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父が急逝した際に起きたこと、やったこと

父が一人旅の旅先で急逝した。
近親者が亡くなるという経験はそう何度もあるものではなく、まして自分が主体となって様々な手続きに取り組む、となるとたいていの人は1度か2度しか経験するチャンスがない。
取り組んでいく中でインターネットに公開されている様々な記事には大変お世話になり、また現在進行形で参考にさせていただいている。

人が亡くなった後の手続きはいろいろ参考になることも多いと思うので書き残しておこうと思う

母が亡くなった後の手続きを自力でやりきったので記録しておこうと思う
backyard of 伊勢的新常識
https://iseebi.hatenablog.com/entry/2018/08/12/122920

わたしも取り組んだこと、考えたこと、感じたことの記録をまとめて1つのケースとして放流することで、多少なりとも社会に還元したいと考えた。

注意

本稿はあくまでわたしのケースを記録したものであり、後述する前提条件を踏まえた行動である。そして特に専門家の監修を受けたものではない。ご自身のケースに当てはめる場合は十分に注意されたい。特に財産の取り扱いや税金の処理については行政罰を含めた不利益を被る可能性があるため、自信がなければ専門家に頼ることを躊躇してはならない。

前提

  • 母は通院加療や介護のためここ数年父とは別居しており、父は一人暮らしだった

  • 母と妹、それに私は東京、父は東海地方の下側


最初の2日間

本節のTips

  • iPhoneならメディカルID、Androidなら緊急情報を設定しよう

  • 死体検案書は必ずコピーして分散所持しよう

  • 付き合いのある葬祭社、信仰宗派は把握しておこう

  • 棺は大きめが吉

遺体を引き取るまで

父が宿泊していた旅館で、部屋に夕食を持っていったところ灯りが付いておらず返事もなく、電話連絡も付かないため警察・消防の出番となり、発見された。家族につながる緊急連絡先の類いを持っていなかったため、家族に連絡が付いたのは亡くなってから36時間程度経った後だった。妹の働く会社の代表電話経由で色々遠回りして私が窓口となり、警察とやりとりすることとなった。

iPhoneをお使いの方は、ぜひメディカルIDを設定されたい。これはパスコードロックを解除しなくても緊急連絡先や持病の情報にロック画面からアクセスできる。

警察のほうでは遺体を収容後、事件性がないかを調べて死体検案書を作成してくれている。死亡診断書とフォームは同じだが、どこでどう亡くなったかによって呼び方が変わるのである。遺体の引き取りのために葬儀社などを段取ってからまた連絡するようにと指示される。

ここで葬儀社と連絡を取ることになる。生前に付き合いのある会社があればそこに電話一本で済む話ではあるが、あいにくその辺りを父から引き継いでおらず、料金が明確になっているところをインターネットで探すこととした。

言い方が悪くなってしまうが、遺体の発見から時間が経過しており、状態を鑑みても速やかに火葬に進める必要があった。火葬場は自治体の管理下にあり、住所地以外で火葬する場合は割増料金となる。この割増料金と搬送料金を天秤に掛けつつ、遺族の気持ち、今回は主に母の、を斟酌して方針を決めることになる。遺体が収容された警察署は幸いにも県内で、移動距離も100km内外であったため、父の地元近くまで搬送して告別式と火葬を行うこととした。

コロナ禍ということ、また父の知人や取引先といった情報も全くなかったため通夜式も行わず、いわゆる家族葬である。このあたりのスケジュールは火葬場の空き状況に強く依存する。父のケースでは早朝に告別式が設定され、正午すぎには解散する見込みとなった。後述するがお墓の情報が不明だったため納骨についてはスケジュールしないこととした。

朝は雪になるかもしれないという状況だったため、その日のうちに東京を出て警察署近くに宿泊することとした。

遺体の引き取り

警察署ではまず遺体を確認し(ドラマでよく見るあの部屋だ)、死体検案書に医師のサインをもらう。この日は近くの医療機関が休診日だったため、前日に警察が代行してもらってきてくれていた。医療機関には書類作成料金ほかとして33,000円支払った。

