『アタック・オブ・ザ・キラーまんじゅう』書き起こし

『まんじゅう怖い』という有名な落語がありますね。

ただ、ぼくはあの噺がどうにも好きになれないんですよ。
有名な噺なので知ってる方も多いかと思いますが、まんじゅうが死ぬほど怖いっていう人がいて、その人をびっくりさせるためにみんなで寄ってたかってまんじゅうを買ってきたら、その人がまんじゅうをバクバク食べだして、

「まんじゅうが怖いって言ってたのは嘘だったのか!本当は何が怖いんだ!」
「今度はお茶が怖い」

なんて噺です。

この噺、何が嫌かって、登場人物がみーんな意地悪なんですよ。
まんじゅう怖いって人にまんじゅうを買ってきて驚かせてやろうって人たちも意地悪だし、
まんじゅう怖いって嘘をついてそいつらを騙してまんじゅうをバクバク食べる人。

意地悪な人と嘘つきしかでてない落語ですよ。

ぼくはね、この噺をもっと優しい人しか出てこない噺にできないかな?と思って考えてきたんですけども……

「おう、どうしたんだみんな集まって」
「兄貴!今日はみんなでもって集まって兄貴の誕生日祝いをしにきたんだ」
「誕生日祝い?おまえたち、おれの誕生日を覚えていてくれたのか。嬉しいじゃねえか。でも祝うっても俺は酒に弱いタチだからなあ」
「気にしなくていいんだよ兄貴。兄貴は酒が飲めない代わりに大の甘党だろ?甘い物好きの兄貴のためにみんなで兄貴の大好物を用意したんだ」
「おれの好物?するってえと、もしかして、あれか?」
「そう!まんじゅう。兄貴は大のまんじゅう好きだろ!みんなで用意したんだ。でもね、みんなおんなじまんじゅうを持ってくるんじゃあ面白くないってんで、みんなでもってそれぞれ別のまんじゅうを買ってきたんだ!ほーらこんなにたくさん。」
「おお、こいつはスゲエや!色んなまんじゅうがこんなにどっさりと!」
「ほらほら凄いだろ!」
「ハッハ、こいつはさしずめ、まんじゅう大博覧会ってとこだな!オイお茶を沸かしといてくれ。みんなで食べようじゃないか。さてどんなまんじゅうがあるのかな……」

「ほら俺からはね、温泉まんじゅうだ!」
「うん、こりゃ甘くてうめえや!」

「こんどは俺のまんじゅう、蕎麦まんじゅう」
「んん、蕎麦の香りもほんのりとして、こいつはうめえ」

「おれは栗まんじゅうをもってきたぜ」
「こいつは、うん、栗がホクホクしててなあ、なかなか、こいつもうまいなあ」

「おれは紅白まんじゅう」
「紅白まんじゅうか……おれはな、変に思われるかもしれねえがな、こうやって紅、白、紅、白と交互に食ってってな……ああうまい」

「面白い食い方するんだね、じゃあおれのは揚げ饅頭だ」
「なかなかだね。うん、この衣がサクサクとしててな……おっといけねえ。衣の破片がこぼれちゃった」(膝の上に落ちた揚げ饅頭の衣を指でとって舐め取る所作)

「こんどは葛まんじゅう」
「こりゃあ……うん柔らかくってうめえや」

「葬式饅頭!」
「葬式?このへんで誰か死んだか?まあいいや。うん美味い美味い。おれは人死にが出るとな、悲しいは悲しいんだが、この葬式饅頭が食えるってのは楽しみなんだよな……」

「こんどはピザまんじゅう!」
「ピザまんじゅう……?趣向が代わったねぇ。まあいいや。うん、チーズが、こう、伸びてって、うーん。甘い物ばっかり続くと、こういうのも嬉しいねえ」

「ワタシハ、カルフォルニアマンジュウデス!」
「アレックス!お前も故郷のまんじゅうを用意してくれたのか。それにしてもカルフォルニア饅頭とはなあ。何が入って……アボカドが入ってらぁ!ハハ!おもしれえ饅頭もあったもんだ」

「ねえねえ、アタイもとびっきりの饅頭を用意したよ!」
「おう与太郎か。お前の饅頭はなんだ?」
「人食いまんじゅう」
「人食いまんじゅう??変なまんじゅうだね。まあいいや。どんな味が……うわあ!!まんじゅうが!おれに!食いついた!」

「大変だ!まんじゅうが!兄貴を!食ってる!食って…食って…食って…うわわ!兄貴がまんじゅうに食われちゃった!こら!まんじゅう!兄貴を吐き出せ!!!!……ギャッ!おれもまんじゅうに食われる!!うわわ助けて!ぎゃああ!!」
「大変だ大変だ!みんな!兄貴たちを助けなきゃ……ぎゃあ俺も食われた!」
「うわあ!俺も食われる……」
「助けて!助けて!」
「オーマイゴッド!オーマイゴッ!オーマイガッ……」

「大変だ大変だ!とにかく逃げよう逃げ……」

「……とっさに押入れに隠れたは良いけど、こっからどうすりゃあいいんだ?外は……ああ見るも無残な!みーんなまんじゅうに食われちまった……残ってるのは、おれだけか?」
「(後ろから)アタイもいるよ!」
「与太郎か!おめえのまんじゅうのせいでみんな食われちまったじゃねえかよ!そもそもおめえ、人食いまんじゅうってなんなんだよ!」
「いやあ、人を食う人食いまんじゅうっていうからさあ、おもしれえや、ホントに人を食うのかなあって思ってたら……食ったね。ハハハ」
「ハハハじゃねえ!どうするんだよ!」
「そりゃあねえ……アタイの持ってきたまんじゅうだからね。……うーん、アタイが始末をつけるよ」
「始末つけるったってどうするんだよ!」
「食べる」
「えっ?」
「だから、食べるんだよ。人食いまんじゅうったってまんじゅうには代わりはねえや。食べちゃえば良いんだよ」
「食うったって相手はみんなを食っちまった恐ろしい人食いまんじゅうだぞ!」
「だからねえ、人食いまんじゅうったってまんじゅうなんだから食えねえことはねえはずだよ。アタイもね、まんじゅう食うことに関しちゃあ自信があるよ。こないだ町内のまんじゅう大食い大会でも優勝したんだ。相手が”人食いまんじゅう”ってんならアタイはさしずめ”まんじゅう食い人”だね。人食いまんじゅうと、まんじゅう食い人。どっちが勝つか!大一番だ!さあ!」
「ああ!与太郎が飛び出して……まんじゅうに......食らいついた!!……でもまんじゅうも与太郎に......食いついた!与太郎がまんじゅうを食って、まんじゅうが与太郎を食って……食って、食われて、食って、食われて、食って、食われて、食って、食われて、食って、食われて…………消えた。…………相打ちだ」

「……いったいどういうことなんだよ……ホントに誰も居なくなっちまった。おれ一人だ。俺は悪い夢でも見てるんじゃねえか?……あっ……お湯が湧いてらぁ。うん、落ち着こう。お茶でも一杯飲んで落ち着こう。こんな悪い夢からは……ン!ゴボッ!ゴボゴボゴボゴボ……」

こんどはお茶が人を飲んだ。おなじみ、アタック・オブ・ザ・キラーまんじゅうの一席でございました。

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