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【一次創作】5度目の討伐を振り返る【#ガーデン・ドール】

「これで良しっと……」

2月中旬。
ボクにとっての『起点』となった日より少し前。
ガーデンの図書室に現れたマギアビーストがいた。

方双魔機構獣 オックトライ。

討伐されてから届いていた恒例のステッカーを自身の手帳に貼るのをすっかり忘れていたのだ。

これまでの出来事を、考察を、疑問を、書き留めておくための手帳。
普通のノートよりも丈夫な革のカバー付きだ。
討伐に参加すると必ずもらえるらしい、マギアビーストを模したステッカーを必ずここへ貼って、どんなマギアビーストであったかを書き留めておくようにしていた。

いろんなことが重なって、今回は届いてから貼るまでに時間がかかってしまったのだが。

「さてと。確かこの時の戦闘は……」

ボクは、オックトライとの戦闘を振り返りながら、手帳へと書き込み始めた。



対策本部から各々武器とバッジが支給され、それらを手にガーデン内の図書室へと赴く。
今まで屋内ということがなかったこともあって、なんだか不思議ではある。
それに……ボクの手には、先日手にした新たな武器が、握られていた。

「 ……箱?」

図書室に入って最初に目についたのは、間違いなく異様な箱。
プレゼントボックスのようだが、明らかに大きいそれを見て、ボクは思わずつぶやいた。

「 なにかでてくるんでしょうかー」
「 ……。ふむ」

この時のメンバーはボクの他にヒマノ、イヌイ、リラ。
ボクらクラスコード・グリーンのドールとしては、魔法や魔術のためにイメージの引き出しを増やす本は大切なもの。
加えて、図書委員の二人は、殊更本を大事にしている。

現に、リラは図書室に入った時から対象をじっと睨んでいた。

「……なんや綺麗やね」

最初は観察、とばかりにイヌイが近づいていく。
毎回初回の出陣のたびに行っていることだからだいぶ見慣れた光景ではあるのだが、毎回ひやひやする。

「ちょい、待っていただけます?」
「ええ。なにかするんでしょう?いいですよ」
「ああ、気を付けてくれよ……?」
「… …お気をつけて」

ボクを含めた3人が見守る中、イヌイがゆっくり近づく。
箱のリボンが、ゆらりと揺れたような気がした。

この後、イヌイの提案で、本当に何もしないのか、様子をみることになる。
念のため、みんな身構えて。

そんな時だった。

その箱はカタカタと動き、
次の瞬間、中から巨大な影が現れた。

「うお」

一番近くにいたイヌイが驚く。

「あ、これ腕にしたことあるやつだー」

出てきた影を見て、ヒマノが冷静に言う。

「た、タコ?!」

本で得たのであろうその姿を、リラが口にする。

「でかい!?」

そして何より……圧倒的なその大きさに、ボクも驚いたのだった。

「うーん、おっきい。一回攻撃してみてもいいですかー?」
「叩いてみなければわからないこともありますよね…?」
「どうする、イヌイさん?」

口々に、待ったを提案したイヌイに尋ねる。

「……少しだけ」

そう言ってイヌイは、出てきたタコ?に握手を試みる……が

ぺちん

と、払いのけられるだけだった。

そんなイヌイを心配するが、どうやら少しぬめりが手についただけで大したダメージではなかったらしい。
……ただ、それだけで終わらないのがこのイヌイというドールだ。
ぬめりがついた手の匂いをすんすんと嗅いでいる。

「…...にゅるってしました?」
「……ええ、だいぶ。あと、なんやろ。」

そんなヒマノの問いかけに対して、手についたものの観察を辞めずにイヌイが答える。
そして……舐めた。その、ぬめぬめを。

「…...たべた?」
「な、舐めたのかい!?」
「イヌイさん?!」

本当に、イヌイの行動には驚かされることが多い。
そんなイヌイの様子を心配していると、どうにも軽く嘔吐いたように見えた。

「大丈夫ですか!?」
「だんない、だんないよ」

リラが声をかければ、イヌイは問題ない(と、いう意味だと思う)と答える。
明らかに問題ないわけがない状況に、リラはタコ型タコ型ビースト……後で判明した名前で呼ぶならばオックトライをキッと睨みつけた。

「とりあえず、危険であることは分かったね……」
「間違ってもアレの粘液を摂取しないように、ですね」
「……うん、やっちゃいましょう」

危険性を認識したヒマノが銃を構えてオックトライに撃ち込む。
そこそこいいところに当たったように見えた。

それを見て、ボクも武器を構える。
現状、ボクだけが扱うことが可能な武器を。

「さて、うまくこいつを扱えるかな……」

ボクの身長の倍はあろうかというそれを、オックトライに向かって振り下ろす。
ザクッと、確かな手ごたえを感じた。

やれる。
ボクは、これを扱うことができる。

身体強化バッジの効果もあるだろうが、今なら確かにこれを振り回せるという確信を持った。

「結局はどうにかしないといけませんから…!」

ボクに続いて、リラが切りつける。
リラの手にあるのは、対策本部から支給されるいつもの剣だ。
うまく切れてはいるようだが、如何せん柔らかい相手で見た目での手ごたえが分かりづらい。

