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五木ひろしについて

むかし、ラウンジでチーフやってました。
ハァ?という方も多いかと思いますが「ラウンジ」とは、「クラブほどラグジュアリーではない」と自覚しつつ「かといってスナックほど場末じゃないわよ」というジレンマを抱えたママが、自分のお店のことをそう定義するものです。
そして「チーフ」とは、ミネラルウォーターやアイスを補充したり簡単なおつまみを出したり、お客様が多いときはお相手をするなど女性のサポートをする役割なのですが、一般的にチーフを和訳すると「主任」なのでいっちょまえ感があるものの、あくまでも役割の呼称なので採用初日からチーフです。

京都でも祇園ではなく比較的ローカルな立地だったのでお客様との距離感も近く、閉店後に「チーフ!メシ行こや!中華!」と誘われて深夜3時に回鍋肉を涙目でたいらげたり追加で青椒肉絲を注文されたり。一刻も早く帰りたい一心ではありましたがそこは水商売、笑顔で「うまいッス!」一択です。
ママは定休日にお客様のクルーザーで出かけたりしてました、その方は酔って海に落ちて亡くなってしまいましたが。

19時にシャッターを上げて開店準備、20時頃にママや女性がご出勤、深夜1時の閉店後はひとりでお片付け、シャッターを閉じて退勤というのが基本的なスタイルですが、ある日のお片付け作業中、カラオケから五木ひろしの曲がひとりでに流れ出し…おかしいな、カラオケの電源落とさなかったっけ…待って…これ…クルーザーのお客様の十八番…。
生まれてこのかた、1度だけ心霊現象的なものに遭遇したことがありましたが、直感的に「この世のものじゃない」と把握したのはこれが2回目でした。
触るのもイヤだったけどカラオケの電源をオフにして逃げるように退散。

後日、別の曜日を担当しているチーフたちに話してみると、みんな一様に同じような体験をしていました。中には「カラオケのコンセントを抜いても鳴り止まなかった」と涙目で語るチーフもいて、嗚呼、辞め時かな…と思ったものです。

この店は今も営業しています。ママ元気かな。今でもあの人は、夏になれば五木ひろしを歌いに帰ってきてるのかな。
ほかにも色々な経験をしましたが、またいずれ。


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