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【美術ブックリスト】『世界史で読み解く名画の秘密』内藤博文著

ジョットとイタリア都市国家、ラファエロと教皇たち、ミケランジェロと反宗教改革、レンブラントとオランダ海上帝国など、誰もが知る画家と当時の歴史状況あるいは歴史上の人物との関係を解説していく。ルネサンスがほとんどだが、ゴーギャンと帝国主義、ピカソと世界大戦など近代までカバーしている。
ここまでが概要。

ここからが感想。著者は1961年生まれの歴史ライター。私より10歳ほど上の割には、言葉が古いというか、あまり使われない言葉が散見される。「奸雄」(かんゆう. 悪知恵を働かせて英雄となった人)、「梟雄」(きょうゆう、残忍で勇猛であること。あらあらしくて強いこと)など、読むことすらできない言葉が登場して、間違いではないのだろうけど、正直読みにくい。歴史好きにはよくあるのかもしれない。

レンブラントの《夜警》が、実は昼間の市民自警団を描いたことは割と知られた事実。表面が黒く変色したために後の人が夜の景色と勘違いして通称《夜警》とされている。面白かったのはレンブラントにこの絵を発注したのが、ほかならぬ描かれた市民隊だったこと。それまで絵画制作を依頼したのは王侯貴族や教会関係者だったが、通商と金融で覇権を握った17世紀オランダでは市民階級も経済力をつけ、絵画を発注した。特に複数で画料を出し合って、集団肖像画を頼むことが多く、《夜警》以外だと、《ニコラース・テュルプ博士の解剖学講義》はアムステルダムの外科医師組合だった。こうした同業者組合には金持ちが集まっていたとのこと。

肖像画というと芸術家の自由な創作ではないように思われがちだが、歴史的には注文画の方がメジャーだったことを思い知らされた。現代の画家は、自由と独創性を重視するあまり、注文で絵を描いたり、他人からテーマを与えられることを忌避する傾向にあるけども、決してそんなことはない。むしろ積極的に注文を受けた方がいいのではないかと思った次第。

253ページ 新書判 1485円 青春出版社



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