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懺悔

あれはいつのことだったか
私がバイト先の先輩に紹介された女性と初めてホテルに行き身体を重ねたのは……
そう
身体を重ねた、その形容が正しい。
当時未成年だったのは確かだ。
私は例外に漏れず健康な男子として正常な射精の矛先を求めていたんだと思う。
それは例えばグラビアを見て、あるいは身近な理想的な異性をみてほとばしる類いのものでなくあくまでその射程距離内にある、いわば手の届く範囲内の例えは悪いがハンターがライフルのスコープ越しに見る獲物のそれだ。
実際に会って紹介されたのはディスコの薄暗い喧騒のさなか。
大きな口を開けて大きな声を出しているんだろうが聞こえない声を唇で読む。
オマエコレカラフタリデキエロ
ダンスフロアで踊っていた先輩が言う。
私は言われるまま彼女の手をとって喧騒を後にした。
街灯で見る彼女の顔は幼く、どこか垢抜けない感じがしたけれどクッキリとした二重瞼が印象に残った。
言葉は質問という形で次から次へと出てきてその合間にジョークを交える。
いいか、女との会話は笑い2であとは真面目な話をしろ。そうするとその笑いが活きてくるんだ。先輩の言うとおり私は優等生となってそれを遂行した。すると面白いように彼女が私に興味を示す。
自分の事はなんだっていい、
なんならウソで固めたっていい先輩からそう聞かされていたけれど私は話をオーバーに脚色はするけれど嘘はつけなかった。
本当に童貞なの君?
彼女は目を丸くし真贋を見極めるかの如く真剣な眼差しで私の目を覗き込んでくる。
ここで手慣れたナンパ師なら用意周到なセリフで虚飾された自分を躊躇なく曝け出すのだろう、でも私にはできなかった。
見透かされたような見下したような優越感に満ちた目が彼女に宿る。
後で聞いたら実際ひとつ年上だったけれどその彼女も実は未経験で田舎から出てきて住み込みで働いているみたいだった。
家はどっち?
寮に住んでいるらしくここから電車で40分くらい。
なら送って行くよとアニキから借りた車で2人街を後にした。
道中無言になりかける気まずさをオートリバースのデッキから稲垣潤一の優しい声が助けてくれる

まっすぐ帰るわけもない。
けれど行き先の定まらぬまま車は夜の街道をひた走る。止まるわけにはいかない、そう思っていた。まるで時限爆破装置が仕掛けられていて目的地に着くまでは止まっていけない、そう自己暗示にかけて土地勘があってないような夜の街をオートリバースが3回機能したあたりで私は信号待ちの際思いきって無言で助手席の彼女を抱き寄せキスをした。無論キスだって初めて。事故的接触では無い互いに唇を吸い舌を絡めるディープなヤツは想像以上に効果があった。空間が狭くなる。
今まで助手席に鎮座していた彼女は崩れ去り雪崩れ込み私の腕の中だ。
クラクションを鳴らされてハッとして弾かれると
後の車がヤキモチを焼いたのかハイビームで私たちを射抜く。
一瞬、ほんの一瞬だが私に炎が灯る
いけない
ここでトラブルはいけない
そう、悪いのは私だ、そう言い聞かせて
ミッションのギアを入れる。
いやギアは既に入っていた
セカンドに
私の心はすでにサードで思いっきり引っ張っている。
途端に頭がフル回転、地図が浮かび行くべき場所にロックオン。
ガレージ式のホテルは誰にも出会わないのがいいと聞かされていたにもかかわらすなぜかカップルが敷地内を歩いている。
慣れた感じだ、
余裕がある。
2人は手を繋ぎこれから始まるワクワクの冒険に心踊らせてるようだった。
選択をミスった。
というか私はやはりテンパっていた。
空室でない、けれど車が止めて無い部屋の前に焦って止めてしまったみたいだった。
土曜日の夜、いい季節だし近くの野池からはカエルの合唱が聞こえる
ご盛んなのは何も人間だけじゃない。
しかし全ての人が運良くパートナーと巡り逢いその先の展開を成就できるとは限らないのだ。
まるで高速で走ってる最中にギアが抜けるような感覚。
待つか、次の場所を探すか
そのチョイスにスーパーコンピュータ並の解析で思考を巡らせるもきっとその高回転は空回りであって正解を導けない。
若いカップルは手を繋いだまま隣の別館らしき建物に入って行く。
私たちは見つめ合い、
意思の疎通をはかり、先ほどしたキスの残像のような思惑が一致し照れ臭くはあるがそのカップルについて行った。
見透かされたくない。
この2人は初めてラブホにくるんだと。
そう悟られにぬよう堂々と振る舞いたいが所詮は若い、若すぎる2人、しかも未経験。挙動が不自然でオーバーアクションになる。が、なぜか罰ゲームのように口を開いてはいけないルールがあった。
待合室、というものなど知る由もない2人は
空室ができるまでその狭い空間で向き合う。
ここはいったいなんなのだ……
ギアはトップだというのにここで待機。
懺悔室だ、ここは
そう思った。
悔い改め懺悔し己を見つめ直せ、
そう申されるのか?
コレから始まる大冒険に水を差すこの間は
私にとって魔なのだろうかそれとも……
思いは逡巡し思考は血流が下方へ流るるにつけヒートアップ。きっと彼女以上に赤面していたのだろう、大丈夫?と心配されてしまった。
それがもうたまらなく失敗し達成できなかった不甲斐なさを助長し意固地になる。
ああ、一体この懺悔はいつまで続くのか
神よ
私は罪を、もしこれから始まる大冒険が罪だとしたら、まで侵してもいないのに何故、何ゆえこのような罰を与えたまるのか、などと大仰に1人悦に入ろうかという時
案内がきた。
きた!
とうとう天国への扉が開くのだ!


#創作大賞2024
#エッセイ部門

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