【一次創作】至知なるモノへ尋ねる【#ガーデン・ドール】
"ククツミさん"に手をかけた翌日。
"ククツミちゃん"が生まれたその日。
慌ただしい変化の片隅で、一つの通知が届いていた。
[シャロンさんとククツミさんにウインターチケット1枚追加されます。]
B.M.1424 3月13日
新たなククツミのことを気にかけながらも、少しずつ考えを整理する時間を作れるようになった頃。
偽神魔機構が現れるより、少し前。
……考えを整理することができるようになったのは、転機となったあの出来事を聞いてくれたドールがいたのも大きいだろう。
まさか文字通り「腹を割って話す」ことになるとは想像していなかったけれど。
そこで思い出したのが、使えずにいる一枚のウインターチケット。
雪や氷を用いて遊ぶか、季節の石探索に関わることでもらうことが可能なチケットの存在。
季節の石を探索してもらうことになったチケットは、すべてくじと交換し、もう景品に引き換えてある。
焼き芋と、手袋と、ペンギン型の雪玉メーカー。
焼き芋はその日のうちに食べてしまったので、今手元にあるのが手袋と雪玉メーカーだ。
季節の石探しで得たチケットは、心当たりが存分にある。
だからこそ、心置きなく使えた。
しかし、この一枚のチケットは……。
「……これを試しながら考えてみるか」
机の上に置かれたスタンプに視線を移す。
昨日、自分と同期かつ同じクラスコードなヒマノから何気なく借りたマギアレリックだ。
なんでも雪だるまに押すと、意思を持つとかなんとか……。
手袋と雪玉メーカー、それから大事にヒマノのスタンプを持って、ボクは外へ出た。
上着のフードの中に、単眼の生き物を入れたまま。
なんとなくグラウンドのど真ん中というのも気が引けて、体育館の裏手に回る。
ここでも雪の量は充分だ。
まずは自分で雪だるまを作ってみる。
大きさは、ひとまず手のひらサイズ。
おにぎりを二つ合わせた程度の大きさだ。
……多少歪であることには目を瞑ることにする。
「えーっとスタンプを……」
そんな雪だるまにスタンプを押してみれば、もにもにと動き出す。
「うわぁ!?本当に動いた……?」
しばしきょろきょろとあたりを見渡すような動きをしたかと思ったら一言。
「サミシ……」
「しゃべるのかい!?」
思わずびっくりして飛び退く。
「サミシ……」
「さ、さみし……って、寂しい、のかい……?」
もにもにと動いてこくこくと頷くような動きを見せる。
雪だるまって、寂しいとかあるんだなあ……。
「ちょっと待ってくれよ……よっと……」
今度は雪玉メーカーでペンギン型の雪玉を3つほど作り、それらにスタンプを押していく。
すると、雪でできたペンギンたちがカタカタと動いたかと思えば、てこてこと動き出す。
「本当にこれでもいいんだ……」
しばらく様子を見ていると、雪ペンギンたちが先に作った雪だるまのことを囲み始めた。
「トモ……?」
雪だるまの反応に、雪ペンギンたちはぴょんぴょんと跳ねる。
どうやら雪ペンギンたちは喋ることがなさそうだ。
3体の雪ペンギンと1体の雪だるまたちは、楽しそうにボクの足元ではしゃぎ始めた。
「こ、これは……」
楽しそうなのはいいことだ。
いいことなの、だが……とても困ったことに、壊しづらい。
楽しそうに跳ねまわったり、雪を投げ合ったり、柔らかい雪に飛び込んだり。
そこまで見ていて、ふと思い出す。
「……もしかして」
元々の目的、ウインターチケットの謎。
これについて、雪だるまたちの動きで思い当たる節ができた。
「結局、聞いてみるしかないか……きみたち、無理に潰すことはしないけれど……気を付けて過ごすんだよ?」
「アイ!」
ボクは雪だるまたちを潰すことをあきらめて、体育館裏に置いていくことにした。
雪だるまの返事に合わせて、雪ペンギンたちもぴょこぴょこと跳ねている。
季節の石が回収され、このまま何事もなければ4月になったタイミングでこの子たちは……。
それまでにどうにかしたいが、もしダメだったとしてもそれまでの時間を精いっぱい元気に過ごしてほしい。
そう願いながら軽く手を振り、ボクは校舎の中へと入っていった。
誰もいない静まり返った校舎の中に入り、まっすぐ職員室へ向かう。
「センセー、いるかい?」
[シャロンさん、どうかしましたか。]
「聞きたいことがあったから……今、大丈夫かい?」
[問題ありません。]
相変わらず、淡々とした返答が帰ってくる。
そのように、プログラムされている。
「2/25にボクとククツミさんに渡されたウインターチケット……渡された理由は、聞いてもいいかい?」
[2人が雪遊びをしていたからです。]
「……何が、雪遊びに見えたんだい?」
[2人は雪の上に倒れ込んでいました。雪に人型を作る遊びだと認識しましたが、雪遊びではなかったのですか?]
先ほどの雪だるまたちがしていたことの中にあった行動。
あの夜、ボクが緊張を誤魔化すためにやったこと。
「なるほど……やっぱりあれ、か……いや、ボクが忘れていただけみたいだ。ありがとう」
謎は解けた。
つまりこのチケットは、”ククツミさん”との最後の想い出、ということになる。
最後にボクは、もう一つだけ質問をした。
「ウインターチケットを使わなかった場合、紙切れになったとしても手元に残すことは可能かい?」
[可能です。]
だったら、これは……。
一礼だけして職員室を、校舎を後にする。
静かに自室へと戻り、しばらくウインターチケットをじっと見つめるのだった。
【至知(しち)】
[名・形動]この上なくすぐれた知恵。また、それのあるさまや、それをもつ人。
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