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【美術ブックリスト】出水徹著, 土方明司監修『出水徹 作品集 Toru Izumi Works of Art』

出水徹(1926-)は師範学校卒業後、故郷の小豆島で教職についたものの、学問の道を志して早稲田大学で哲学科を学んだ。卒業後は独学で絵を制作。日展ののち1961年からはモダンアート展を中心に、グループ展や個展などで発表してきた。90歳を過ぎた出水の初期具象絵画から最新の抽象作品まで、タブロー100点とデッサン127点をオールカラーで紹介する画集。ここまでが概要。

ここからが感想。画家は大学で実存哲学を学んだらしい。確かに人間の苦悩の姿を描いた作品やいかにも現代社会の疎外状況を描いたような作品も見られる。ところが作風としてはアンフォルメルやシュールレアリスムの影響が認められるため、特に哲学的という感じがしない。

もともと絵画が哲学的である必要はないのでそれはそれでいい。問題はむしろ、こうした作品や作風を語る適切な言葉を見出せていないことだろう。それは評論家についてもいえるし、制作者自身にも言えると思う。それが顕著なのはbeingと名付けられたシリーズで、「人間」とも「存在」とも訳されるbeingの何を表現しているのか手がかりすらない。思わせぶりではあるけれども、思索を汲み取ることは難しい。それは画業全体にもいえる気がした。

7700円、30 x 24.5 x 1.9 cm、168ページ、アルテヴァン


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