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四半世紀ぶりの激戦を突破した日本代表

 三笘の少し体制を崩しながらのシュートは、25年前にジョホールバルで決勝ゴールを決めた岡野雅行のゴールを彷彿とさせた・・・。

 

(twitter https://twitter.com/jfa_samuraiblue/status/1506975082924904449より引用) 


 ワールドカップカタール大会のアジア最終予選。
 各グループ2位まで本大会に出場できるこの予選で、グループBで2位につける日本は、24日、3位オーストラリアと直接対決した。
 ここで勝利を得ることができれば、秋にカタールで行われるワールドカップに出場できる大一番で、日本はオーストラリアに対し三笘薫の2ゴールで2-0で快勝。
 見事、7大会連続7回目のワールドカップ出場を決めた。


(twitter https://twitter.com/nikkansports/status/1506951498743582726より引用)   

 このアジア最終予選で、日本代表は序盤の3試合で1勝2敗とスタートダッシュに失敗し、10月12日時点で、ともに3勝を挙げたサウジアラビア、オーストラリアと勝ち点6差をつけられ3位に低迷。
 このままいけば、A組3位とのプレーオフに回るか、もしくはドーハの悲劇以来の予選敗退もありうる崖っぷちに立たされていた。

 しかしその後、「遠藤航」「田中碧」「守田英正」の中盤選手をフル活動させる、逆3角形の4-3-3の属人的システム変更が功を奏してして破竹の5連勝。

 見事予選突破の2位まで浮上して、この日のオーストラリア戦を迎えた。

 これまでの試合どおり、森保監督は固定したメンバーでリスクを冒さない4-3-3の布陣を敷き、ケガ明けでコンディションが疑問視された吉田麻也をセンターバックに置きながら、コンディション不良で出場できない大迫勇也、酒井宏樹の代わりに、浅野拓磨、山根視来を配置する、ある意味「想定通り」のスタメンでこの試合に臨んだ。

 試合前半は、日本代表のバック、ボランチに対するオーストラリアのプレッシャーが弱いため、日本の縦パスが面白いように入る。
 そこから、フィニッシュまで持ち込むことも何回かあったが、南野拓実のヘディングシュートがバーをたたくなどなかなか決まらない。
 
 逆に、日本代表があまりにも高い位置まで攻め込むため、逆にオーストラリアにカウンターをくらい、あわや失点のシーンを何度かつくられるなど一進一退の攻防が続き、前半が終了した。

 ハーフタイム。
 この日は、地上波による全国中継がなく、ニッポン放送によるラジオ中継とDAZNによる中継のみだったが、DAZNの解説をしていた元日本代表岡田武史氏は、前半を振り返って「全体的に間延びしていていてちょっと危なっかしい。点を取れるチャンスが多いので攻めたい気持ちもわかるが、この試合は引き分けでもいいので、もう少しボールを回すなどゆっくり攻めてもいいのではないか」と総括していた。

 岡田氏は1998年に日本が初めてワールドカップに出場したフランス大会の監督であり、2010年の南アフリカワールドカップの代表監督でもある。
 岡田氏の前半総括に、同じくこの日解説を務めていた元日本代表の中村憲剛氏も「持てるのだからもっと時間をかけてもいい」と同意していた。

 後半。
 日本代表は、ボールをキープしながら攻めれられるようになっていき、オーストラリアに攻め込まれる危ないシーンは格段に減った。
 時間がなくなってきたオーストラリアは徐々にボールを相手陣内に放り込む空中戦にシフトしていったが、日本はセカンドボールをうまく回収しながら、リスクを回避していった。

 後半20分に左サイドバックの長友佑都に変えて中山雄太を、トップの浅野拓磨に変えて上田綺世を投入。39分には疲れの見えた田中碧、南野拓実に変えて、原口元気、三笘薫をピッチに送り込む。

 この選手交代が功を奏する。

 後半44分。日本がオーストラリア陣内に攻め込み、遠藤航からボールを受けた右サイドバックの山根視来が、真ん中にいる守田英正にパス。パスと同時にペナルティエリアに走り込んだ山根に守田がワンツーのパスを送ると、そのパスを受けた山根がエンドラインぎりぎりのところからマイナスにパス。そこに走り込んだ三笘薫がゴールを決め、待望の先制点を挙げた。

 

 DAZN解説の中村憲剛氏も話していたが、山根-守田-三笘の3人はかつて、川崎フロンターレで一緒にプレーをしていた中。
 どういうプレーをするか予測できる3人の関係性が生んだゴールだった。

