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【一次創作】拾肆。思考を止めず考察せよ。【#ガーデン・ドール】

B.M.1424 6月1日 早朝

ガーデンの校舎の職員室のあたりから
黒い靄が出ていくのを、確かに自分は視た。

それが、マギアレリックを壊して発生したものと
酷似していたのを、自分は知っていた。

違う。
引っ張られるな。

情に。
感情に。

引っ張られるんじゃない。

自分は、探求者だろう。

自分で視たもの以外を、確定とするな。

「……だから、言っただろう。感情なんていらないって」

靄が発生してから暫くした後。
校舎側の屋上で、何かが儚く煌めいた――。



最初の戦闘についての報告は、別のドールからのものを参照されたし。

自分は、其のドール・・・・・は、いつも通りのことをしただけだ。



同日の夜。

神殿と呼ばれる小屋に保管された古いノートと、グロウがいた資料を確認する。

神殿に保管されていたノートに書かれていたのは、おそらく少女と思われるものの手記。
……いや書き口が少女のようだっただけで少年である可能性もあるのだがそこの言及は今回の肝ではない。

そのノートはほとんどが主観で書かれており事実確認の資料としてはやや客観性が不足していた。

 ・杖型のマギアレリックが存在したらしいこと。
 ・『怪物』に『ノア先生』が奪われたらしいということ
 ・『尊厳を踏みにじった女』の存在
 ・『箱庭を作った神様』の存在
 ・その後『怪物になった』と表現されていること
 ・『怪物に呑まれてみんなを殺した』と表現されていること

この辺りは事実としてとらえてもよい内容ではないだろうか。
『箱庭を作った神様』……いつか聞いた創造主のことだろうか。
『ノア先生』……過去にいた人型AIのことだろうか。

歩みの本によると一度歴史から消えた存在。
不要と判断された存在。

ガーデン内で人型AIを不要と判断したのは誰だ?
その歴史がありながら、あれを試験的に導入したのは誰だ?
そもそも、歩みの本を書き記したのは誰だ?
あれは、誰から見た歴史なんだ?

……思考を戻そう。

ノートを元あった場所へ戻した自分は、寮へ帰るなり、あれが生活していた部屋へと赴いた。

――癖、というのは恐ろしい。
誰もいるはずのない部屋に対してノックをしてしまった。

誰もいるわけがない、と思い直して扉を開ける。
中に入れば喧嘩っ早いと噂の雀がケージの中で鳴いていた。
なるほど、誰もいない、というのは見解に誤りがあったようだ。

ひとまず自分は、謎の額縁と共に発見されたという資料を探す。
机の上にはドールたちからの贈り物であろう品々がそのまま置かれている。
壁にかかったカレンダーには、箱庭内の施設の名前がぽつりぽつりと書かれている。
今回の目的は、それらではない。
目当ての資料が置かれていたのは本棚だった。

その資料を手に取り、ふと目についた折りたたみ椅子を広げて座る。
椅子ならわざわざ出さずとも、机に備え付けのものもあった。
それでもその折りたたみ椅子を何故広げたのかは……自分にも、分からない。
ただそうしたかった、としか言いようがない。

その資料によれば、過去に出現したらしいマギアビーストの情報が書かれていた。
なるほどこの中のいずれかが、ノートの内容と合致するのだろう。
完全に合致させるための材料は自分には不足しているが、おそらく一部のドールの中には合致する別の材料があるのだろう。

そんな思考を巡らせていたら他のドールがやってきたのだが、その話は別のレポートへまとめることとする。



B.M.1424 6月4日

黒い靄が出現したのを目撃してから4日目。
出現したマギアビーストは、箱庭内を徘徊し続けている。

1日目は海と川へ。
2日目は春エリアと夏エリアへ。
3日目は春エリアへ。
4日目となるこの日は、遊園地へ。

少し、この移動に思うところがあって再び例の部屋を訪れた。

ノックは……念のためしておく。
他のドールが訪れている可能性が分かったからだ。
そこに他意は、ない。

一般生徒と呼ばれる非ナイトガーデン生すら無視し続けている要因は?
箱庭内の徘徊の法則性は?

嫌な予測ばかりが頭をよぎる。

違う。

それは、可能性の一つに過ぎない。

部屋の中に置かれたカレンダーに目をやる。
そこには、あれが今まで訪れた場所について、ドールとともに報告書を作った日付が書かれていた。

ガーデン内を除けば、最新の日付に近いものから次の通りだ。

 5月29日 海・川
 5月23日 川
 5月22日 春エリア・夏エリア
 4月14日 春エリア
 4月 7日 遊園地
 4月 7日 仕立て屋
 3月31日 神殿
 3月28日 海
 3月26日 神殿
 2月10日 ゲームセンター
 1月18日 映画館

ガーデンからの通知曰く、今朝あのマギアビーストが移動したのは遊園地だ。
遊園地の報告書の作成をした日には、同日、仕立て屋のメモも書かれている。

「…………明日か、あるいは午後に仕立て屋であれば…………まさか、な」

部屋を出る前に、籠の中の雀に目をやる。
ちゅんちゅんと何かを呼ぶように鳴き続けていた。

「鳥にも感情はあるのかね…………そういうのも、面白いがな」 

そう言い残して、部屋を後にする。
移動に関する考察が正解だったことを、自分はその日の午後に知ることになる。

――あの場所に来たならば。少し考えなければならない。


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