『「290円ラーメン」終売でもまだまだ安い幸楽苑、なぜコロナ禍が明けても不調が続いているのか』を読んで考えたこと

私は経済や流通の専門家でもないし、ラーメン業界とは全く関係がない(ただの通りすがりの客)だが、たまたま読んだこの記事の感想を書きたい。
著者に対しては全く知らないので、もし失礼なことを書いたら申し訳ない。しかし、文章を書いて世の中に出すというお仕事だから、こうして色んな反応があるのは織り込み済みだと思われる。
プロフィールや、過去の記事は一通り読ませていただいたし、Xも拝見した。最近は飲食チェーンについて取り上げられている。経済、企業経営、個人のお財布関係などについて書かれている。ライターになったことがないから知らないが、恐らくノルマのようなものがあって世間の関心が高いであろう記事を一定ペースで量産しなければならないのではないかと想像している。

さて、この記事を読んだ第一印象を忖度なしに書くとすれば、「薄っ」であった。だからツッコんでみたくなったというのがこれを書いている動機だ。インターネットか、四季報くらい読めば書けてしまう記事。乱暴に要約すると、安いラーメンで人気を博してきた幸楽苑だが、現下の経済状況に耐えられず中途半端に値上げし、格安感を失うと同時にシンプルすぎるラーメンは取り立てて特徴もなく客離れを起こしている、というもの。この程度の記事なら、幸楽苑のラーメンを一度も食わなくても書ける。ネットに書かれている情報なら世の中の人は知っているわけで、余程独特の視点でもなければ、まとめてくれただけでは価値が見いだせない。

幸楽苑は格安ラーメンという分野で日高屋と一時期は覇を競った存在なので、両社を比較した記事は過去に幾つも出ているが、本記事には日高屋は一切登場しない。日高屋が成長しているのに幸楽苑が縮小してゆく原因には、多くの幸楽苑の問題点が浮かび上がってくると思う。しかし今更それを書いたところで後追い記事にしかならない。だから、幸楽苑のことだけ書けば良いとは思うのだけれど、同社が苦戦している原因はこの記事からは浮かび上がってこない。

この記事には対照するラーメンチェーンとして「山岡家」が出てくる。私はオッと注目したのだが、名前が出ただけで終わってしまっているのが残念。山岡家の本社と幸楽苑の東京本社はつくばエキスプレスで結ばれているというのは偶然だろうか、取材なんてしていたら時間が掛かりすぎてこの程度の記事には無理なのかもしれないが、せめて訪問して話くらい聞いてみてほしかった。両社の最大の違いはフィロソフィーだと私は考えている。

幸楽苑がチェーンとして成長したのは単に安かったからだけではない。ラーメンそのものもそうだし、記事に一切出て来ないがオリジナルの餃子もそうだし、各店の接客態度もそうだが、お客さんを喜ばせよう、奉仕しようという気持ちが伝わってきたからこそ、素朴なラーメンに人気が集まったのだと考えている。創業者の作った「味よし食堂」について触れられているが、創業者のプロフィールを読まれただろうか。どうして定年退職後に会津若松の地で食堂を作ったのか。震災前頃までは、創業者のフィロソフィーが会社全体の指針になっていたと考える。しかし店舗拡大に走り、海外進出まで企てる過程において、そうした理念が忘れ去られ、とにかく利益を上げさえすればいいという大企業病みたいなものに冒され、創業者の教えを思い出せなくなってしまったことが衰退の本当の原因だと私は考える。指ラーメンの話も全く出て来ないが、あれは同社がおかしくなっていることを象徴する出来事だった。今更中傷する必要はないけれど、どうしてあんなことが起きたのか、そしてその対応収束はどうだったか、という点は企業カラーを分析するに当たり必須ではないだろうか。

セントラルキッチンのことがチラッと出てくるが、本社機構と比べると工場にはまだ創業者のフィロソフィーが息づいているんじゃないかと思っている。そのひとつの根拠がオリジナル餃子である。今時、あの価格であんな立派な餃子を作って売っている会社はないのではないか、私は少なくとも知らない。味の素が冷凍餃子を常に改善してゆく前向きさについては色々書かれているが、確かに冷凍餃子を身近にしたのは味の素だとしても、味とクオリティは格段に違う。コストダウン圧力は凄まじいものがあると思うが、それでも幸楽苑の工場は価値を保っていると思う。

最後に、山岡家はちょっと変わったチェーンだが、お客さんを飽きさせないように新作メニューが毎月登場する。あのメニューは社内で企画、試作して選ばれているのだが、誰がどのように選んでいるのか調べてみると、同社の強みがわかるのではないかと思う。徹底的にお客さんの方を向いて反応をつぶさに観察して、喜ばせようとしているのは「ラーメン花月嵐」と良く似ていると思う。ターゲット客層が違うけれど。商品そのものにも満足しているが、そのホスピタリティを感じてリピーターになる人が多いのだと私は思う。ただ、猛烈に本社の牽引力があってスピード経営だが、接客は各店によってバラつきがあって、良い意味でワイルドさが残っている気がする。それに比べると幸楽苑は教育が十分に行き届いていて、接客は素晴らしい。

企業だって結局は人の集まりであって、数少ないリーダーのキャラクターによって大きくその姿を変える。だから中の人や雰囲気を知らずに論評しても薄っぺらい。まして全国規模のラーメンチェーンであっても本社はごく小さく、キーマンは限られている。私はそこまで具体的に知っている訳ではありませんよ。でも、読者としてはそういう取材をしていただいて、ライラーの目から見てどう映ったか、というのは非常に関心がある。回転寿司チェーンなんかも、経営者や本社幹部はキャラクター揃いなんで面白いのではないですかね。

今後もお得意の知識やご経験を活かして、是非面白い記事を書いて下さい。楽しみにしております。あれこれ批判して申し訳ございません。

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