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思いがけないメリークリスマス、あなたに言われるとは

もう今年のクリスマスは終わってしまったけれど、2年前のリバプールでのメリークリスマスの話。

すでに記憶が薄れつつあるけれども、たしかウィーン旅行から当時住んでいたシェフィールド(イングランド中部)への帰路だったと思う。シェフィールドには空港がないからリバプール空港に降り立って、そこで一泊した。

ちょうどクリスマスイブで街は閑散としていた。リバプールはシェフィールドより治安は良くない感じがしていたため、なるべく外を歩く必要のない空港近くに宿をとっていた。それでも、日は沈んで、じっとりとした石造りの街並みを一人歩くのはこころぼそかった。

さて、無事にホステルに着き安心して眠りにつくことができた翌朝。(本当は同室になったブルガリア人のご婦人もなかなかのインパクトがあったのだけど、それはまたの機会に)

朝食を調達しようと、近くのTESCOに向かった。(TESCOはイングランドの食糧庫と言っても過言ではないほど、至る所にある庶民のスーパーマーケット)

通いなれたシェフィールドのとなんら変わりないリバプールのTESCOに入りかけたとき、「Merry Christmas」という声が下から聞こえた。一瞬私に言われたのかよく分からず戸惑ったけれど、周りには誰もいないし明らかにそれは私に向けられたものだった。

声がした方に顔を向けると、一人のホームレスの男性がいた。私はぎょっとしてしまった。ホームレスに声をかけられるのが初めてだったというのもある。ただ、それ以上によりによってその言葉が「Merry Christmas」ということが衝撃だった。これは私の明らかなステレオタイプだから反省しなければならないのだけど、ホームレスの口から神を祝福する言葉が発せられるとは、しかもそれがアジア人の小娘(私)に向けられるとは。いろいろとミスマッチすぎて私の脳内は一瞬混乱してしまった。

残念ながら私も「Merry Christmas」と返したのか、それともひきつった笑みしか浮かべられなかったのか記憶にはもうない。ただ店内に入り朝食を物色しつつ頭の中で反芻するうちに、嬉しさと可笑しさが衝撃と混じり始めたのははっきり覚えている。

もし私がホームレスだったら、クリスマスで浮足立つ街を馬鹿馬鹿しく眺めていたかもしれないし、帰る家すらない境遇を嘆き神様を呪ったかもしれない。でも彼は「Merry Christmas」と事もなげに言ってくれた。リバプールは数回しか訪れたことがなかったのに、そのひと言で私もこのコミュニティの一員だと一瞬でも感じられた。

これだから世界は面白い、まだ私には見たい、感じたい出来事があると思った2年前のクリスマスだった。


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