですが、なぜ落ちそうだったのか、その原因とどのように改善されたのかについて見ていきましょう。
木曽川大橋とは
まずは木曽川大橋について概要を知りましょう。以下、Wikipediaからの引用です。
三重県桑名市と同県桑名郡木曽岬町にまたがる、橋長858.46 m(支間長:70.63 m)の12連単純平行弦下路ワーレントラス橋である。片側2車線の上り線と下り線がある。1日当たりの平均交通量は約53,000台であり、木曽川に架かる無料の道路としては最南端の橋である。橋下の木曽川は汽水域となっていて、橋の南西には長島スポーツランドがある。
木曽川大橋は木曽川に架かる国道23号の道路橋梁で、1966年に現在の形となって供用開始されました。昔は有料道路として供用されていましたが、現在では名四国道としてバイパスの役割を果たしています。
橋崩落の危機
国道として毎日6万台もの自動車が通るこの橋は、2007年についにその綻びを見せることになります。職員が見つけた損傷は、道路を支える鋼材の破断でした。破断した鋼材は上下に完全に分離されており、下の部材は宙ぶらりん状態。いつ落ちてもおかしくはない状態でした。
奇跡的に落橋することはありませんでしたが、橋の状態としては非常事態であるため、緊急対策工事が行われました。なぜ落橋しなかったのでしょうか。
以下にその理由を簡単に解説します。木曽川大橋の床版は、トラス構造の下部に位置しており、網かごの中に包まれているような構造のため、橋が落ちなかったというわけです。トラス構造についてはまた別途解説させてください。
どのような対策が行われたか
では、どのように対策が行われたのでしょうか。こちらについては、名古屋大学の山田健太郎先生の講演内容から抜粋してまとめさせていただきます。
https://jsce.or.jp/journal/jikosaigai/20080102.pdf
まず、破断に至った原因ですが、これは建設50年以上が経った劣化による損傷の典型例だと言えます。腐食によってH断面の斜材はフランジとウェブがなくなっており、コンクリートからは完全に抜け落ちるような形になっていました。
普段の生活で鉄の錆びに遭遇する機会はしばしばあるかと思います。自転車の錆や家のフェンス、道を歩いていても街灯の一部や消火栓など、錆びは日常生活の中に溶け込んでいます。しかし、錆びによって鋼が完全に分断されるということはどうでしょうか。些細な錆びを放置し続けると、気付かぬうちにその錆は鉄を腐食し続け、最終的に破断させるのです。
木曽川大橋の場合、構造的な問題もありました。下フランジと斜材の交差部がコンクリートの床版に囲まれるような形で全く見えない状況になっており、点検をしていなかったのです。錆や塗装のはがれに気づいたら削るし塗り直すということができない状況でした。これでいかに点検が重要かがわかります。また、点検が難しいからといって放置していいわけではないという教訓になりますよね。それなのに、似たような事故は昨今も絶えず発生しています。これが現代日本の維持管理問題の深刻さというわけです。
さて、完全に分断された斜材をどのように修繕したのでしょうか。
鋼材の補修では次のパターンがよく使われます。錆びを削って当て板をするパターン、完全に部材を取り替えるパターンです。多くの場合、錆びを削って当て板をする方法が用いられます。部材を取り替える場合は完全に1から作りますが、当て板をするパターンではメッキされた板を錆びを削った箇所に当てて接合し、その後に塗装して腐食の進行を防ぎます。
今回の場合、構造的な問題もありましたので、コンクリート床版の一部を削って斜材と下フランジの交差部も近接目視可能な状態にしました。点検のしやすさを重視した設計も求められます。
まとめ
木曽川大橋は老朽化と点検不足により、鋼材が破断する深刻な事態に陥りました。幸い落橋は免れましたが、これを機に点検の重要性とインフラ維持の課題が浮き彫りになりました。今後は定期的な点検と修繕、そして点検しやすい設計が求められます。
ということで、今回は木曽川大橋について取り上げさせていただきました。皆さんに覚えていただきたいのは、やはりインフラ維持管理問題が深刻になっているということです。つい最近衆議院総選挙がありましたが、この問題を大きく取り上げていた政治家何人いたでしょうか。様々な制度や経済への政策、福祉や厚生への補助など様々な公約があっていましたが、それらが成り立つのは、壊れないインフラがあってこそです。そして耐久値の減らない道具などこの世には存在しません。時間の進行によってものというのは変化していき、劣化していきます。私たちが何の基盤の上に立っているのか。これを知ることは重要です。
私たちは2ndStarはインフラの重要性を新たな世代に伝えていくことを一つの活動としています。
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