月、満ちる、懸ける①
躍動する。血潮がとめどなく、逆流しないようにとばかりに足を、必死に前へと、地面を蹴る、蹴る。前へ進むしかない。どれだけ自分自身を削ろうとも、迷いあぐねてうずくまるよりはいいと言い聞かせ、今日も走る。
常に振り返らず、未来へ向けて駆けてるつもりなのに、しかしなぜ逃げているように思えてならないのか。
砂埃まみれのサブバッグのショルダーを握る手に力が入る。
早く風呂に入って汗と後悔を洗い流したいのに今日も先客がいる。
風呂場からは美しい声がエコーがかり、滴のようなハミングが俺の耳を濡らした。
〈つづく〉
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