定期借地権を検討するすべての人へ
最近定期借地権の新築マンションが増えてきました。
デフレ時代は寝て起きたら物の価値が下がって円の価値が上がっていたので、不要な土地はバンバン売却して円に変えるのが吉でしたが、インフレ時代になると逆転します。特に都心の一等地を手放したくない、でも土地は有効活用したい、と思う地主のニーズもあって定期借地権のマンションは今後も増えていきそうだなと思います。
さて本題。定期借地権のマンションは「土地を所有しない代わりに安く買えること」がメリットなのですが、どれくらい安いと適正なのか定量的な指標がわかりません。安く買えてもそれ以上に安く売れるんじゃないかという不安もあって私自身積極的に定期借地権のマンションには手を出してきませんでした。
とはいっても世は大定期借地権時代、続々と気になる定期借地権の新築マンションがリリースされています。リビオシティ文京小石川、パークタワー渋谷笹塚、パークコートタワー青山大樹町ザタワー、ブリリア月島四丁目…
ガチで検討するからにはしっかりリスクが腹落ちしないと前に進めないタイプなので、定期借地権と価格の関係性についてまとめてみたいと思います。
普通借地権と定期借地権
まずは普通借地権と定期借地権の違いから。ホームズ参照。
普通借地権
「借地人の希望によって契約は更新できる」「契約終了時に地主に建物の買い取り請求ができる」ことが特徴です。借主の権利が強いです。幕張ベイタウン(*ベイパークじゃないよ)のマンションは多くは千葉県が地主の普通借地権ですね。
定期借地権
「更新がない(したくてもできない)」「契約期間終了後には借地人は更地にして土地を地主に返還する」ことが特徴です。普通借地権と違って貸主の権利が強く、借地期間満了後は必ず借主は土地を返却する必要があります。更地にして返却するので原則建物を壊す必要があります(後述しますが例外もあります)。
定期借地権の特徴
地代がかかる
土地を借りるので当然ではありますが、土地を借りる費用がかかります。これは所有権のマンションにはないコストです。
地主によって金額は変わりますし、算定の根拠も異なります。数年に1回の頻度で地代を見直すとしているマンションもありますので、一口に地代と言ってもマンションによってその金額は異なります。
また前払い地代という形で、物件価格に将来払うべき地代を包含しているマンションもあります。こういったマンションは将来払うべき地代の一部または全部を先払いしているので毎月支払う地代が抑えられます。マンション価格に織り込んでくれると住宅ローンとして借りれますし、購入者目線では嬉しいことが多いです。最近だとパークコート渋谷ザタワー(全部)、ブリリアシティ西早稲田(一部)などが前払い地代を採用していました。
解体準備金がかかる
上で触れた通り基本は「更地にして土地を返す」ので、借地期間満了までに建物の解体を行う必要があります(解体の期間もあるので期間満了の少し前から解体には着手します)。
当然解体にはお金がかかりますので、解体のための資金を貯めておく必要があります。それが解体準備金です。新築引き渡し時に一時金を支払い、その後毎月積み立てて行くパターンが多いです。
極稀に貸主が建物解体することなくそのまま土地を返却することを許可しているケースがあり、その場合は解体準備金の積立は不要です。最近だと「ドレッセタワー南町田グランベリーパーク」がそうでした。
定期借地権という制度は1992年から始まっており、借地期間は最低でも50年ですので、まだ解体を行ったマンションはありません。これからインフレが進んでいった時に解体準備金が足りないマンションが出てくるような気がするのですが、土地返却前に足りなくなった際に解体準備金の一時金が集まるイメージが湧かないのが不安ではあります。(住人の多くが高齢者、かつこれから返すもののために皆が喜んで大金を出すとは思えない…)
税金が不要
土地を所有しないので、土地にかかる税金が不要です。土地部分の固定資産税や都市計画税が不要になります。ホームズのサイトを参考に㎡あたりの土地部分固定資産税を計算してみます。
<前提>
・東京都23区の平均地価:620,600円/㎡(参考)
・固定資産税評価額への換算:地価×70%(参考)
・軽減税率(200㎡以下の場合):16.7%(1/6)
・税率:1.4%
ということで東京都23区の平均的な地価だと約1,000円/㎡程度の固定資産税が発生します。年間なので月に換算すると80円/㎡程度になります。
地価は場所によって大きく異なります。区毎に見てもその差は大きく、都心好立地になればその影響はより大きくなってきますのでご注意ください。国交省が出している地価調査結果はこちらから確認できます。