死体検案書の準備が整うと葬儀社は遺体を搬送できるようになる。また、戸籍情報がアップデートされるまでの間——死亡届を提出してから目安3営業日——はこの死体検案書が死亡した事実を証明する唯一の書類となる。気を利かせてコピーを取ってくれていたが、なければ2枚はコピーを持っておいた方がよい。スキャンしておくのも有効である。主として死亡保険金の請求時に使う。なお死亡届とセットになったA3サイズの書類だが、証明に必要なのは右半分の死体検案書である。

遺留品のうちいわゆる貴重品については警察でリストアップしている。揃っていることを確認して引き取り書にサインする。

父は旅館まで自身の車で訪れていた。警察の車輌に乗せてもらい、車をピックアップしに行く。車中では父と家族の来歴を詳細にインタビューされた。なにせ連絡がこれだけ付かなかったのである。説明は必要だった。
慣れない道、慣れない車、警察官の先導について行く運転はMPがみるみる削れる経験であった。

警察署で待つ家族と遺留品を車に載せ、先行して出発した父を追いかけて葬儀社へ打合せに向かう。

自動車保険について

ここでしれっと父の車を運転しているが、これはリスクがある。任意自動車保険は使えないものと考えた方がよく、万が一対人・物損事故ということになると自賠責保険の範囲でカバーせざるを得ない。

父は任意自動車保険に配偶者特約を付けており、長男の私は保証範囲ではなかった。仮に家族全員が範囲だったとして、契約者死亡時の扱いは不明である(問い合わせていない)。

そこでいわゆるワンデー自動車保険を契約しようとしたが、どうやら前例がないようで、一社には明確に断られ、一社には契約はできるが保険金の支払いができるかはその場の判断になる、と言われてしまった。

ワンデー自動車保険は基本的に他人に車を借りて運転するときのものである。同じ住所に住んでいる親の車を借りる、という場合は契約ができない。今回のケースは所有者が死亡しており、保険会社からみた実質的な車輌の所有者が誰か、という点にあいまいさがある。父を所有者として見れば私は家族ではあるが住所が違うので契約できる。しかし相続人として所有権を承継している、と見ると契約資格はない。

交渉の余地はあるということでワンデー自動車保険を契約して運転することとした。幸い、父の車が最近の安全装備てんこ盛りだったということも決断を後押しした。

葬儀の打合せ

葬儀社に着くと遺体はすでに到着しており、担当者と火葬までの段取りを打ち合わせる。この段階の打合せで決めるのは棺や祭壇、供花、遺影、遺体への処置といったところになる。

棺の選択はその場で用意可能なものに限りがあり、通常タイプか大きめのものかどちらか、ということになったが結果的に大きめで正解であった。通常タイプの棺というのは170cmまでぐらいの細身な方に合わせて作られており、父には小さすぎると担当者からサジェストされた。なお納棺してみると大きめでもさほど余裕はなかった。
納めてみて決める、などということはできないので迷ったら大きくすべきである。入らないときになにが起きるか、と質問したところ足を組むなどで綺麗に納まることを祈る、ということであった。

祭壇や供花、遺体の処置、すなわちメイクをするかどうか、どれぐらいするか、といったところは見送る方の気持ち次第で、価格と折り合いの付くところでよく話しあって決められるとよい。できる範囲で最大限綺麗にメイクしてもらうこととした。ひげを剃り、舞台用の化粧品を使って血色よく整えてくれる。

遺影については家で探してくることも検討したが、Lightroomにわたしの結婚式の時に撮影した家族集合写真があったので使うことにした。十分に解像度があったので遺影の仕上がりもよくなった。

また、信仰宗派に合わせた手配も行う。父の実家は真宗大谷派だったが、日頃付き合いのあるお寺は把握しておらず、僧職の手配は葬儀社の紹介に任せることとした。

家族葬のつもりではあったものの、警察から問い合わせのいった、生前父と親しくしていただいたご友人からぜひ参列したいという連絡が入った。特に断る理由はなかったので参列いただくこととした。会葬御礼を選定し、これは渡した数で精算することとなった。

