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【美術ブックリスト】『近代日本美術展史』陶山伊知郎著

著者は読売新聞社の事業局で、多くの美術展に携わり、2020年に退職したらしい。
いまでは当たり前のように美術館で開催される展覧会だが、その歴史を一望するような基本的な書物が見当たらないことに気づいた著者が、長年の調査の末に著した通史が本書。明治期の書画会、文展、大阪の百貨店で始まった美術展などの生成期、社会の近代化とともに新聞社の知の民主化の一環として美術展が開催されるようになった大正期、戦時下の動き、戦後の美術館と新聞社の連携事業、大型展の時代など、時代ごとに美術展が担ってきた役割やそれを実現するための人材やスポンサーの動きを、「ツタンカーメン展」「ミロのヴィーナス展」「モナリザ来日」といったエポックメーキングな具体的な展覧会とともに解説する。

概ね1870年代から1970年代の100年の流れを示したのち、エピローグでは百貨店美術館の閉館、新聞社の宣伝に頼らない美術館運営、新聞社における文化事業としての展覧会から収益優先の事業としての移行など、現況が語られる。
140点以上の図版と美術展年表、美術館創設年表、展覧会名索引、人名索引が付いている。
本文、資料とも横書き。
ここまでが概要。

ここからが感想。
新聞社出身だけあって、文章が平易で記述が客観的。一文が短く、段落も適宜入れられて細かく章立てされて見出しも的確なので、一般的な歴史の本に比べて読みやすい。いわば新聞記事を読むように、見出しと図版だけを拾い読みするだけでも流れは大体わかる。

展覧会史の基本資料を意識しているだけあって、年表や索引も便利。欲をいえばカラー図版を増やして欲しかった。また展覧会の社告はあるけども、例えば「○○展に数千人の列」などの写真付きの新聞記事もあっても良かったような気がするが、自画自賛を嫌ったのだろうか。

各美術館に一冊、できれば各学芸員が一冊購入して手元においておくといいと思った。

前回の『展示の美学』が最先端の世界の展示だとすれば、こちらは日本の展覧会100年を振り返る内容。展覧会の現在と過去をクロスオーバーさせることで、今後の可能性も見えてくるような気がする。

371ページ B5判 7600円+税 国書刊行会

カラー口絵〉
はじめに

第1章 日本における美術展の生成
 ◆美術展の先駆け
 ◆殖産興業と美術
 ◆官僚・町田久成の宿願と新政府の模索
  ❖COLUMN|蜷川式胤
 ◆美術品公開の進展
  ❖COLUMN|牧野伸顕
 ◆百貨店(デパート)の登場
 ◆先行する大阪
  ❖COLUMN|大阪・三越の北村直次郎
 ◆画廊の出現
  ❖COLUMN|雑誌『白樺』の展覧会、美術館構想
 ◆ヒユウザン会展と読売新聞

第2章 文化需要の増大と美術展の担い手たち
 ◆社会の近代化、教育の拡充、新聞の大衆化
 ◆知の民主化としての言文一致と新聞の事業展開
 ◆歩みだした全国紙(中央紙)の美術展
  ❖COLUMN|大正期新興美術の高揚と新聞の前衛展への関わり
 ◆明治・大正時代の博物館・美術館と美術展
  ❖COLUMN|華族コレクションの入札
 ◆皇室化と近代化の距離

第3章 拡大する美術展のコミュニティ
 ◆デルスニスと仏蘭西現代美術展(仏展)
  ❖COLUMN|ヴィルドラック
 ◆資生堂のギャラリー活動
 ◆関東大震災後の美術館事情
  ❖COLUMN|1928 年の西洋美術展ラッシュ
 ◆在京新聞の展開(1)──東京朝日新聞
  ❖COLUMN|大阪朝日新聞の事業
 ◆在京新聞の展開(2)──読売新聞
  ❖COLUMN|引き上げ船で相まみえた両雄──読売新聞・松尾邦之助vs 朝日新聞・衣奈多喜男
 ◆在京新聞の展開(3)──報知新聞
 ◆百貨店(デパート)の美術展と新聞社
  ❖COLUMN|出版界の美術を巡る動向
 ◆西洋美術展のたそがれ

