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人を「住所」で記憶する

初対面の人と話していて、いつも口をついて出てしまう質問がある。

「どこに住んでるんですか?」

人によっては「何だこいつ、いきなりプライベートなこと聞いてんの?もしかしてストーカー?」って思われても仕方ないと思う。でも私は人のことを覚えるときに「住んでいる所」が、その人を記憶しておくのにかなり大事な「索引」になる。この思考回路はある種、病的な自覚があり、私とリアルで知り合いの人はほぼほぼ住所を覚えているし、逆に「住所を覚えていない」人は、自分の中では「知り合い」のタグ付けはされていない。

もちろん住所と言っても詳細な住所ではなく、社会人になって以降は「最寄りの駅」ぐらいのものだが「○○さんは××に住んでいる」というのが、その人を想起する時のいちばん最初の情報になっている。いや、むしろ脳内処理的には「××に住んでいる○○さん」というが正しいプロセスな気さえする。

だから会うのが2回目ぐらいのビジネス関係の人たちと飲み会などしていても「皆さん終電大丈夫ですか?○○さんは保谷でしたよね?△△くんは王子神谷、□□さんは船橋、××さんは祖師ヶ谷大蔵だからまだもうちょっといけそうですね」のような会話をナチュラルにしてしまい、毎回それなりに引かれている。しかし、それでもなお私の中で「住所」は「名前」と肩を並べるぐらい大事な情報なのだ。

思い返せば、それは小学生の時からその思考回路はできていた。「○○くんの家はあそこ」みたいな情報は、いつも遊んでいる友達だったら当然知っている情報だとは思うが、私が自身で病的だと思う理由は、学年全員の家を覚えている点だ。あまり喋ったことないような女子ですら、どこに住んでいるのかはハッキリ覚えている。

あれから20年近く時は経ち、SNSの普及により、当時の友達とひょんなことで繋がることも多い。不意に、小学校の友人と名乗る「加藤さん(仮名)」という女性からコンタクト申請があった。共通の友人が何人も繋がっている様子だったので、詐欺的なソレではなく、確実に同級生のようだった。しかし正直、誰だかまったく思い出せなかった。

「おおお!二階堂君、久しぶりー!小学校の同級生の加藤です!今は結婚して三浦になったけど(笑)。SNSってすごいね!」

「久しぶり!元気してた?」

こういうときSNSは便利だ。対面だったら「えっ…?同級生の加藤さん? ああ!……ん? えっと… ああーー!! ハイハイ、久しぶり!……ハハハ!……え?……いやぁ……うん……ハハハ!……元気してた?」という対応になっていただろうに、ネット上では堂々と「久しぶり!」を放つことが出来る。初手で分からなくても、ゆっくり記憶に追いつけばいい。

しかしその後も必死に思い出そうとするが、誰だか分からない。アップされている写真を見てみるが、マジで思い出せない。誰なんだ加藤さん。

知らない人とはこれ以上は話が続かないので、なんとか記憶の糸をたぐり寄せるために、まずはじめに選んだ質問はもちろんコレだ。

「あれ、加藤さんってどこに住んでたっけ?」

なんと白々しい聞き方だろう。「あれ」がポイントだ。「あなたのことは知ってるけど、住んでるところは忘れちゃった」的な無駄なアピールが内包されている。コミュニケーションにある程度の自身がある人なら、この質問で「あ、こいつさては分かってねえな?」って感付かれるものなのでしょうか?ギリギリ感付かれないんじゃないですか?違いますか?

「当時は、××の団地に住んでたよー!」

そこで私の欠落した記憶の回路は完全に繋がった。完璧に分かった。”あの団地の”同級生ね。ハイハイ。

ってな感じで、場所の記憶の方が、名前よりむしろ明晰なのだ。だから加藤さんの件もそうだが、名前は思い出せなくても「どこに誰が住んでいたか」という記憶は絶対に忘れない。「住所」に重きを置いている記憶の癖(ヘキ)は、ある程度珍しいとは思うのだが、正直これが自分だけの癖とは思えない。

でも、飲み会などの席で度々この話題になり、いろんな人に意見を聞いても皆あまりピンと来ていない様子なのだ。

誰か共感できませんか?

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