内容が決まったところで、契約書にサインする。この時点では火葬場の利用料金12,000円を担当者に現金で支払った。死亡届に記入して渡すと担当者が代理で提出してきてくれて、火葬許可書を役所で取ってきてくれる。

遅めの昼食を取り、宿泊するための買い物を済ませ、父の処置に立ち会った。朝までそばに居ることはせず——追加料金であるのもそうだがやることが無限にあった——いったん父の住んでいた家に戻ることとした。

書類探し

家の状況確認と書類探しである。具体的には遺言書とお墓、債務についての情報を手に入れたかった。

幸い重要と本人が認識していた書類は特定の場所に置かれていたため(整理されていたとは言っていない)、ひとまず自宅に遺言書はなく、貸金庫や公証遺言の類い、法務局の保管制度利用といったところもなさそうと判断した。

前述したお墓の情報とは、墓地の所在によってはお付き合いのあった寺院が分かるかもしれず、納骨にあたって管理組合などへの連絡が必要かどうかといった、お墓を利用するための情報である。場所だけはどこにあるか知っていたが、ほかは誰も把握していなかった。見つかった書類によれば墓地は寺院の敷地内ではなく、管理組合に毎年管理費を支払っているようであった。納骨は四十九日近辺に改めて行うこととし、組合への連絡は後回しにした。

ほか不動産権利書の類いやアクティブな銀行口座やクレジットカード、保険証券を探し、一通り揃えることができた。

おぼろげに相続が一筋縄ではいかない、すなわち綺麗に法定相続分だけで済みそうになく相手方も多くなりそうだと分かったこの段階で、わたしが相続人の代表となって以後の手続きを主導して行うことを提案した。母は運転ができず書類仕事へのモチベーションも低く、妹も職業柄平日昼間に行動することが難しいため特に異存もなくそのように決まった。

この先の様々な手続きは必要書類の関係でスケーラビリティが低く、各々やることを分担する、というよりは窓口を誰かに集約して必要事項だけ各人に記入させる、というスタイルを取った方が経済的にも時間的にも、さらに内外のコミュニケーションコストも低くなる。

棺に入れるものも選んだ。旅行が好きだった父は行った先々のチケットや写真などをまとめてしまっていたので、持っていってもらうことにした。ゴルフに月5回は行っていたというのも思い出し、ゴルフボールも入れることにした。燃えればだいたいなんでも入れてよいようだった。

告別式と火葬

告別式について特筆すべきことはない。喪主として振る舞うといっても人数も少なく、焼香に最初に立つ、棺の頭側を持つといった程度で他の方のお式に参列するのとあまり勝手は変わらない。

火葬場は車で1分の位置にあり、告別式後すぐ火葬に進んだ。炉に納まってから約90分程度、待機時間となる。

このタイミングで葬儀社への最終的な支払金額が確定し、担当者がやってくる。精算書にサインし、支払い方法の案内を受ける。会社によるのだろうが、口座振り込みはもちろんクレジットカードで支払うこともできたので、この時点でまとまった現金が必要になることはない雰囲気であった。

昼食を取りつつ、お骨になった父を帰宅させる。仏壇はないので葬儀社からいただいた簡単な祭壇を組み立てて安置した。四十九日まではそのように居てもらうことにする。

この日が連休初日で、しばらく行政や金融機関の手続きといったところができないため、また宿泊する装備も十全にあるとは言えなかったため、宿泊せず帰京することにした。証券類をはじめとした持ち出すべき書類をまとめ、しばらく家を空けるための片付けを行った。

具体的には冷蔵庫を空っぽにして明らかに捨ててよいゴミをまとめた。自治会のゴミ捨て場に置いていくのは憚られたため、業者を呼んで引き取ってもらった。なお生ゴミを引き取ってくれるところは少ないので、どうしても捨てなければならないときは辛抱強く探すこと。