 この後、アディショナルタイムに三笘のダメ押しゴールが決まり、2-0で快勝。

 昨年秋から始まったこの最終予選も、見事に大団円を迎え、この秋に行われるワールドカップ本選に日本代表は挑むこととなる。

 思えば、序盤で1勝2敗となった時、サポーターや識者から「森保じゃ戦えない」「監督を代えた方がいい」との声が相次いだ。
 こんなに苦しい最終予選は、日本が初出場を決めた1997年のフランス大会の最終予選以来だ、との声も上がった。

 岡田武史氏は、試合終了後、「1勝2敗で迎えたオーストラリア戦がプレッシャーのピークだったと思う。でも、あそこを乗り越えて、彼自身はもちろんチーム全体もすごくたくましくなりましたよね」と森保監督を褒めたたえた。
 「成長するときは、やはり困難や失敗の後なんですよ。批判というのは成長させてくれるものなんですよ。でも、面白いことに、批判する人は成長しない。だから森保には自分の成長を投げうってまでその人は自分を成長させてくれる。それは有り難いことなんだと(話した)」とエピソードを語った。

 確かに、岡田氏も同じような経験をしている。
 
 2010年南アフリカ大会の前には、「つまらないサッカー」「世界と戦えない」と酷評され、今回の森保監督の比ではない「岡田解任論」が巻き起こっていたことを思い出す。

 自分も堅守遅攻の「岡田ジャパン」のサッカーはつまらなく、解任論に賛成した一人だった。しかし、彼はワールドカップ南アフリカ大会で2大会ぶりの決勝トーナメント進出という結果を出した。

 また、さかのぼること25年前、アジアに本線出場枠を3枠与えられたフランス大会のアジア地区最終予選では、予選の途中に解任された加茂周監督の後を引き継ぎ監督となり、他力本願に助けられたり、カズ(三浦知良選手)が卵を投げつけられるなどの暴動が起きたりしながらもグループ2位で、ジョホールバルで行われたアジア地区最終決定戦に進み、岡野雅行のゴールデンゴールで見事初出場を果たした。 

 

 実は、若いころの自分は、この最終予選のホームゲーム+ジョホールバルに参戦していて、日本の初出場に対する思い入れは人一倍あるのだが、その話はまたの機会にさせていただく。
 (上記動画の1:00あたりに自分(のような人物)が映っているとの指摘あり)


 いずれ、ジョホールバル以降、日本代表はどちらかというとアジアではトップレベルで、多少の苦戦はあったものの無難に本大会出場できていた。
 
 しかし、カタールやオマーンをはじめとする中東の新興国のレベルが上がってきている現在、アジアといえども安泰ではない。
 そういう意味では、25年ぶりともいえる激戦のアジア地区予選を通過した日本代表にとって、今後対処していかなければならないことが山積している。

 

 その中でも特に重要なのは、誰が代表となっても対応できる日本のプレーモデルと複数のオプションプランを持つことではないだろうか。


 オーストラリア戦の決勝点を見ても、川崎フロンターレで培った山根、守田、三笘の「ここにいるだろう」という信頼と感覚がゴールにつながった。  
 これは、川崎フロンターレで繰り返し練習した(と思われる)原理原則の積み重ねによるゴールである。

 海外組が半数以上占めている日本代表で、ある程度の日数選手を拘束して(川崎フロンターレのように)チームのシステムを理解させ、戦術を落とし込むのは簡単なことではない。
 だとしたら、数日で落とし込める「ある程度の約束事」を決めた日本のプレーモデルを浸透させていくことが選手間の連携がうまくいく近道なのではないか、と思える。


 一方で、約束事や監督のシステムに固執してばかりでは、対戦相手に研究され、システムの穴を突かれる。
 2019年のアジアカップ大会では、まさにその穴を突かれ、決勝でカタールに1-3で敗れている。

 今回の最終予選でも序盤で採用した4-2-3-1のシステムは、初戦のオマーンをはじめ他国に分析されており、その後4-3-3のシステムに変更したことにより6連勝することになったのだが、試合中でも相手の戦術に対応しながら臨機応変にシステムを変えるなどの柔軟性をもったチームにしていかないと、今後本大会における強豪国との対戦に大きな不安が生じる。

 そういう意味で森保監督には、本選までの間に多くの選手を試しながら、属人的ではないマネジメントを期待したいところである。

 とはいえ、今は勝利の美酒に浸っておこう。

 四半世紀ぶりの激戦のアジア最終予選を突破した日本代表に心から敬意を表したい。

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