そうこうしていると、オックトライがぬめぬめした腕を振り下ろす。
標的は……よりにもよって、イヌイだった。
それだけして、また箱の中へと閉じこもる。

箱の蓋が閉じたことに驚きつつも、攻撃の矛先となったイヌイを気遣う。

「痛いというより、なんというか。ちょっと失礼」

そう言って、イヌイが本棚から一冊取って開き、何かを確認する。

「中身はなんもなし」
「……もしかして本になにかありました?」
「……。聞きます?」
「それで大体、察しました」

図書委員二人の間で言葉が交わされる。
目には見えない怒りの炎が、二人の周りに見えた気がした。
 
「本、大丈夫そうかい?」
「中身はなんもないよ。表紙とかがね」
「……なんかてかてかしてるぅ…?」

ボクとヒマノが改めてイヌイへ確認をする。
どうやら、オックトライが本に触れたらしい形跡があるそうだ。
そうこうしている間に、リラがオックトライへ近づき、蓋の部分に手をかけてはがそうとした。

「んぬぬぬぬぬ……!」

それでも、外側に出ているリボンが蓋を押さえつけて開くことはなかった。

「り、リラさん……?」
「……中身が本体なら、引っぺがせばいいかと思ったんですが…… 出ているリボン?部分も、イヌイさんが触ったものと一緒みたいですね……」
「く、口に入らないように気を付けるんだよ!?」
「そこは大丈夫です」

そんなことをリラとボクが話している間に、ヒマノがうずうずしているのが分かった

「そろそろやっちゃってもー?」
「……どうぞ」

イヌイの言葉を聞くや否や、ヒマノが銃を構え、再び箱へ撃ち込む。
それを見てボクも素早く構え、続けて箱状態のオックトライへ切り込んだ。

しかし……どうにも、固い。
中身のタコのような部分が柔らかいのに対して、箱はとても固い。
その間に、イヌイがなにやら小瓶片手に何かをしていた……どうやら、ぬめぬめ成分を採取しているようだ。

そしてまた。
その箱はカタカタと動き、
次の瞬間、中から巨大な影が現れた。
どうやら一定時間で出たり入ったりを繰り返す習性があるらしい。

出てきたところをまたヒマノが撃ち込み、リラが切りつける。

「定期的に出てくるんですかね」
「出たり入ったりを繰り返しているみたいだけれど……」
「息をする、みたいに」

そんなオックトライの習性を観察しながら、ボクはポケットから懐中時計型レリック……ラビットムーンを発動する。
周りの動きが止まる。

その間に2度切り付ける……が、まだこの武器の長さに慣れておらず遠心力に振り回された。

「まだまだかな……」」

そうぼやいた頃、また周りの時間が動き出した。
イヌイが盾のカドでずんっとオックトライの足を攻撃している。

次の瞬間、今度はオックトライの8本の腕がボクら全員に向かって振り下ろされた。
盾と銃であるイヌイとヒマノはもちろん、剣を持つリラも回避ができず、ボクもこの武器でうまく受け流すことができなかった。
ダメージを負いつつも、素早く切り返せるのは剣やボクの武器のいいところだ。
リラとボクでカウンターを放ったところで、再び蓋を閉じて引きこもってしまった。

「さて、そろそろ最後の攻撃機会と思われますが…ぼくはやるだけやっておきますね」
「蓋が開けられないのは知ってるので……!」
「ボクもいくよ!」
「……。」

各々が固い箱へ攻撃をぶつけ終わったタイミングで、強制帰還バッヂが起動する。
次の瞬間、対策本部のベッドの上に体がたたきつけられるのは、もはやお決まりのことだった。



「こんなもんかな。アザミさんが触手に絡まれただのとかなんとかも言ってたのと、あと黒い煙幕っと……」

振り返った内容と合わせて、共有スペースに置いた情報交換ノートから得た情報を書き加える。
今回のビーストは、誰かがレリックを壊しただとか、レリックを持った誰かが廃棄になったからだとかという理由ではなさそうだった。
年が明けた時、月が満ち欠けするきっかけとなったマギアビースト……ロータスと、言うなれば同じ。
今回のオックトライ討伐では『海が生える』という形で箱庭へ変化をもたらした。
解明されたオックトライという名前は、別のドールが対策本部で確認したのを情報交換ノートに書いてくれていたのを見てようやく知ることができた。

「……待てよ、外から事象が持ち込まれた……?」

以前、夏エリアへ石を探しに行った際にたまたま鉢合わせたエマから聞いた情報。
依然と言ってもつい最近の出来事だ、少し手帳を遡れば該当の内容がメモされたページに辿り着く。
『誰か』のためにボクらドールは発展を望まれ、そのために箱庭には外からの事象が持ち込まれた。
確かにエマはそう言っていた。

今もなお、それが継続しているのだとしたら……
緩やかに滅びゆくこの箱庭は、もう神に見捨てられたはず。
創造主とやらは、まだ諦めていない?
まだ、ボクらを、ドールを、発展させようと躍起になっている?

……まあ、すべては憶測だ。
それでも、思いついたことは新たに手帳へと書き留める。

「レリックはあくまで制御された異常。制御される前は、どこからきた……っと」

そこまで書き留めてから、また手帳の中身を振り返る。

マギアビーストのステッカーも、これで5つ目。

途上魔機構獣 モニュメンタラーバ
邂逅魔機構獣 ヨコシマロード
冥奏魔機構獣 ヘルスパロット
地縛魔機構獣 ロータス

そして、今回のオックトライ。
対策本部にはもう一体、『灯王魔機構獣 エンペライダー』というビーストについても情報があったが、これはボクらが討伐を行うようになる前に現れたもののようだった。

「次は、一体何が来るんだろう……来ないに、越したことはないのだけれどね」

そう呟いて、ボクは手帳を閉じる。
……まさか、この後とんでもないマギアビーストが出現することなんて知らずに。


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