その月の後半からまた別の旅行に行くつもりだったようでチケット類が見つかったため、帰京しつつキャンセル手続きを進めた。

一週間後の2日間+

本節のTips

  • マイナンバーカードは取得しておこう

  • 取引のある金融機関はリストにして定期的に更新しよう

  • 役所のおくやみコーナーは予約でいっぱい

  • やることリストはTrelloなどを使って共有しよう

タイムリミット

相続の発生、すなわち死亡日から起算していくつかタイムリミットがある。いろいろあるが1年以内に着目すると次の通りである。

  • 3カ月以内: 相続放棄または限定承認の申し立て
    遺産を何らかの形で承継しない選択をしたい場合に。

  • 4カ月以内: 準確定申告
    被相続人が事業を行っていた場合などに、その年の分の確定申告を相続人が代行する。前年の確定申告を行う前に亡くなった場合は前年分も代行する。

  • 10カ月以内: 相続税申告
    資産や債務から遺産総額を確定し、相続税の申告を行って納税する。

特に3カ月以内に何らかの申し立てをしない限りは、プラスとなる資産もマイナスとなる債務も単純承認した=まるっと承継したと見なされるため、相続人の確定と少なくとも債務探しは速やかに始めなくてはならないと考え迅速に行動を開始した。というのは建前で、モチベーションが続いている間に終わらせようと動いた。

戸籍謄本を揃える

死亡届が受理され、戸籍システムに反映されたタイミングで被相続人、すなわち亡くなった父が出生してから死亡するまでの戸籍謄本(現在の呼称は戸籍全部事項証明書)を収集する必要がある。これは相続人の確定のために必要である。被相続人の最終の本籍地でまずは収集を開始する。

出生届が提出されるとその親の戸籍に子としてレコードが出現する。その後結婚するなどで自身の戸籍を持つ、または人の戸籍に入ると、もともと入っていた戸籍には除籍として記録される。このように戸籍を移る度に記録が行われ、最後の死亡除籍から出生したときの戸籍まで一続きに辿ることができる。この一続きの戸籍の中に、例えば子ども達が知らなかった異母兄弟が出現することがあるわけである。

そして戸籍謄本は戸籍のある自治体でしか取得することができない。例えば親元を離れて結婚し、自身の出生地と異なる自治体で戸籍を作成したとする。この場合は最後の本籍地で取得できる戸籍謄本の他に、出生地の自治体に戸籍謄本を請求する必要がある。途中何度か戸籍を別の自治体に移している場合は、それぞれの自治体に請求しなくてはならない(郵送で請求できる)。場合によっては時間も金もかかるので、早めに取りかかるに越したことはない。

私のケースでは、父は出生地で自身の戸籍を持っており他に戸籍を移動する事由はなかった。父の親も代々同じ土地で戸籍を持っていた。ストレートに取得できるケースである。それでもなお法改正に伴う改正原戸籍を含めて4通、取得に3000円かかった。

後にこの戸籍の束をもとに同等の効力を持つ別のアイテムを作成するため、最低限1セットあればよいし、せっかちなので同時並行でいろいろ進めたい、とかでなければそれ以上必要になることはない。

たまに求められるので、1枚でよいので住民票の除票を取得しておくとよい。戸籍から抜けることと、住民でなくなることはリンクしていない。住民票の除票は死亡によって住民でなくなったことを証明する。

その他年金や国民健康保険、市税の手続きなどで全体としては2時間弱かかった。年金等を受け取っていたか、軽自動車を持っていたか、住民税の減免を受けていたか、などといった故人の属性によって必要な手続きは大幅に異なる。

自治体によってはおくやみコーナーを設置しており、予約しておけば1つの窓口ですべての手続きを進めることができる。予約を試みたが1カ月以上待ちが発生するようだったので、自分で窓口行脚することとした。チェックリストのようなものを渡されておつかいするだけのことで、どちらも得られる結果は同一である。

銀行行脚

都市銀行、たとえば三菱UFJ銀行などは相続専用窓口を用意しており近くに支店があればどこでも相続関係の手続きを進めることができる。しかし地銀や信用金庫はそうはいかず、窓口、もっと言えば取引のある支店の窓口に赴く必要があることがほとんどである。ネット銀行を除き、ほぼ郵送で完結することはないと考えて良さそうである。持ち物は最新の通帳とキャッシュカード、自身の本人確認書類、死亡の事実と相続人のうちの一人であることを証明する書類、すなわち戸籍謄本の束である。

