ケース面接Boot Camp~DAY2 花屋のケース_売上向上施策編
前回のフェルミ推定を受けて、売上向上施策を検討していきます。
バリュードライバーを特定する
売上向上施策を検討する際にフェルミ推定を行うということは、ビジネスとしてスケールするだけの規模が存在するかを確認することだと前回記載しました。
ケース面接においては、フェルミ推定の構造を活かして売上向上施策を検討せよと同義になります。
数学の小問(1)が、大抵の場合後続の設問に活用できる場合と同様です。
まずはB2Cの構造を確認します。
まずはユニーク購入者数を構成する要素のうち、人口は自助努力ではコントロール不可能であるため除外できます。
また、購入頻度のうち購買頻度についても、個々の生活スタイルや可処分所得に依存してくる部分ですので、ここを大きく変えていくことは難しいかもしれません。
一方で購入する割合(購入者層)のドライバーは、変えていくことができるかもしれません。ただ女性に関しては男性よりも購買機会が多いという仮説に基づいているので、これ以上割合を増やしていくことはホワイトスペースの広さからして、比較的難易度が高そうです。
男性については、20代30代の男性が花を購入するようなイメージは付きにくいため、シニア女性と関係が深く、花を目にする機会が多いであろうシニア男性については、購入割合を増やしていく難易度が一番低いだろうし、2倍の数値でもせいぜい10%というホワイトスペースの大きさを考慮すると一番現実的だと想像できます。
では、ここを深堀していくかというとそうではありません。
冒頭のフェルミ推定構造式はあくまで市場全体を構造化したものなので、1社あたりの売上向上施策を検討する際には、もう1つシェアという重要なドライバーを追加する必要があります。
花屋のようなビジネスはECサイトに出店して物流手段も確保して全国展開しているストアはごく一部の大手であり、1店舗の経営者がそこまで対応していることは稀でしょう。つまり、コンビニやスーパーマーケットのように商圏ビジネスを展開していると考えられます。
したがって、商圏の中で如何に自社を選んでもらうのかを考えていくことが最も現実的であり、実行可能性も高いということです。
先ほどの購入する割合を増やすために、シニア男性をターゲットにプロモーション展開していくのは、どちらかというと市場規模の拡大を狙ったものであり、業界首位の企業が実行していく戦略です。
その他大勢のシェア1%以下程度の中小・零細企業は、どうやってシェアを高めるか、つまりどう差別化していくか、を小さな商圏の中で検討することがビジネスの鉄則です。
こういったビジネスのセオリーを無視して、教科書的に施策を検討すると、最終的に「本当に売上が上がるのか?」という疑問に対するロジックが破綻していきますので、注意してください。
コンサル経験者でない限り、転職エージェントはこういったコンサルティングやビジネスのセオリーについて知見のある人材はほぼいないので、練習する時は慎重に見極めるようにしてください。
したがって、B2C/B2Bにおいて注力すべきバリュードライバーは、1人当たり購入額を含めた以下となります。
※B2Bも結局は顧客が変わるだけで、商圏のビジネス需要の中で自社シェアを高めていくという基本的戦略は変わりません。
+自社シェアを高める
++B2Cのシェアを高める
++B2Bのシェアを高める
+1回当たり購入額を増やす
++B2Cで購入額を増やす
++B2Bで購入額を増やす
バリュードライバーの課題仮説を構築する
注力すべきドライバーを特定した後に、いきなり施策を検討していくとロジカルに繋がらず、施策の根拠を提示することができなくなります。
ある施策の出発点となっているバリュードライバーが抱える課題は何か?という視点で、深堀していく必要があります。
自社のシェアという観点で検討するときに有効なフレームワークは4Pです。
【課題仮説】
+Product
・自社が扱っている商品が、人気やトレンドに沿わないものになっている
・シニア女性向けの品ぞろえが少ない
・花以外の周辺商品の品ぞろえがなく、顧客にとって不便である
・生育のアドバイスなど専門知識による付加価値が少ない
・花の見繕い等のサービス・センスが悪い
・接客態度に愛想がなく、客とのコミュニケーションが不足している
+Place
