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理科準備室の泣き声【note文化祭※お化け屋敷】

第三小学校で年に一度の「三小祭り」では、例年五年生がお化け屋敷を出し物としていた。

会場は第一理科室と第二理科室。理科室同士は、理科準備室を挟んで繋がっている。
五年一組の担当する第一理科室を抜けて、休憩室がわりの理科準備室で一息。そのまま五年二組の担当する第二理科室を抜ければゴールだ。

一組と二組は毎年意地を張り合い、威信をかけて各担当教室を演出する。ただし、準備室は中立地帯のため手出し禁止だ。
そのはずなのに。

「ねえ、今年の五年ズルイない?」
「なんで?」
「やって!準備室で人のすすり泣き聞こえたもん!準備室はずるやん!」
「隣の音が聞こえただけちゃうの?」
「隣は泣き声演出なんてなかったもん、脅かす系とドロドロやった。」
「怖くて泣いた子がおったとか。」
「ええ?誰もおらんかったけどなぁ。リタイアなら準備室からそんまま廊下出るっしょ。」


「…って噂があるけど?」
「うちら準備室は何もしてへんよ。二組もしてないと思う。」
「フツーに理科室目張りだけでも作業いっぱいいっぱいやったしねぇ。」
「ずるなんてせんよー。」

無責任で噂好きな小学生は、噂にどんどん尾鰭をつけていく。

「てなわけで三小祭りの七不思議が出来たわけだが、だいじょぶ」
「あかん」

『第二理科室のドアを開けた途端、鎌を持った黒ずくめが突撃してくる』演出にギャン泣き、1人でパニックになり友人を残して準備室に逃げ帰ったあげく、混乱して机の下に隠れ、第二理科室をクリアした友人が気がついて迎えに来てくれるまでシクシク泣いていた茜(二年生)は、既に自分の手に負えぬところまで拡大した噂にお腹がシクシク痛んだ。誰に言い訳すればいいのかもわからない。別に誰も気にしてないのでほっかむりして放置でいいのかもしれない。でも、多分、流行りの噂の震源地が自分か、と思うとお腹がシクシクする。

「ようちゃん、誰にも言わんどってね…」
「ここまでくるとねぇ。」

人の噂も七十五日、とはいうものの意外にこの噂は根強く毎年三小祭りの少し前になるとまことしやかに囁かれていた。



「それやったら、誰か1人か2人準備室におればええやん。リタイア用のガイドで。」
3年後、五年一組となった茜はしれっと学級会で発言した。ようちゃんが横目で見ている。心臓はバックバクだ。
学級会の議題はお化け屋敷の演出について。そしてそこでチラリと出たのは「準備室の幽霊」の話。そう、この3年ですすり泣きは幽霊に昇格した。五年が何かしてるって言われんの嫌やなぁ、二組何かしよんかなぁ、と誰かがぼやいたそれに、茜は答えた。

三小まつり当日一日目午前、茜とようちゃんは理科準備室でのんびり座っていた。
笑いながら、怒りながら、泣きながら、色んな人が次々に通り過ぎていく。

「暇になる隙ないなぁ。」
「最初やしねー、そのうち減ってくんのちゃう?」

お互い昔の話などしない。
ただ忙しなく行き過ぎる人を、いってらっしゃ〜いと見送る。第一理科室のドアから入ってきた一年生がしょぼしょぼ泣いていた。

「大丈夫〜?お姉ちゃんらとおる?」

へらっと声をかける。横目に見えたようちゃんは、ひどく温かく笑っていた。

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なちこさん投稿の「お化け屋敷の思い出」を拝読し、自分のお化け屋敷体験を思い出しまして。

ずらずらっと書いてしまいました。そうです茜はほぼ私です。
ビビりofビビりで、2000字のホラーのお題は「ホラー…ってなんだっけ…?」と頭宇宙猫になってしまい参加することが出来ませんでした…

今回は全く怖くない内容で、こちらのお祭りに参加させていただきました。
りこさん、ららみぃたんさん、なちこさん、委員会の皆様、ありがとうございました。




ここまでお読みいただきありがとうございました。