見出し画像

剃刀で、今はムダ毛を剃っている。

自傷行為、傷跡などに関するセンシティブ(かつ詳細)な記述があります。

大学構内で見かけた木

私が初めて自傷行為をしたのは、中学校3年生のときだったと思う。
進路関係で母と言い合いになり、自室に戻ってたまたま目に入った彫刻刀(ちょうど学校の美術の授業で高麗石を彫って作品を作っていた記憶)を、腕に振り下ろして、切るというよりも刺すような、そんなことを無心でやっていた。嗚咽はせずとも、文字の通り「ぽろぽろと」涙が勝手に出てくる感覚を今でも覚えている。

高校にあがると、学校での人間関係がうまくいかず、人の目がいつも怖いと感じるようになった。だから、とも言い切れないけれど、私はTwitterの世界にのめり込んだ。Twitterでは「彼氏募集中」のタグをつけて、自分の顔の一部を切り取った画像とともにネットの海に放流する。それを毎晩、深夜の1時ぐらいまで。高校2年生では単純に寝不足で頭痛がひどくなり、大好きだった先生の授業中に保健室で1時間寝ていたこともあった。
ネットの世界では基本的に、"私"と"複数の男性"という人間関係だった。”複数の男性”は、全国津々浦々に点在していて、「会ってくれないなら警察に連絡する」と脅してきた”男性”のリプライを見かけた別の”男性”が、「そういうのよくないですよ」と注意して私を”救ってくれた”ということもあった。
私はそういうのにとても弱かった。
DMで話していて、一番住みが近かった他校の同い年の”男性”と3か月だけ付き合っていたことがあった。体の関係を持ってから「次会ったときに告白してほしい」とLINEで言われ、なるほど、と本当に告白してみたら、付き合ってくれた。場所はネカフェだった。
その人との3か月の間、もちろん両親親戚一同の反対を受けた。文化祭の前日、家に帰りたくないと言って祖母の家に一泊したこともあった。
祖母は私の横線だらけの腕を見て、「だめよ」「自分を傷つけちゃ、かわいそう」と言ってくれた。分かってる。自分を傷つけるなんて、だめだというのも。祖母が無責任に言っているのではなく、色々考えて声をかけてくれているのも。だけど今は「こうするしかない」と、本気で思っていた。癖とか習慣とか、朝出かける前にメイクするのと同じ感覚で、「今日は切るぞ」と思いついた日には、切れ味の悪い1000円ぐらいの彫刻刀のうち一番尖っている切り出し刀で、ピーっと直線を腕に入れるのだ。
でもそうしていると落ち着いた。これが私なのだ、とさえ思っていた。
思うように人と関われない、人と関われないから自分のかたちが分からない、自分がこの空間でどのような見られ方をしているのか分からない。これといった趣味もなく、特技もなく、部活にも入っていなくて、ただ授業を聞いているだけ。本当に自分がそこにいるのかも、たまに分からなくなったことがあった。自分の感覚はここにあるのに。周囲からのベクトルが、怖いほどに感じられなかった。
だから腕に傷を入れてみて、じわりと血がにじむこと、少し痛いと感じることに、「私はここにいる」ということの根拠を任せていたように解釈している。

大学3年生まで、頻度は減っても完全にやめることができなかった。

でも、もうずっとやめられているのだ。

私はこれでも教育学部に進学したので、教師の立場で学校に足を運び子どもと関わることが沢山あった。
その中で徐々に、「私は子どもに、傷跡だらけの腕を見せる教師になりたいのか」「せめてあの時苦しかった自分が、頼ってもいいと思えるような私になっていなければ、それこそどの時代の私も報われないのではないか」という思いを持つようになった。
自傷行為をするのが、悪なのではない。
私が私として胸を張って生きることができる方法を考えることができるような、そんな環境を見つけられたのだと思う。
そんな環境とは、学校現場というだけではなく、教育学部で出会った人たち、一緒に教師を目指す仲間、それを応援してくれる大学の先生や中学時代の先生、気づけば10年の付き合いになる地元の友だち、そしてずっと見捨てずにいてくれた家族や親戚 ――――、 書ききれることはないが、21歳にしてやっと気づいた決して当たり前ではない関係すべてのことを指したい。

と、教採を終えた今思う。

私が教師として一番大切にしたいことは、学校が誰もが安心して過ごすことができる空間であるように常にはたらきかけること。
本当に1人1人を見逃したくない。誰のことも、一時たりとも諦めたくない。
前に私は「過去の自分を救いたいがために先生になりたいというのは」という疑問を綴った記憶があるけれど、今はそうではなく、「過去の自分に背中を押されて今の私は教師になりたい」のだと考えるようになった。

たかだかボランティアや実習でちらほやされながら現場に立ったことがあるというだけの教育学部生、ではあるけれど、こんなことを思っている。






今も腕に傷跡が残ってしまっているけれど、
最近は日差しも強いし、UVカットの長袖でもさりげなく着ていようと思う。


今年は学生としては最後の夏です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?