新築マンションの販売サイトでは「定期借地権マンションは土地部分の税金がかからないからお得」と書かれています。税金がかからないことは事実なのですが、地代・解体準備金という追加コストが発生し、多くのマンションで[地代+解体準備金>土地部分税金]となるので、結果的にランニングコストは所有権のマンションに比べてプラスになることがほとんどです。
借地期間と価格の関係性
借地期間と価格の関係性についてです。「定期借地権のマンションは土地を持たない分、物件価格が安い」と言われますが、どれくらい安いのが適正なのか、また借地期間の長さによって適正価格はどう変化していくのか、を調べてみました。
分析の仕方は、定期借地権のマンションと周辺の所有権中古マンションの成約価格を比較します。築年数や駅距離の条件を比較対象の所有権マンションに揃えるために築年数・駅距離ともに「築1年or徒歩1分=坪4万」で補正(以下「条件補正価格」と記載)したもので比較を行いました。
新築価格との比較は新築時の値付けの強弱に結果が依存してしまうため割愛、マーケットが「借地期間」をどう評価するのかをより精緻に把握することを目的に直近中古成約事例との比較を行っています。
尚、比較物件は成約の鮮度を優先し、直近成約事例があるものを優先的に採用。地代、解体準備金は物件ポータルサイト等にある情報から確認したので一部不十分な点があるかもしれませんがご容赦ください(気になる不備あればこっそり教えてください)
シティタワー品川
2008年築 品川駅徒歩10分
借地期間残56年/72年
地代202円/㎡ 解体準備金42円/㎡
直近成約単価:坪350万
条件補正単価:坪338万
価格乖離率:70.4%
コスモポリス品川(比較物件)
2005年築 品川駅徒歩10分
直近成約単価:坪480万
パークホームズ南麻布ザ・レジデンス
2013年年築 麻布十番駅徒歩7分
借地期間残38年/52年
地代154円/㎡ 解体準備金105円/㎡
直近成約単価:坪440万
条件補正単価:坪464万
価格乖離率:68.7%
ピアース麻布十番(比較物件)
2019年築 麻布十番駅徒歩7分
直近成約単価:坪675万
桜プレイス
2012年築 雑司が谷駅徒歩7分
借地期間残38年/50年
地代246円/㎡ 解体準備金30円/㎡
直近成約単価:坪250万
条件補正単価:坪226万
価格乖離率:53.8%
目白プレイス(比較物件)
2006年築 雑司が谷駅徒歩7分
直近成約単価:坪420万
ブリリアシティ西早稲田
2022年築 雑司が谷駅徒歩8分
借地期間残68年/70年
地代107円/㎡ 解体準備金105円/㎡
直近成約単価:坪390万
条件補正単価:坪330万
価格乖離率:78.5%
目白プレイス(比較物件)
2006年築 雑司が谷駅徒歩7分
直近成約単価:坪420万
パークコート渋谷ザタワー
2020年築 渋谷駅徒歩8分
借地期間残69年/73年
地代0円/㎡ 解体準備金237円/㎡
直近成約単価:坪760万
条件補正単価:坪736万
価格乖離率:92.0%
アトラス渋谷公園通り(比較物件)
2013年築 渋谷駅徒歩7分
直近成約単価:坪800万
パークコート神楽坂
2010年築 神楽坂駅徒歩1分
借地期間残56年/70年
地代121円/㎡ 解体準備金?円/㎡
直近成約単価:坪750万
条件補正単価:坪758万
価格乖離率:132.9%
プラウド神楽坂(比較物件)
2013年築 神楽坂駅徒歩2分
直近成約単価:坪570万
パークコート神宮前
2009年築 明治神宮前駅徒歩7分
借地期間残37年/52年
地代1,188円/㎡ 解体準備金35円/㎡
直近成約単価:坪400万
条件補正単価:坪372万
価格乖離率:35.4%
パークハウス神宮前(比較物件)
1997年築 明治神宮前駅徒歩2分
直近成約単価:坪1,050万
パークハウスプレシアタワー
2009年築 船橋駅徒歩10分
借地期間残36年/51年
地代205円/㎡ 解体準備金?円/㎡
直近成約単価:坪110万
条件補正単価:坪134万
価格乖離率:63.8%
ウエリス船橋夏見(比較物件)
2016年築 船橋駅徒歩11分
直近成約単価:坪210万
リビオ日暮里グランスイート
2012年築 日暮里駅徒歩6分
借地期間残48年/60年
地代89円/㎡ 解体準備金?円/㎡
直近成約単価:坪250万
条件補正単価:坪274万
価格乖離率:65.2%
プラウド日暮里テラス(比較物件)
2020年築 日暮里駅徒歩8分
直近成約単価:坪420万
銀座タワー
2003年築 東銀座駅徒歩5分
借地期間残39年/50年
地代602円/㎡ 解体準備金?円/㎡
直近成約単価:坪350万
条件補正単価:坪382万
