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【一次創作】弐拾。新たな実験は静かに始まる。【#ガーデン・ドール】

7月初頭。

手強い魔機構獣が出現している最中且つ、其のドールの悪夢も終わったばかりであるし、まだ悪夢の只中にいるであろうドールもいる、そんな中。
そんな中でも、このガーデンという場所は計画されていたプログラム通りに学園祭を開催した。

「出店……出し物……」

其のドール、ジオは改めて学園祭とやらの要項に目を通していた。
しかし、わざわざそんなものに参加する必要もないように感じる。
どの文字も、言葉も、今のジオには響かなかった。

一般生徒と呼ばれるドールを解体してみたりはしたものの、どうにも5月までの好奇心が鳴りを潜めている。
この箱庭には実験対象はまだまだ溢れているだろうというのに。

「新しい実験台でも探すべき、か……」

他者を観察するのは好きだ。
だが、他者と関わるのはそれほどでもない。

彼方から視られるのが嫌だから?

……それだけでは、ないような。

煮詰まった時は糖分を摂取するに限る、と其のドールは自室を後にした。



「あっ、ジオさんだ!こんにちは〜」

LDKと呼ばれるその場所の扉を開けると先客がいた。
白いドール、なたりしあだ。

このドールとは妙に関わることも増えたように思う。
それも、どこぞの世話焼き根暗ドールや、燃え盛り激辛ドールとは異なる形でだ。
ジオにはそのようなつもりはなかったのだが、どうにも好意的な印象だ。
誰にでも好意的なドールというのは確かに複数いるのだが、この白いドールもそういう類なのだろうか……。

「どォもしあさん。何かお食事で?」
「えへへ、何かおやつとかないかな~って探してたんだぁ」
「あァ、なるほどォ……今から何か作りますがァ、召し上がりますかァ?」
「えっ!いいの!?」

なたりしあはキラキラとその大きな瞳を輝かせジオに向ける。
分厚い硝子の壁越しでも分かりやすいその表情に思わずジオの喉がククッと鳴った。

「どォせ幾分かできますからねェ……とはいえ、時間はかかりますよォ?」
「もちろんいいよ~!私もお手伝いするね!」
「では、お願いしましょうかねェ」

なたりしあは傍から見ていてそそっかしいように感じることはあるが、それでいて存外器用である。
フルーツの飾り切りをしたり、ケーキを作ったり。
スイーツ作りの助手にはもってこいだろう。

「さて、何を作りましょうかねェ……特に決めてはいませんでしたがァ」
「むむむ……ケーキ、大福、クッキー、マドレーヌ、羊羹、フルーツ饅頭、プリン、ゼリー、お団子、アイスクリーム……」

ぽつりとジオが呟けば、あれやこれやと出るわ出るわ。
とんだ食いしん坊とも言えるだろうが、どうやら彼女は思考が回りすぎることがあるらしい。

思考が、感情が、溢れすぎてしまう。

…………ふむ?

「全部はできかねますよォ?」
「わ、わかってるもん!」

冷蔵庫や戸棚にあるものを眺めて其のドールは少し考える。

「そうですねェ……ミルク寒天にしましょうかァ、フルーツ入りの」
「わぁ!美味しそう!」
「んふふふ、では、すきなフルーツのカットをお任せしましょうかねェ?」
「なんでもいいの?」
「えェ、ミルクとの相性が良さそうなものであればなんでも」
「どうしようかな~いちご?桃?みかんもいいなぁ~」

再びあれこれと考えだしたなたりしあを横目で見つつ其のドールも他の材料や器具の準備をてきぱきと行っていく。

「あれ?ジオさんそれってパウンドケーキの型じゃないの?」

ジオが用意した型を見たなたりしあが思わず不思議そうに声をかける。

「えェ。大きめの長方形の寒天にしてしまって切り分けるのが楽かと思いましてねェ?あァ、切ったフルーツはその型にほどよい感覚で少し貼り付けてください」
「貼り、つける……?」

