見出し画像

【一次創作】いつかの記憶。失った記憶。【#ガーデン・ドール】

B.M.1424 4月 ……

ボクは、いつも通り、目を覚ます。
いつも通り?

昨日の記憶といえば、ヒマノくんにとある約束をして、寝る直前にジオくんに取引とやらをもちかけられて。
それから……微妙に、布団に入った記憶がない。

ジオくんと話をしたとき、あのとき時計を見ると、確か日付が変わるギリギリだったはずだ。
つまり……

ボクは端末を確認する。
表示されている日付を。

B.M.1424 4月8日

昨日だと錯覚している日付は、6日だ。

「そう、か……なるほど、こういう……」

状況を把握したところで、机の上に置かれたものを確認する。
報告書と、砂時計と、メモ。

メモには、10時58分に再生されるという内容が書かれている。
今の時間は……6時28分。

「報告書を読む時間はありそうだ」

報告書には、結果としてボクが毒針を手で防いで動けなくなったことが書かれていた。

「うーん……なかなかどうして、対人は難しいね……」

一通り報告書を読み終えてから苦笑いする。
以前のボクも、殺し合いが苦手だからこそ、新たな道標を立てたのだろうか。

“いつもの日課”と、朝食を済ませる。
フルーツビーストがいることで、いつもより料理などの作り置きが少ない……毎朝そこにあるものをいただいてしまっているけれど、大丈夫かなあ……。

朝食を済ませた後は自室に戻り、じっと録音魔法で記録された音が鳴るのを待った。



10時58分。

砂時計から、音が流れ始める。
ボクと……ヒマノくんの、声だ。

「…一日後のシャロンさん、ヒマノです。約束通り人格コアをいただきます。…知るためとはいえ、傷つけてしまったこと、本当にごめんなさい。
シャロンさんが知りたいこと、ぼくでできることなら何でもやりますので…。
シャロンさんからも、何かありますか?」

「いいや……ボクからは、何も。受け入れること、は……昨日から、変わってないから。目が覚めて、何も覚えてない……ッ、はあ……これを聞いてるボクと、一緒だろうね」

「あー……はは……後、安易に、手で攻撃を受けるのは……辞めた方が、良さそうだ。」

「さ……、いつでも、いいよ。だいぶ、毒も……痛い、からね……」

「…ありがとうございます。では、始めますね」

………………。

「…これが…人格コア」

……ごくり……

……。
…………。
………………。

『最終ミッション達成おめでとうございます』

「…来ましたか。こんにちは。『せんせー』。」

『ミッションを達成されたあなたには、選択肢が与えられます。

一つ、ガーデンから卒業する…二つ…』

「ぼくが人格コアを奪った相手…シャロンさんの人格を復元させてください」

『…よろしいのですね。わかりました。』

「はい、ぼくにはこれしか選択肢がありませんのでー。」

『…以上です。ガーデンはキミ達が優等生であることを願っています。』

「…これでよかったのですよね、シャロンさん。…確定。」

「……なるほど」

一通り聞き終えて、小さく息を吐く。
ボクは、ちゃんと。
ちゃんと彼にコアを渡せたのか。


「……ボクだけ黙っているっていうのは、いい加減ずるい、よな」


――誰もいない虚空に向かって、ボクは言葉を零した。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?