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MUCC第三形態(音楽と人2021年5月号の感想文)

音楽と人 2021年5月号 逹瑯インタビューを読んだので感想文です。

逹瑯さんは隠れ憑依型なのか?
MUCCとしてステージに立っている逹瑯、MUCCとしてオフステージにいる逹瑯をそれぞれ纏っている。俳優が役を演じることは期間があるけど、それを23年間ずっと続けているような印象を抱いた。なかなかタフで、とても真面目じゃないと続けられない。しかもその真面目さが自分に対してではなくて、ファン、メンバー、バンド、同業のバンドマン、いろんな立場の他人に対して働いている。
"本来の自分"とイコールではない自分を共存させて今まで過ごしてこれたのが、"バンドに依存する"という解決策だったのかもしれない。私の会社員としての振る舞いも似ているところは多少ある。私生活では何一つきっちりしたことができない、したくない一方で、仕事で求められることはこなしたい、置かれた立場に於ける責任は果たしたい、会社運営は経営層がやってくれるので、与えられたものをこなす。そうすることで自尊心を保っているところがあったりする(真っ黒な服やバンドTシャツばかり来てるしピアスジャラジャラですが)。
バンドや会社という組織にいることで本来の自分と向き合うことを避けがちなのかも知れない。

では、逹瑯さんが依存しているというのはつまりどういうことなのか。
ボーカルというパート、フロントマン、バンド内外の潤滑油、そういう"もともと得意なこと"のみを役割として担うことで満足しているということなのかも知れない。ここでいうボーカルというのは歌い手というニュアンスが強い。曲作りの方向性はミヤさんが絶対的な権限を持っている。作曲こそすれ、アレンジによって自分が思っていたものと違っても歌いこなすのがボーカルとしての役割と飲み込んでやってきたのかな。潤滑油的なポジションにいるから、自分が自身に設定した役割を超えた衝突は避けてもきたのかもしれない。インタビュー中では触れられていないが、私が好きな逹瑯さんが書く歌詞ももしかしたら「求められているもの」に合わせがちになるのかもしれない。

MUCCというバンドを深く知りたいと思い始めた2年前頃から、このバンドの特徴は"共依存"と"不器用さ"だと思っている。ネガティヴな意味ではなく、MUCCがムックたる要因だし、23年間同じメンバーで続いた要因だと思う。信頼と似ているようで少し違う、依存という感覚。お互いがお互いを好きでいるから成り立つ続けていくため、だからこそ生まれてしまう見えない葛藤とその握り潰しの手段だったように思える。お互いの存在やバンドへの依存、それはバンドの中に自分の居場所を見つけることで自分自身を満足させてしまっている。居場所があるのは悪いことではないが、そこから抜け出したくなくなるのは一種の停滞だし、1つのものを失うことで本来の自分、自分自身を揺らがせてしまうことにもつながる。

逹瑯さんが話す今回のインタビューの言葉達は、その状態から抜ける決意を感じさせる。それは、さっき書いた"もともと得意なこと"以外のこととも向き合うこと、向き合った自分自身としてバンドに持ち帰ることなのではないかと想像している。バンドの中に居場所を見つけて収まっていた自分から、バンドを自身と切り離した存在として向き合う(ある意味、バンドを独立した1つの人格として扱うような)自分になろうとしている。そうすることでバンドの中で自身が勝手に定義していた役割を破って発展を目指そうとしている。そしてそれをYUKKEさんにも求めている。

あくまで私の感覚なだけだけど、活動を長く続けているバンドは、バンドと自身の切り離しをしていることが多い気がする。その半数以上は長期の活動休止と再開、解散と再結成のタイミングでなされていることが多い。MUCCはこの23年間、活動のペースを緩めることなく、寧ろワーカホリックにペースを上げて、転換のきっかけが無いまま過ごしてきた。ともすると転換を避けていたかのようにも思える。それはインタビュー中にあった"腹を括って、強くなっていかなきゃ"という表現に通ずるものなのかもしれない。

明星のコピーに、「第二期、終了」という言葉があるが、これは単純にメンバーの構成の話ではなくて、MUCCというバンドのカタチとしても大きく変わるのだろう。なのでこの感想文のタイトルを敢えて「第三形態」と表現してみた。
「SATOちだって本当は続けたかったはずなんです」「あいつがそうさせるんです」という言葉を受けて、私が好きになったバンドの大事な部分は変わっていない、自分たちの葛藤や心情を動力源にして進み続ける中にSATOちさんの存在も必ず含まれる、と感じた。それならば形を変えていくバンドを肯定的に受け入れてみたいという気持ちが芽生えるインタビューだった。この先に本当に第三形態を迎えるとして、それがどんな結果に辿り着くのか見続けたい。

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