価格乖離率:56.5%
ザ・パークハウス東銀座(比較物件)
2015年築 新富町駅徒歩1分
直近成約単価:坪675万
マンションによる個体差があるので比較が難しい面もありますが、上記を踏まえ借地期間の長さによって周辺同条件の所有権マンション比でどれくらいディスカウントして評価されるのかをまとめました(以後「ディスカウント率」と表記)。
例えば桜プレイスは周辺同条件の所有権マンションと比べた時に半分の価値として評価されるという意味です。(→は参考にしたマンション)
ざっくり言うと定期借地権のマンションは経年の減価に加えて毎年1%評価が下がっていくことになります。このことから定期借地権のマンションの出口を考えた時にはできるだけ早く手放すのが吉ということになります。
ちなみに新築時の販売価格の値付けは私の体感ベースだと以下のような感じです。
新築販売価格とマーケットの評価であるディスカウント率を比較すると、70年が最も乖離が少なく50年になるに従って乖離幅が大きくなってきます(新築販売価格は私の体感値なので多少のズレがあります)。相場評価額相当を新築販売価格でもディスカウントしてくれれば良いのですが、実際はそうなっておらず定期借地権の新築マンションを買うなら借地期間70年を買うのが最も手堅いです。
上記で示した平均数字以上に高く評価されているマンションもあります。「パークホームズ南麻布ザ・レジデンス」や「パークコート渋谷ザタワー」や「パークコート神楽坂」です。特にパークコート神楽坂は借地期間は残56年ですが、周辺同条件中古と比べて132.9%と定期借地権にも関わらず高く評価されています。同マンションは赤城神社建て替えと一体で開発され、神社の中に建っているスペシャルな立地であることが評価されていると推測されます。
また「パークコート渋谷ザタワー」は好立地であることに加えて、地代の全てが前払いで支払済となっており、毎月の地代が発生しません。このようなポジティブ要素が高い評価の一因となっているはずです。
一方で好立地にも関わらず評価が低いマンションもあります。「パークコート神宮前」です。同マンションは原宿駅徒歩6分/明治神宮前駅徒歩7分という抜群の立地にも関わらずディスカウント幅が大きいです。その要因はとんでもなく高い地代と想定されます。
一般的な定期借地権マンションの地代が100〜200円/㎡程度に対して同マンションの地代はなんと1,188円/㎡です。70㎡だと地代だけで毎月83,160円ものコストがかかります。地代だけで3,000万くらいのマンションを買うのと変わらないコストですが、これに管理費・修繕積立金・解体準備金がかかってきますので驚異的なランニングコストになります。
まとめると
・借地期間は長いほど高く評価される
・毎年1%程度周辺相場とのディスカウント幅が大きくなる
・好立地であれば例外的に高く評価されるケースもある
・地代が異常に高いマンションは要注意
・新築で買うなら借地期間70年を選びたい
おまけ
文字だけだと自分で書いていてもわかりにくいな…と思ったので、所有権と定期借地権の価格推移イメージをグラフにしてみました。結構大事な後半部分のパラメーターがエイヤーである点と前提条件によって結果が異なりますので、あくまで参考程度にご覧ください。
所有権と定期借地権の価格差が年を追う毎に広がっていく点が伝わればそれでOKです。またこのグラフは将来を保証するものではありませんのでご注意ください。
ちなみに築30年以降、減価スピードがなだらかになっていますが、「単に減価が止まっているのか、リノベ等を行いバリューアップを行うことで底上げがなされている」のかはわかりません。
*縦軸は所有権新築を100とした時の価格、横軸は築年数となっています。また借地期間70年のマンションを前提にしています。
<前提>
・所有権の価格はスタートを100とし、10年単位で減価率をかけ合わせて試算。減価率は築0年〜50年はレインズデータ参照、築50年以降は40年→50年と同じ減価率を採用
・定期借地権の価格は所有権の価格に対し年数に応じたディスカウント率をかけ合わせて試算。築0〜30年のディスカウント率は上記シミュレーション値を採用、築30年以降は70年時点で0になるように40〜50年:前10年+10%、60〜70年:前10年+15%のディスカウント率を採用
*例:築10年の所有権価格は89、定期借地権価格は89に築10年(借地期間残60年)のディスカウント率70%をかけ合わせて63と試算
借地期間残40年(築30年)以降、所有権との開きが大きくなっていきます。売却を前提に購入する場合は、余裕を持って残50年(築20年)を目処に売却を視野に入れておきたいところです。逆に残40年(築30年)を切っても保有する場合は、賃貸等を組み合わせ借地期間満了まで持つということを意識したいです。