・立地が駅のメイン出口ではなく、閑散としており人通りが少ない
・オフィス街に面しており、顧客は住む住宅街からアクセスが悪い
・スーパーや商業施設内で出店している競合に顧客が流れている
・そもそも駅自体の利用者数が少ない
・地域の世帯構成が独身世帯やヤング層が多く、来店が少ない
+Price
・価格が相場よりも高い
・仕入れ値が高騰して価格転嫁せざるを得なくなり、単価上昇している
+Promotion
・シニア層を取り込むためのチラシや看板等がなく、認知されていない
・SNSやWEBサイトの更新がなく、店の雰囲気が掴みづらい
・セールやポイント制など、リピート率を高める施策を打てていない
・Google Map等の広告出稿をコストと捉え、投資を実行できていない
他にも思いつく仮説をいくつか挙げていき、ロジカルに課題の仮説を構築して、売上向上のストーリーを組み立てていきます。
施策=課題の解決です。
ビジネスは何かしらの課題やユーザーの”不”を解決していくことが本質です。課題なしに施策立案はありえないです。
施策を構築する
これまでの分析を踏まえて、ストーリーを構築していきます。
+自社シェアを高める(B2C)
++商品やサービスの魅力を高めて付加価値を上げる
①フラワーマーケットのトレンドをタイムリーに取り入れ、顧客が買いに来た時に高い確率で目当ての商品が存在するような仕入れ体制を構築する。
販売実績データから特定の曜日や時間帯での販売が多ければ、そのタイミングでの機会損失を最小限にする。
②店員や従業員に対して花の知識や生育条件を教育し、顧客に対して適切なアドバイザリーができる状態にしておく。わからなくても一緒に資料で調べるなどの質の高い接客を行うことで、顧客満足度を高める。
++立地や販売チャネルを改善する、単価を上げる
③シニア層が多い通りやスーパーなどに、ワゴン販売を出店することで投資をできるだけ抑えて商圏を拡大していく。資金力があれば住宅街へリロケーションしたりすることも可能だが、実現可能性は低い。
④訪問販売や小距離のデリバリーなどのサービスを展開して、付加価値を高めつつ単価の上乗せも狙う。
++広告やプロモーションを強化する
⑤住宅街などにポスティングを行い、店の認知度を上げたり、来店してくれた顧客にポイントカードを配布することでリピートのインセンティブを増やし、顧客を囲い込む。
⑥WEBサイトやSNSを頻繁に更新して、競合他社よりも存在感を出すことで差別化を図る。独自のサービスやセールなどを積極的に発信したり、Googleの口コミの評価を高めるような返信コメントを記載する。
+自社シェアを高める(B2B)
++商品やサービスの魅力を高めて付加価値を上げる、単価を上げる
⑦納入先の結婚式場や葬儀会社に対して、迅速な納入体制を整えたり、保証サービスやカタログの改良などサービスの品質を高めていく。花のセッティング方法や鉢の種類、セッティングサービスなどのオプションを積極的に提案して顧客の支払い単価を上げていく。
また仕入れ値の上昇があれば、法人顧客に対しては価格転嫁の交渉をする。
++広告やプロモーションを強化する
⑧法人営業を強化して、積極的に商圏内の法人に対して営業を行う。
WEBサイトで簡単に発注できるようなサービスを開始し、デリバリーは外部委託することで少ない投資で商圏を広げてビジネスチャンスを拡大する。
施策に対しては実施コストと想定効果、効果の発現時期、リスクで評価することで優先順位を決めていくのが普通ですが、定量的な目標が与えられていないので今回は省略します。
施策は単にプロモーションする、品揃えを良くする、という回答では回答になっていません。
それはビジネスを経験していれば多くの人が思いつくレベルであり、コンサルタントとして売上向上のための施策を提言するレベルではありません。
具体的に、どのように行うのか、というところまである程度リアリティを持った回答をすることが印象を良くするために非常に重要であり、差別化ポイントとなります。
その施策は現実的で、その施策を実行できれば本当に売上が上がりそうだというイメージを持てるところまで深く考えるように練習してください。
こうした施策出しの具体性については、普段から如何にビジネスにアンテナを張っているか、具体的なケース事例を読み込んでいるか、経験しているか、という素養が現れてくる部分です。