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4.オノシュンスケ「ディスコって」/異形のクロスワードダンス

「ディスコって」はSynsuke Onoによる坂本慎太郎の同曲のカバーだが、「原曲と両A面扱い/坂本がMV制作」という破格の待遇でリリースされたもの。

オノの音楽についてはクエストラブ(Questlove/The Roots)が、オノによるスライ&ザ・ファミリーストーンのカバー集”Electro Voice Sings Sly Stone”を評した言葉として

「his “Crossword Puzzle” is WOW」
(彼の「クロスワードパズル」は驚きだ)

を残している。この曲を含むオノ作品を的確に表していて、つけ加えるものはそんなに無い。しかし、なぜクロスワードパズルを感じるのか、この言葉にビジュアルを加えつつ以下に記す。

クロスワードのゆえん1 互い違い

色々な音が互い違いにやってくる。これはひとつ前に書いたsweet williamやcorneliusもやっていることだが、オノがカバーしたスライ&ザ・ファミリーストーンにも顕著だ。例えば(カバー集には無いが)「In Time」のホーンとギター、ドラムとベースなど。音は順繰りに出てきて、あまり同時に鳴らない。

クロスワードのゆえん2 音の短さ

音のリリースが短い。普通の人間が歌えば「いーまっ」と切って歌っても、小さい「っ」で表せる部分に「ぁ」の母音が漏れるだろう。しかしこのロボ声だと、「いーま」で、容赦なくブツっと切れる。

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波形はイメージです。


さらにボーカルに限らず全ての音がズバっと短く、多くの「間」が生まれる。これが「互い違い」をより強調する。

クロスワードのゆえん3 音色音量の制御

生演奏に比べて音量/音色が一定の幅の中に収められている。大きなダイナミクスがなく、音の短さともあいまってマスの中に整えたような印象が強くなる。

この3つの理由によってクロスワードパズルが発生する。前記事に沿って言うと「オーディオ・クロスワードパズル」。このような音の構造/触感/見え方を作っている音楽家を他に知らない。

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これは普通のクロスワードパズル

音と歌詞があわさったとき、見えるもの

「ディスコって」の歌詞がもつ明確なメッセージは「誰でも自由に踊ったり恋愛していい」ということだ。冒頭からこの場所は

ディスコって男や女が踊るところ

と定義づけられている。「男と女」のカップルではない。男同士や女同士でも、ましてひとりでもOKなのだ、ということが明確になっている。以下続いて全ての人を包摂する。

ディスコは君を差別しない
ディスコは君を侮辱しない
ディスコは君を区別しない
ディスコは君を拒絶しない

(坂本慎太郎はこんなに生々しい言葉を使うのに曲は
「反差別メッセージソング」みたいな青さを持たないところが凄い)

こうした歌詞の「個人の尊重」と音の「多様な個性、交わらなさ」が合わさると、グリッド上に様々な音が踊るディスコのイメージが浮かぶ。

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どんな姿で、どんな踊りをしていても許される。そんな歌詞の世界をオノは「色々な音が距離をとりつつ互い違いに存在していること」で表現しているように思えた。

なお最近、人々がグリッド状に距離をとった図をよく見るが、これは「踊り」に適用された例だ。「踊る集団」が「それぞれの踊り」に分解される面白さを感じる。

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最後に余談。はじめてこの原曲を聞いた前後にフロリダ州ゲイナイトクラブ襲撃があったことは忘れられない。(2016年6月、四年前の今頃)


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