スイス - ノヴァルティス・パビリオン ワンダー・オブ・メディスン
スイスにあるノバルティス・パビリオンの展示室「Wonders of Medicine(医学の驚異)」に行ってきた。(訪問日:2023/04/19)
この展示室は世界的な製薬会社であるノバルティスが作った医学についてのミュージアムである。ミュージアムのあるノバルティス・パビリオンはノバルティス本社が所有する広大な敷地の一角にある、円形の近代建築の建物である。ミュージアムのほかにはカフェとショップを備えている。
なぜ私がここへ来たのかと言うと、幻覚剤LSDの展示があるだろうと見込んで来たのである。
ノバルティス社はカイギー社・チバ社・サンド社が合併してできた製薬会社で、その中でもサンド社は世界的な規制薬物であるLSDを開発した会社である。LSDについての展示というのは世界的にもなかなか見れるものではない。LSDは悪名のせいで霞んであまり知られていないが、脳内物質セロトニンの発見のきっかけになった物質であり、医学的・科学的にも重要な物質である。LSDの生んだ会社の展示とあれば、私もまだ見たことのない資料が展示されているのではないか?と思い、訪れた。
展示は予約制で、ノヴァルティス・パビリオンのHP(公式HP)から予約できる。クレジットカード支払いで、価格はCHF10。
受付ではまず荷物と上着をロッカーに預けるよう言われ、ロッカーに預ける。そのあと音声ガイドのスマートホン端末とヘッドホンを渡される。音声ガイドの言語は英語・ドイツ語・フランス語から選べる。
展示室は建物の二階で、ドーナツのような円形状の部屋になっている。閲覧には順番はなく、円形の展示室の好きなところを自由に回る形式のよう。展示に近づくとヘッドホンから音声や動画が流れる仕組み。
スイスの製薬会社は化学染料産業から発展した。19世紀後半のスイス、バーゼルの地では、バーゼル化学工業(後のチバ社)とケルン&サンド社(後のサンド社)が大きな化学染料産業の会社だった。これらの会社はのちにノバルティスとなる会社達である。
バーゼルはフランスとドイツの国境の街で、しかも川上地域であったために交通の便が良く、染料が不可欠な織物の工場に染料を届けるのに便利であった。また国境に流れるライン川に廃棄物を流せるという、工場にとっては好都合な環境が相まって産業が発展したそうである。
また当時のスイスは特許については規制が緩かったために、外国の医薬品をコピーして製造することが出来た。そのため染料の会社は19世紀末ごろには自身の化学技術を用いて医薬品を製造するようになったのである。
LSD
展示の一角にしっかりLSDについての展示もあった。麦角と動画がこのように展示されている。
1938年とはLSDが合成された年である。この展示は麦角とLSDについてのものだ。これはLSDを開発したサンド社が合併してできたノヴァルティス社だからこそできる展示だろう。
麦角は麦角中毒という食中毒を引き起こす代物でもあるが、子宮収縮効果のある物質が含まれているため、古くから微量の麦角が堕胎薬や出産後の止血薬として使われていた。LSDは麦角に含まれるリゼルグ酸の誘導体として合成された物質である。(麦角には含まれない。)LSDはリゼルグ酸の研究過程で偶然生まれた物質で、LSDの開発者である化学者アルバート・ホフマンがLSDを摂取してしまったときのエピソードも少し動画で紹介されていた。
ミュージアムショップにはLSD開発の化学者アルバート・ホフマンの著書、LSD -My Problem Child-がCHF 999(151,852円)というプレミアム価格で売られていた。このディスプレイのブロッターも一枚CHF 7で売られていた。
歴史の物理的な資料がたくさん見たい派の私にとっては少々物足りなさがあったミュージアムだが、大人でも子供でも楽しめる作りになっている。医療の歴史が程よくわかりやすくまとめられていて、良かったと思う。日本語未対応なので、ある程度英語がリスニングできる人であれば楽しめると思います。
Novartis Pavillon -Wonders of Medicine-
入場料:CHF 10
営業時間:火曜日~日曜日(月曜日定休日)
10:00~18:00
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