【一次創作】弐。観察開始。【#ガーデン・ドール】
欠陥。
欠点。
欠如。
欠格。
欠損。
欠乏。
微細な違いこそ在れ、何れも「足りない」ことを意味する。
足りない。
決定的に、足りない。
それが何かは、まだ――――
此処で生活をすることになって早数日。
時折共有スペースへ降り人形達の往来を観察した。
何やらこそこそと食料だけ持ち出す者。
眠たげに食事や水分補給だけを行う者。
せっせと他社の為の食事を用意する者。
他者との交流の為、会話を弾ませる者。
自分と同じく周りを俯瞰して視ている者。
この場所には感情が渦巻いている。
会話を弾ませ楽しんでいたり
喜びを分かち合っていたり
一縷の不安を隠していたり
譲れぬものへの怒りをぶつけたり
奇妙な友情であったり
甘酸っぱいような恋模様であったり
本当に、視ていて飽きない。
それと同時に、益々関心が湧いてくる。
「感情」は、何故必要なのか。
「感情」があるから喜べるが、
「感情」があるから悲しくなる。
「感情」があるから惹かれ合うが、
「感情」があるから憎み合う。
時に矛盾をも生み出す「感情」というメカニズムは、本当に何なのだろう。
ふと、自分の胸元に手を当てれば、
確かに鼓動をしているコアを感じる。
恐らく感情を生み出す源であろう「人格コア」。
自分のこの興味という名の感情も、此処から来ているのだろうか。
コアが壊れれば、亡くなれば、新たなものを与えられるらしい。
新たなものを与える、ということは。
感情もまた、何者かに与えられた物なのではないか?
興味深い。
嗚呼、興味深い。
更には魔法ではなく――
コンコンコンッ!
其のドール、ジオがノートへ思うがままに最近までの出来事を書き綴っている時であった。
若干乱暴なノックの音が鳴り響く。
綴っていたノートの内容にあるように、まだまだ俯瞰するばかりで、己の部屋まで尋ねてくるようなドールに心当たりはない。
……否。
ノックの仕方から思い当たる節がないわけではなかった。
扉を開けてから相手の眼が視えぬよう、分厚い硝子の眼鏡擬きを掛ける。
数秒後、心当たりが的中する。
まさかその心当たりから思わぬ塵を押し付けられることまでは、想像していなかったのだが。
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