この段階で銀行や信用金庫を行脚する目的は、残高証明書と相続手続きに必要な書類を入手することである。残高証明書は現段階で必ず取得しなければならないものではないが、相続の方針決めの材料として必要と判断し、取得することとした。いずれにせよ相続税の手続きまでには必要である。相続発生日、すなわち死亡日時点の残高証明書を取得する。

なお死亡の事実を知らせた時点で故人の口座は凍結され、引き出しや引き落としなどは一切できなくなる。たとえ暗証番号を知っていたとしても勝手に引き出すと後に面倒なことになるのでやめた方がよい。特に相続放棄を考えている場合にそれができなくなってしまうようである。葬儀費用などで当座の現金が必要であれば手続きすれば一定額引き出すことができる

遺言書の有無、遺産分割協議書の有無によるが預金の相続方法はどの金融機関でもだいたい同じであるようだった。相続人がただ一人であれば話は簡単、複数人いる場合は全員の署名を集めて誰か一人が受け取って分配、あるいは遺産分割協議書を用意してその通り銀行が分配するといった具合である。故人の口座を名義変更して承継する、というのも書類に選択肢としてはあったが特定の条件を満たさなければならないようで、提案もされなかった。

遺産分割協議書に分配方法を記載してしまえば、特に法的制約などはないので好きにできる。相続人間でトラブルにならないようにさえすればよい。だいたいどの金融機関でも勧められたのは代表人がまとめて受け取って分配する方法で、仮に金融機関をまたいで振込手数料がかかったとしても一件で済み、書類記入量が減って手続き全体の進行が速くなるとのことだった。

遺産分割協議書を用意する場合も、分配を銀行に任せる場合も、端数の取り扱いは事前に決めておく。また相続開始日から実際に口座解約するまでに利息や配当金が発生する場合があるので、残高証明書の額によって分配額を細かに決める必要はないし、しないほうがよい。解約時には別に計算書が交付される。

金融機関はたいてい9時から15時までしか空いておらず、待ち時間を含めてだいたい1行につき1時間から2時間ほど取られた。必ず事前に連絡し、一日仕事を覚悟すること。

法定相続情報一覧図の作成

前述の戸籍の束と同等の効力を持つ別のアイテム、が法定相続情報一覧図の写しである。これは法定相続情報証明制度に基づき、相続関係を示した図を作成して戸籍謄本の束などと一緒に登記所に提出すると図に登記官が認証文を付けてくれ、その写しを5年間無償で何枚でも交付してくれるというもの。年金から登記の手続きなどおおよそ相続に関わる手続きが戸籍謄本の束の代わりにこの写しでほぼ事が済むようになり、何枚でも交付してもらえるので手続き後に返却を求める必要がない。ぜひ作成すべきである。

図は関係が示されていればフォーマットはなんでもよく、手書きでも構わない。Excel方眼紙でテンプレートが提供されているのでこれを使うのが楽である。提出したプリントアウトをスキャンしたものに認証文がくっつくので、フォントや字の揃えなどこだわってもよい。提出書類は増えるが、住所の証明も写しで済むようになるので、相続人の住所を記載しておくこと。

発行してくれるのは提出した登記所になるので、再発行に備えて提出する登記所は行きやすい場所にしておく。手続きには混雑状況によるものの3営業日以上かかる。完了後取りに行くこともできるし、郵送で受け取ることもできる。郵送の場合はレターパックを添えて提出する。青でも赤でも良さそうであった。

年金から金融機関、信用情報開示や遺産分割協議書に至るまで案外使いどころがあるので、相続人の数+3枚ぐらいは写しを取得しておいてよい。

遺産分割協議書の作成

本節のTips

  • 税理士会がやっている相続税相談会はとても有用

  • 税理士や弁護士に頼むなら最初から頼むのが吉

必要性

遺言書あるいは公証遺書などがある、なくなったのが自分の配偶者で子や兄弟がいない、全員相続放棄する、といったケースを除いては遺産をどう分けました、という協議書を作成することになる。ここで明らかにしなければならないのは次の点である。