第4章 戦時下~戦後初期に形成された連携の枠組み
 ◆百貨店(デパート)の苦難
 ◆新聞社の選択
  ❖COLUMN|音楽における新聞社の戦争協力
 ◆戦時下の博物館・美術館と美術展
  ❖COLUMN|戦時下のダ・ヴィンチ展
 ◆百貨店と新聞社の連携
  ❖COLUMN|終戦と美術展の新たな一歩
 ◆終戦直後の展開

第5章 日本型の連携と現代美術、海外へのまなざし
 ◆連携の本格始動
 ◆毎日新聞の現代美術展
 ◆読売アンデパンダン展の胎動・誕生
 ◆ポロック、ロスコの日本初登場──「読売アンデパンダン展」第3回展
 ◆国立博物館と新聞社の初の共同主催展──マチス展
 ◆大画商との提携──ピカソ展
  ❖COLUMN|並走する舞台芸術の企画
 ◆世界画壇への窓──日本国際美術展
 ◆共振する時代の直観
 ◆新しい美術館の登場
 ◆百貨店(デパート)の展開
 ◆日本美術の企画と博物館・美術館、百貨店

第6章 ドキュメント 世界との対峙
 ◆ルーヴルの名画展を目指して──フランス美術展
 ◆異文化へのアプローチ──メキシコ美術展
 ◆世界に開かれた目──ザ・ファミリー・オブ・マン写真展
 ◆「アンフォルメル旋風」──世界・今日の美術展
 ◆陛下と皇帝の共演──ペルシャ美術展
 ◆日本への遠い道──ゴッホ展
  ❖COLUMN|幻のレジェ展と小林秀雄とのゴッホ巡礼
 ◆海藤日出男
  ❖COLUMN|草月
 ◆乏しい国の文化予算、民間の貢献
 ◆松方コレクションの遥かな“来日” ──国立西洋美術館誕生前史

第7章 新聞社 それぞれの戦い
 ◆朝日新聞の名画名品への挑戦
  ❖COLUMN|パリの日本古美術展
 ◆衣奈多喜男の大企画──ミロのビーナス 特別公開
 ◆国側の“プロデューサー” 外交官・萩原徹
 ◆朝日新聞の快走──ツタンカーメン展ほか
 ◆毎日新聞の美術展の拡張
 ◆五輪記念──ピカソ展
 ◆毎日新聞の20世紀美術展
 ◆読売新聞、方法論の模索
 ◆世界をお願い行脚──シャガール展
  ❖COLUMN|シャガールとミロのヴィーナスの交差
 ◆読売新聞と西武百貨店の連携
 ◆フランス政府の後押し
  ❖COLUMN|追い風となったフランスの文化外交
 ◆日本経済新聞のトップ外交による海外展
 ◆急伸する中日新聞・東京新聞
 ◆並走する産経新聞
 ◆競争の激化──スペイン美術展vsゴヤ展
 ◆コレクション展時代の幕開け
 ◆ドールトの“磁力”と印象派企画の本格的な始まり

第8章 博物館・美術館の展開と100年の到達点
 ◆博物館・美術館主導の海外展の登場
 ◆国立西洋美術館
 ◆東京国立博物館
 ◆東京国立近代美術館
 ◆関西における展開
 ◆海外展に参画する公立美術館
  ❖COLUMN|百貨店から生まれた画期的展覧会──銀座・松屋「空間から環境へ」
 ◆国による世紀の展覧会(1)──万国博美術展
 ◆国による世紀の展覧会(2)──モナ・リザ展
 ◆ある到達点

エピローグ 「長い20世紀」の終わり
 ◆百花繚乱の時代へ
 ◆それぞれの変化
 ◆「長い20世紀」の終わり


出典・参考文献
図版一覧
あとがき


資料編
◆美術展年表
◆美術館開設年表
◆索引(展覧会名/会場名/人名)

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