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『握りしめた柵と綱』

投稿時の文章では、思い出の場所や心情などを削り単的にまとめたので
この場ではダラダラと綴り、長文となりますがご了承の程を・・・。


引っ越しが多かった人生・・・
大人になってからの新しい場所では、今までの暮らしではない一変する状況に慣れず
それでも整形外科の看護助手(兼レントゲン助手)の仕事にやり甲斐を感じていた。
しかし、元より貧血症で身体があまり強くはないのであろう、
仕事を終え帰宅すると一気に緊張が解けガクンと力尽きてしまうのが腹立だしい。

そんなある日、帰宅したのが19時前。
重怠い身体に座る前に着替えをと言い聞かせ、足元でじゃれつく飼い猫の相手をしながら徐(おもむろ)につけたテレビではアニメが放映されていた。
この頃、日々の忙しさから好きな漫画やアニメ、オカルトの類から離れていた時期で、そのアニメの内容も知らずになんとなく眺めていた。
ー 今はこう言うのがやっているのかぁ・・・ ー

主人公の高校生が異次元から現れた異形の敵と戦う。
守ろうとしているのは体から抜けた霊体の少年。本体と霊体を繋ぐのはお腹から伸びる長い鎖・・・

そのシーンに釘付けとなった私は、お腹の・・・臍(へそ)辺りを抑えながら子供の頃の恐ろしい体験が重なったのだった。

小学2年か3年の秋口だったと思う。
山を削って段々に建てられた家が町並みを形成する長崎では、
大型の商業施設が無く買い物は離れた街に車で出かけるのが主流でした。
(ショッピングセンターやアウトレットモールなどと言う洒落たものはまだ無い時代)

その日家族5人、父が運転する車で長崎市内から国道で時津方面にある大型商業施設へと向かい、道中左手に岩山が現れ、中腹辺りにある絶妙なバランスで立っている大岩が間近に迫ると、兄と私は窓にへばりつきそれを眺めた。
重ねられた二つの大岩、上の岩が下の岩よりも大きい為いつか崩れ落ちるのではないかと、横を通る者がハラハラ、冷や冷やしてしまう・・・その名も『鯖くさらかし岩』。
そんな名がある事を、この体験を書き起こす時に初めて知り、未だ落ちずに聳(そび)え立っているとの事。余談ではあったが書き残しておこうと思った風景の一つ。
「あの岩に人が挟まってんだよ〜」
「やめてよ!そう言う事言うの!!」
兄はいつも人を怖がらせようとし、姉はいつもくだらないと叱咤する。
そんなやり取りの中で、私は流れゆく景色をいつまでも窓ガラスにへばりつき眺めていた。
そうこうしていると目的地に着き、歳の離れた兄姉はそれぞれが興味のある階へと行ってしまい、自分は両親に連れられ日用品のコーナーへ。
しかし、子供というのはじっとしてはおれず・・・
特に自分は落ち着きのない子供だった故【目を離した隙に】を難無くやってのけたのだった。上の階に姉が居る事はわかっていたのでエスカレーターで最上階へと上り、姉を発見するも軽くあしらわれ仕方なく店内の冒険へ出る事に。
暫く彷徨(うろつ)いていると、灰色か暗めの青色の作業着を着た男性が階段横の扉を開けて奥へと消えて行った。その姿を追ってグレーの大きな扉に触ると冷たくて硬い、軽く叩くと鈍い金属音がし、赤いペンキのようなもので書かれた文字に気づくが小学生の低学年では何が記されているのかさえわからず、ただ、この先には面白いものがあるに違い無いと、あまり深く考える事をしない好奇心旺盛なだけの子供はドアノブを開けようとした、が扉はピクリともせず、両手で何度か回しても片足を壁につけ引っ張っても開くことはなかった。
しかし、諦めの悪い自分はそれでも続けていると、フワッと扉が浮く感じがあり全体重をかけ扉を引くと、次の瞬間、まるで吸い込まれるように中へ。
秘密基地のような、何かワクワクするものがあると思っていた期待を、そこは完全に打ち消すものだった・・・

遠くには山が、右手下方には行き交う車の群れ、そして目の前には所々ペンキが剥がれ落ちた鉄の柵・・・外・・・5階の。
急いで振り返り扉に飛びつくが強風に邪魔されてドアノブがうまく回せず、扉を激しく叩き「開けてーっ!!」と何度も叫ぶが、その声も音も風に消されてゆく。
そして突風に叩きつけられた体はドアノブから手が離れ、ゴロゴロと鉄板の上を転がり柵に強打した。間隔の開いた柵に小柄な体がすり抜けそうで、必死にしがみつき抗うが風は容赦なく襲いかかってくる。
反対側にはおそらく非常階段があるのだろうが、その頃の自分は理解しておらず、行けたとしても強風によって転げ落ちていたかもしれない。
なんとか少しづつ扉に近づき手を伸ばす・・・更なる突風が体を持ち上げ、左奥の鉄柵へと叩きつけた。瞬間、ぐるぐるぐるぐる・・・回る視界。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

お腹辺りにあるものを掴み、それを軸に回転する。風車の様にぐるぐると。
回転が弱まった時に掴んだものを見てみると、それは臍(へそ)の辺りから伸びた紐よりは太い縄の様な、綱の様なもの。それから視線を周りに移すと思考が一気に滞った。
眼下には広い駐車場があり、300M程先に自分が居たであろう商業施設がある。
そして自分は凧の様に綱に繋がれて空中を漂い、グッと掴んでいる綱は2、3M先からは薄く見えなくなっていたが、あの建物へと伸びている様に思えた。
また突風に煽(あお)られ回転し、目を瞑り綱を握る手に力を込める。
次に目を開けると間隔の開いた鉄柵を必死に掴む両の手が。
体が持っていかれそうな程の強風。目を瞑り、開くと視界が回転し綱を握る手が見える。

それを何回、何十回と繰り返す中、秋の冷たい風で鉄の柵は氷の様に感じられ体温も奪われて、気力も体力も失いかけたその時、グッと首根っこを引っ張られ尻餅をついた。
軽快な音楽と暖かい空間に何が起きたのか理解が追いつかない自分の背後から聞き覚えのある声が・・・。

「あんたは、なぁにやってんのっ!!!」

驚きと共に、母であるその姿に縋(すが)りつこうとしたが
世の中そんなに甘くはなく、肉厚で重厚なビンタをお見舞いされ生きている実感を味わったのだった。
大泣きする私を父が宥め、母は周りの客や店員に我が子の騒ぎを深々と頭を下げ詫びていた。
私は感情や理性を整頓できず、出来事をうまく伝える事もできず、
いつしか記憶の彼方へと・・・

だが、この体験がきっかけなのか、
感情的な言い合いをした後などに見え方の違う記憶がある事が何度もあった。
怒りと悲しみが入り混ざった感情の時が多く、
現実で見えている視界と、少し下がった位置で自分の肩越しから見ている視界。
または右斜め上から自分と相手を見下ろしている視界。
3M程離れた場所から見ている視界など。
どれも感情が落ち着いた頃に幾つもの視点がある事に気づく。

ふと見たアニメのシーン。
体と霊体を繋ぐもの・・・そのアニメでは鎖だったが、
まさかオレンジ頭の死神代行が「卍解(ばんかい)」する話で思い出されるとは・・・。
どこに記憶の扉を開ける鍵があるかわからない。

案外、世の中 不思議な事が溢れているのかもしれない・・・。


2022年5月8日
『不思議の館』星野しづく様
怪異体験談受付け窓口 四十八日目に投稿

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