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クラウドファンディングと詐欺

「パリ・ルーブル美術館で開催されるアートフェアに出展したい」「ロンドンのジャパンエキスポの出展費用として」などの謳い文句で、資金を募る人をクラウドファンディングのサイトでたびたび見かけます。
その多くは、駆け出しの画家やハンドメイド系の作り手のようです。作品を見たという業者から出展の誘いのメールが届き、アーティストとしての夢を実現するためにその資金をクラウドファンディングで募るというパターンです。

これははっきり詐欺とはいえないまでも、出展料目当てのかなり悪質な業者にひっかかっています。作家は被害者でして、それと知らずに資金を募り、出展料を支払ってイベントに参加したとしても、作品はほとんど売れず、出展料が回収できないどころか多額の旅費を支払うことになります。
それでもクラウドファンディングを利用した場合、応援のために数千円、数万円を支払ってくれた賛同者に返礼をしなければならず、作家としての活動そのものが危うくなります。気をつけてください。
以下によくある嘘を列挙します。

【会場】
[嘘]パリ・ルーブルで開催されるアートフェア「 Salon Art Shopping Paris 」
[真実]会場はカルーゼル デュ ルーブル。ルーブル美術館の敷地につながる地下通路にすぎない。ルーブルというだけで、美術館と思うかもしれないがそうではない。そこで年2回開催される「 Salon Art Shopping Paris 」は作家自身が出展する蚤の市のようなもの。プロの画商が出展するアートフェアとは、そもそもの概念が違う。いわば地方百貨店などの外の壁面づたいにご当地の食品を売っている簡易な市のようなものだと思ったほうがいい。

【費用と内訳】
[嘘]会場費3日間、往復輸送費、通訳料などで50万〜60万円
[真実]会場費は全然安く、ほとんどは斡旋業者のマージン。

【勧誘の言葉】
[嘘]「ネットであなたの素晴らしい作品を見た。目の肥えたパリの美術ファンに紹介したい」という業者の言葉
[真実]アーティスト志願者の海外展示の夢を悪用した誘い文句。作品はまともに見ていない。見ても評価できるほどの見識はない。来場客は入場無料で入ってくる一般の人で特に美術に興味はない。「フランスの著名評論家」「教授」といわれる人たちも実は無名の自称評論家。

【販売の可能性】
[嘘]平均単価●万円なので、日本の2〜3倍にしても大丈夫
[真実]まず売れない。値段を下げても売れない。一個売れたらかなりラッキー。売れ残りの返送にもお金がかかるため、最後は廃棄するかもしくはタダ同然で配布することになる。

【業者の対応】
[嘘]作品移送から帰国まで手厚い支援
[真実]すべて下請け業者任せ。展示会場にスタッフは顔も出さない。

【キャリア】
[嘘]アーティストとしてキャリアになる
[真実]まったくならない。というかこれに出展したこと自体が恥ずかしくて誰にも言えない。それでも、これをきっかけに次につながる出会いがあればいいので、完全に無駄とは言い切れない。

実はこうした高額な海外出展の斡旋業者は、昭和の時代からいて、例えば会社勤めを引退後に絵画教室に通い始めたり書道を始めたビギナーを相手に、海外での個展を企画して渡航と出展料として数百万円を請求する例が多数あった。
夢の実現のために退職金を費やして支払った結果、実際には画廊とは名ばかりの倉庫のような空間に形だけ作品を展示し、来場者はおらず、当然一点も売れずに帰ってくるというものだった。作品の移送、展示、返送はしているので業務は履行されているため詐欺にはあたらず、泣き寝入りするのが通例で、それが現代でもかたちを変えて続いている。

現在、クラウドファンディングに挑戦中、あるいは支援が成功している人を見かけるけども、多くはその後どうなったかの報告がない。それどころかリンク先にしていたはずのインスタのアカウントが削除されていたり、ホームページが消えていたりするので、やはりいい思いはしていないのだろう。
十分に考えた方がいいと思った次第。

上記は美術業界の常識なので、業界の人に聞けばだれでも教えてくれる。信頼できる画廊や先輩画家、学芸員などと普段から交流して意見を求めれば教えてもらえるので被害は防げるのだが、独りで活動していたり、駆け出しだったりすると相談相手もいないのでひっかかりやすい。注意しよう。

追記
そもそも作品の出展に費用が発生すること自体、普通ではありえない。
展覧会でも作品販売サイトでも、出展は無料で、売れた場合にマージンが発生するというのが基本。出展に金銭が発生するとすれば、デザインフェスタなどの自主参加イベントや貸画廊だけである。

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