上記を踏まえると、借地期間が長いことは正義ですので、「新築かつ借地期間70年」を選ぶと残債割れリスクを低減することができます。また定期借地権マンションを中古で購入する際は残期間があとどれだけ残っているのかは注意すべきポイントです。
ここが怖いよ定期借地権
融資が付きづらい問題
新築で購入する際は特に問題なく融資を受けることができますが、中古で売却する際に買い手に融資が問題なく付くかどうかはリセールを考えるうえで重要なポイントです。
かつての日本のバブル崩壊、最近の中国不動産バブル崩壊いずれも銀行の融資を絞ったことが影響しています。不動産が暴落する時はお金の流れが止まった時です。その点で将来的に融資が付きづらい可能性があることはリスクだと考えます。
私は銀行の中の人ではないので、程度問題は詳しくないですし、現時点では定期借地権のマンションも中古で売買が成立している事実もあるので大きな問題ではないと思いますが、生殺与奪の権を銀行に握られている点は少々心配です。
マンションの建物部分の法定耐用年数は47年ですので、47年経つと建物の評価は理論上ゼロになります。そして定期借地権は土地を所有していませんので土地の評価もゼロです。そうなった時に銀行としてお金を貸しづらくはなるだろうなと思います。(取引事例で担保価値を評価することもあると思うので、47年経てば直ちに担保価値がゼロになるという意味ではありません)
管理・解体できるのか問題
定期借地権のマンションは良くも悪くも終わりが決まっています。
良い点は終わりが決まっているが故にそれに向けた管理ができること。解体準備金を積み立てて更地にするところまで計画されています。
悪い点は計画がうまく機能しなかった時にリカバリが難しそうという点です。具体的には管理費・修繕積立金・解体準備金の値上げハードルが相当高いと思われる点です。
新築で引き渡されたばかりの頃はともかく、残期間が短くなってくると住民は皆終わりを意識するはずです。もうちょっと我慢したら更地になるのだから追加コストを払いたくない、という人は一定数いるはずで調整は困難を極めると思います。所有権のマンションでも修繕積立金の値上げは相当苦戦すると聞きますので、定期借地権はその比ではありません。
購入時にチェックしたいポイント
言いたいことはほぼまとめましたが、改めて定期借地権のマンションを購入する際にチェックしたいポイントをまとめます。
販売価格が安ければそれでOKです。そうでない場合は地代や立地などでの加点要素で価格のマイナスを払拭できるのかが判断においては重要になってきます。
販売価格が相場評価なりにディスカウントされているか?
相場評価の価格に比べて高く販売されていることが大半ですので、相場評価相当にディスカウントされていればリスクはかなり抑えられることができます。
借地期間は70年か?
販売価格が一般的な定期借地権なりであれば、借地期間は長ければ長いほど安心です。70年のマンションを選びたいです。
前払い地代はあるか?
前払い地代があるとその後の地代コストが抑えられます。リセールにおいてもプラスに働く部分ですので、要チェックです。地代が300円/㎡を超えてくると割高感が出てきます。
希少性のある立地か?
定期借地権であることを差し引いても住んでみたいと思える立地のマンションはその後も高く評価される傾向にあります。
定期借地権マンション購入における心構え
所有権のマンションに比べてリスクが大きいことは確かです。そのリスクを負ってでも住みたい立地なのか、リスクの大小はいかほどなのかを精査し、リスクに対してリターンが上回るようであれば検討を進めていけば良いと思います。
販売する側は「希少な立地にお安く住めます」と甘い言葉をかけてくると思いますが、物件価格だけに惑わされることなく最低限本記事で触れている切り口はチェックの上、リスクの全体感を正しく把握するように努めてください。
定期借地権は終わりが決まっており、年とともに価値が目減りしていく特徴があります。所有権のマンション以上に購入の段階で出口戦略を明確にするべきです。「終の棲家として永住する」ことももちろんその一つです。
個別相談も受け付けておりますので、ご自身で解決できない悩みがありましたら、こちらからお気軽にご相談ください。
【おまけ】定期借地権の気になる新築マンション
最後は今販売中(販売予定も含む)の定期借地権新築マンションの中で個人的に気になるマンションを3つ紹介して終わりにしたいと思います。
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