  • 対象の遺産すべて

    • 文字通りすべて列挙する

  • 相続人のすべて

    • 前述のアイテムがあれば明らかになっているはず

  • それぞれの配分

    • 特に現金で端数が出た場合の扱いを決めておく

協議書の内容はそれぞれの事情により大きく異なり、いわゆるベストプラクティスがあるわけではない。言ってしまえば相続人全員が納得し、争いの起きない内容であればなんでもよいと思われた。

文例は国税庁や法務局などで見つけることができる。前者は金融資産中心に、後者は不動産を中心に書かれているので、適宜ミックスしていい感じに作っていくこととなる。

実際

一般にこの協議書の作成に多大な時間とコミュニケーションコストを要するようである。税理士や弁護士に頼むのであれば、最初からすべて頼んだ方がよい。税理士事務所や相続に強い弁護士事務所のWebサイトにある価格表は基本的に遺産の特定・分割のプロセスから介入した場合の金額である。

自ら協議書を錬成して相続税申告を行うか、士業に頼むか、次のリスクを天秤にかけることになる。士業に頼むとして、金額的にはおおよそ遺産総額の5%ぐらいであろうか、実際に見積もりを取ったわけではなくWeb上にある価格表をざっと眺めて丸めたところそのようであった。

自ら錬成するリスクとしては次のようなことが挙げられる。

  • とてつもなくめんどくさい

    • 書類の書き方自体はWeb検索でどうにでもなるしツールもある

    • コーナーケースに関する情報はほぼないと考えてよい

      • それが士業の価値なので

      • 税法はどんどん改正されているので検索結果を鵜呑みにするのは危険

      • 信頼できるのは国税庁のWebサイトだけ

  • 税務調査が行われるかも

    • どうやら相続税申告書に税理士のサインがあると税務調査回避効果があるらしい

    • やましいことがなければどうでもよいが調査には立ち会いが必要

    • 調査の上で是正点があれば追徴

      • 書き方が明らかに誤っている場合は事前に教えてもらえる

      • 事前に教えてもらって自ら是正した場合は加算税はない

  • めんどくさいヒューマンへの対応

    • 急に現れる故人に金を貸していた個人

      • もちろん借用書はない

    • 口を出しつつあることないこと触れ回るほとんど付き合いのなかった親戚

      • 私は手伝ってほしいなどと一瞬たりとも思っていない

    • なぜかいきなり電話口で怒鳴る会ったこともない親戚

基本的には前述の金額程度の話であるので、頼んだ方が話は早く楽である。相続税申告まで面倒を見てもらえて、税務調査が入った際も立ち会ってもらえることが多いようだった。

私は今後の相続発生時に役立つだろう……否、面白そうだと考えて自分ですべてやってみることとしたが、趣味性とリスクがかなり高い選択肢である。

お住まいの地域の税理士会がやっている相続税相談会で一度聞いてみるとよい。相談の予約にあたってはすでに発生した相続なのか、これから発生する相続なのかどうかも聞かれ、フェーズにあったアドバイスを得られる。私の地域の相談会では弁護士も同席しており、税理士だけで対応できないマターにもアドバイスを得られるようになっていた。

私の場合はすでに協議書を錬成してから相談会に行ったので、軽く協議書の内容をチェックしてもらって注意点を伺うだけであった(なんならお褒めの言葉もいただいた)。得られるのは無償でできる範囲のアドバイスなのだが、進んでいる方向性が合っていることは確認できたので大変有用であった。このような note や Web に転がる情報を鵜呑みにするよりはよほど有用なアドバイスが得られるので、ぜひ利用されたい。

最後に

このあと保険金請求やら車の名義変更やら不動産登記やら相続税申告やら年賀状のお返事やら父の仕事の後片付けやらが待ち受けているが、あまりに本稿のスコープを外れた話になっていくのでいったんここで筆を置きたい。ここから先はさほど自由度はないので、粛々とやっていくことになる。

理由はどうあれ、いつかは向き合う時が来る。たいていはいきなりそういった状況になってしまうものだが、おぼろげにでもゴールが見えていれば誰かの言いなりにならずに立ち向かうことができる。その一助になればこれほど嬉しいことはありません。

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