土台となるミルク寒天を作りながら指示を出すジオに、なたりしあはますます不思議そうに首を傾げた。

「んふふふ、まァ、その辺は説明するよりできてからのお楽しみですよォ」



内側にフルーツを貼りつけた型へ、荒熱だけとれたミルク寒天を慎重に注ぐ。
余っているフルーツをいくつかミルク寒天の中へも落とし込む。

「氷水で粗熱を……っとォ」

できるだけ早く熱を取るために、型ごと氷水で冷やしていく。
さらに冷蔵庫へ入れてよりよく冷やす。

こうして後に出来上がるのは、表面はカラフルなフルーツに彩られた白いミルク寒天だ。
型にフルーツを貼り付けさせたのは、これが目的である。

「そういえばァ、しあさんはまだ魔術など使えないのでェ?」

熱を取る、氷を作る。
そういったことはなたりしあのような羽をもつクラスコードブルーが使用できる魔術で再現可能なはずだ。
ふと気になった其のドールは、ミルク寒天が冷えるまでの時間で白いドールへ尋ねてみた。

「あ~……じ、ジオさんは笑わない、よね?」
「内容によりますが?」
「うっ……えっと…………その……」

ジオの問いかけに、なたりしあは言い淀む。

なるほど、この言い淀み方は恐らくその域に達していないということなのだろう。
それどころか、基本である魔法すら、まだうまく扱えないのではないだろうか?

詳しくは知らないが、1期生でありながら其のドールが来る前、しばらく迷子であったらしい。
そのため他のドールより後れを取っていることを気にしているようだった。

「もしや、魔法が不得手で?」
「あ、ははは……本当にジオさんはなんでもお見通しなんだねぇ?」
「なんでも、は言いすぎですよォ。状況から、察したまでです」

へらり、と其のドールはいつものように笑ってみせる。

「すごいなぁ……ジオさんなら魔術も使いこなせちゃうんだろうね」
「いいえ?」

何気ない呟きだったのだろうが、なたりしあから発せられたその言葉をジオはあっさりと否定する。

「えっ、なんで!?」
「なんで、も何も……小生、グリーンの魔術は使えませんが?」
「ジオさんができないことなんてあるの!?」

正確に言えば、使える魔術はある。
硬化魔術と縫合魔術と呼ばれる2つだ。

この2つに関してはあまり使用しているドールを見ていないため、研究のため先んじて習得したのだった。
しかしこれはクラスコードに則ったものではない。
その上、ジオにとって期待外れもいいところで、あまりにもカガク的でないものであった。

グリーンの魔術についても知識として知ってはいる。
変異魔術と獣化魔術。
使用するドールが多いため目にすることも学ぶ機会も多くあった。

それらから導き出した総合結果として。

「魔術はァ……あまりカガク的でなく面白くないから、ですかねェ」
「か、がく?」

きょとん、となたりしあが目を丸くする。

「それ、だけ?」
「えェ、それだけです」

きっぱりと答える。
隠す必要も誤魔化す必要もないのだから。

「はえ~……やっぱりなんか、ジオさんってすごいや」
「そのすごいの理由が分かりかねますがァ……あァ、魔法の練習であれば、他クラスといえども何かアドバイスはできるかもしれませんよォ?」
「えっ、本当に!?」
「えェ、魔法はカガク……計算やイメージも大事ですからねェ。使えずともその点においてのアドバイスであれば」
「じゃ、じゃあ今度お願いしても……?」
「もちろんですよォ」

そんな会話をしながらジオは改めて目の前のなたりしあというドールを考える。

感情を抱えすぎて

自分に程よく懐いていて

まだなにものにも染まっていないような、白いドール。

白く見えて、おそらくその中で黒いものを抱えるドール。

……実験台とするのにちょうどよいのではないか?

そういえば、少し前までよく聞いた感情があったな。
自分・・には縁がないと参考程度にだけ聞き、実験材料としては切り離していたが……

其のドールは思わず口元を袖で覆う。
その下でにたりと口角が上がった。

「そういえばしあさん」
「んー?なぁに?」

思い出したその感情の名前は、

「……学園祭の出店、一緒にやりませんかァ?」
「んえぇ!?」

――――恋愛感情。


















所詮バグだとは思うが、何故そんな感情があるのか。

どうすれば恋愛という感情へと傾くのか。

いい玩具にはなりそうだ。




静かだった好奇心が、再び――

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