見出し画像

【畜産について】 食糧生産の手段の一つとして

焼肉美味しいですよね。ステーキもすき焼きも最高!肉料理って本当に美味しいと思います。現代の食事には欠かせない「肉」ですが、その肉を生産する「畜産業」はどのようなものなのか考えていこうと思います。

「畜産」の本質って何でしょうか?人類はなぜ畜産を発展させて牛や豚を飼育して肉を食べているのでしょうか?

美味しいからでしょうか?現代はそういう面も強いと思います。肉が美味しくて需要があるから生産しているということですね。しかし本来は「美味しいから」という余裕のある理由からではないと思います。なぜなら人類が食事をするのは美味しいから以前に栄養を摂取して生きるためだからです。

狩猟も漁業も農業も、そしてもちろん畜産もその本質は「食糧生産」です。人類は何とかして食料を確保するために様々な工夫をしてきました。畜産もその中の一つです。

さて「食糧生産」には狩猟、漁業、農業、畜産が主にあります。この中で「畜産」を敢えて選ぶ理由は何でしょうか?

漁業は海や川がそばにあれば必然的な選択肢です。人間は陸上の生き物なので水中の生物を捕獲するのは難しいという点がありますが、それを補って水の中で勝手に育ってくれる魚を得る漁業は魅力があるということです。

狩猟も漁業も同様に育てる手間がなく自然の中で勝手に大きくなった獲物を得ることができるので楽なのですが、いつでも簡単に獲物を捉えることができるとは限らないので不安定ですし、育てる手間はありませんが探す手間や運ぶ手間が別に必要になるので特に狩猟は現代では主要な食糧生産の手段ではありません。

農業は食糧生産の中で最も主要なものです。自然の影響を受けますがある程度は人間の力でコントロールでき、小さな種一粒から何十倍、何百倍もの収量を得られるため効率が良いのです。種まきから収穫まで多大な労力をかけなければなりませんが住居の近くで作業ができて、大人から子供までやることができる仕事なので食糧生産の労働としては大きな利点があります。

では今回のテーマである「畜産」はどうでしょうか?食糧生産の生産性という点では基本的に農業に劣ります。牛のために牧草を生産するのならば同じ畑で麦や米を生産した方が効率的です。仔牛から成牛になるまで時間がかかりますし、餌を食べさせて水を与えて移動させてと農業以上に手間がかかります。それにも関わらず畜産を主要な食糧生産の手段としていた文明があるのはなぜなのか?

答えは単純で農業ができなかったからです。

川のそばで文明が発達し農業が発展した地域では畜産が主要な食糧生産の手段にはなりません。軍事用の馬や農耕用の牛などの目的で家畜を飼育する場合はありますが、数十頭、数百頭の家畜を大規模に飼育するのは農業に適していない地域における食糧生産手段の代替案というわけです。

例えばアルプスの少女ハイジの舞台はアルプス山脈ですが、山岳地帯は傾斜が多く大きな川も少ないため農業が難しい。よって山岳地帯で多く見られる山羊を家畜として飼育し、乳を絞ったり肉として食べていたわけです。

モンゴルなどの中央アジアの平原は平地ですが川が少なく寒冷なためやはり農業に適していません。草だけはめっちゃ生えているので家畜の餌としてその辺の草を利用して牛や羊を飼いながら草がなくなれば次の場所へ移動しつつ生活する文化が発達しました。川が少ないので家畜の乳や血は重要な水分源です。ですのでモンゴルでは家畜を殺すときに一滴の血も大地に溢さないような手法が編み出されました。また畜産だけでなく狩猟も行いながら日々の糧を得ていました。

このように畜産は農業に適していない内陸の地域での農業ができない地域での食糧生産の手段として発達しました。平地が少ない山岳地帯、川が少ない平原、作物が育ちにくい寒冷地域など、畜産が発達した地域は何かしらの農業に不利な条件が見受けられます。

逆に日本を考えると、温暖で水資源が豊富で海に囲まれていて水産資源が豊富という農業と漁業に適した地域です。ですので明治になって外国文化が入ってくるまでは肉食文化自体がメジャーではありませんでした。肉を食べていたのはあくまで狩猟で得た猪や鹿、熊、山鳥などと農耕用の牛や馬をごく稀にといった食文化でした。それを裏付けるように現代でも狩猟の文化としてマタギの文化が残っているのは寒冷地域の東北以北が主です。温暖な西日本は農業生産が東北以北に比べて用意だったので狩猟で食糧生産を支える必要性が薄かったのだと思います。

以上のように畜産は農業に適していない地域での代替案であることが分かりました。しかし現代では農業が容易な地域でも畜産業は広く営まれています。近代的な管理生産により効率的な畜産業が発達しましたが、一方で農業よりも食糧生産の面では効率的に劣る畜産業が増えれば、本来であればもっと食料が手に入っていたのに少ない量しか手に入らないのではないかという視点もあります。

畜産業は人類に重要な食糧として牛や豚などの肉を提供する一方で、人畜共通感染症などの病害リスクを併せ持っていたり、動物の権利はどうなのかというアニマルライツの問題を含んでいたり、牛のゲップによるCO2排出量の増大の懸念という地球温暖化えの影響を懸念されていたり、糞尿の不適切な処理による水質悪化の問題があるなどと割と風当たりが強い業界でもあります。

日本においては食べることが当たり前になった「肉」ですが、その本質はあくまで食糧生産であり現代においては畜産業がどのように営まれるのが良いのか、経済、文化、政治、環境など多様な面から考えることができます。日々得られる糧に感謝するだけでなく現在とこれからのあり方について考えてみてはいかがでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?