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1本の金属からはじまるピアノの調律

7、8年くらい前までは調律の最初のラの音を合わせるのに「音叉」を使っていました。

肘に音叉をコンっと当てて振動させるとラの音が出るので、音が止まらないうちにサッと歯でくわえ、骨伝導で聞こえてくる音とピアノの音を合わせます。

これが調律を学ぶときの最初の関門で、音叉を長く綺麗に鳴らすのは意外と難しかったりします。肘や膝など、人によって叩くのに使う部位はそれぞれですが、だいたい良く鳴る部分に当てるとめちゃくちゃ痛いです。アザも良くできてました。しかも音叉は結構重い上に1秒間に440回も振動しているので、日々くわえていると歯が欠けたなんて話も聞きますね。

そんな苦労をしていた基準音合わせですが、最近は音叉を使わずもっぱらスマホのチューナーアプリです。

スマホ以前にもチューナーを使っている調律師はいましたが、なんとなく邪道と思われている風潮はありました(かくいう自分もそう思っていた1人)

でも音叉って体への負担以外にも、温度の変化やちょっとした傷でもピッチが変わってしまう繊細なモノなので取り扱いには気をつかいます。冬場キンキンに冷えてピッチが高くなった音叉をポケットに入れて常温に戻したりするのが懐かしい...

今の感覚だとそもそも除菌もしないでくわえてたのも信じられないですが。

チューナーのほうが正確で早くて管理も楽なので、今はチューナーで合わせるのを否定する声はほとんど聞かない気がします。(チューナーで合わせる弦だけは“見て”合わせているので、他の“聞いて”合わせる弦と差が出ないようにチューニングピンの回し方に気をつける必要はありますが)

ただ、音叉をくわえて調律するのってやっぱり気が引き締まるというか、余分な物の一切無い金属の棒から調律がはじまるのってなんか良いんですよね。音叉自体の音も好きです。使うことはなくなりましたがピアノ調律の象徴という感覚で音叉は今でも持っています。

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